第15話 束の間の休息 喜びも束の間
担任の鑑野鈴がやって来た。
教室へ入り、開いたままだった扉を閉める。
「後ろも閉めてくれー」
「はーい」
一番後ろの席の女子が後ろの開いている扉を閉める。
俺は扉が閉まった事を確認するついでに教室内を軽く見渡す。
クラス全員が着席している。なんとなく察しがついた。
「おはよう!」
「おはようございまーす!」
先生の挨拶に皆は大きな声で挨拶をする。相変わらず、生徒の信頼がなぜだか厚い人だなと感じた。
「えー、昨日は掃除をしてくれた委員長、ありがとう」
なぜだか鑑野鈴にお礼を言われると薄気味悪い感じだ。
「で、残念ながらその掃除をしてくれた委員長が今日は学校を欠席している」
(おいおいーー掃除をしてくれた委員長はここにもう一人休まずに来ているぞ)
端から俺はお礼を言われてなかったようだ。
「えー!先生、何で天道さんは休んでるんですか?」
そうだ。彼女が何故休んでいるのかーー
もしや原因は俺にあるのだろうか。だとしたらまずい。問題解決に多大な影響が出てしまう。
「一応、ただの風邪とは聞いているんだが」
内心、少しホッとした。
「あー、最近はまだ寒いもんねー」
「俺は家では半袖だけどな!」
「うそー。バカじゃん」
「あはは」
クラスの男女がそう言って笑ってはいるが、ちょっとした事でクラス内が盛り上がるこのシステムはどうにかならないだろうか。
ましてや、人が体調不良で寝込んでいるかも知れないということを聞いて、よく笑えるものだな。と、何故だか分からないが少し腹が立った。
「そういうわけで今日の委員長は一人だけだが頑張ってくれ!よろしく」
ん?何を頑張ることがあるんだ?
よろしくされる理由が分からないが、普段の学校生活内での委員長としての立場や振る舞い的なものを頑張れば良いということなのか。
「それじゃ、今日も一日頑張ってくれ!」
と、言い残し去ろうとする。
「あっ、今日の六時間目はこの教室でHR《ホームルーム》だから!よろしくー」
と、扉の前で振り返りながらそれだけを言って教室を後にする。
俺は天道桜が欠席したこと、それによって天道桜との誤解を解く予定が計画倒れになってしまったことを考えていたが、それよりも今日こそは平穏でまともな一日が過ごせるのではないかと新入生のそれとは違った期待を胸に膨らませていた。
今日の時間割は、基本的に移動はなく教室で座学のみだ。そして、一応悩みの種であった天道桜もとい、あのノートも手元にない。
これは久しぶりの学校生活を満喫できるぞ。
そんなことを考えて一人気持ちが舞い上がり、そんな気持ちが表情に出ていた。
「うわっ、なんか笑ってる......」
「きもっ」
こんな言葉が聞こえてきたのだが、今日の俺にとってはこんなことすら笑って流せる。
一人でにやけているとチャイムが鳴り一時間目の授業が始まった。
それからというもの、期待通り淡々と授業をこなしていき、授業と授業の合間の休憩時間には予習と復習を済ませて昼食後すぐに今日出た課題を終わらせ、残りの時間を読書に
我ながら無駄のない完璧なスケジュールだ。
心なしか今日は勉強も読書もすぐに頭のなかに入る気がする。
寝不足のはずだったのだが、不思議と眠くならない。もう、何から何まで今日の俺は完璧な気がしてきた。今日だったら、天道桜にも積極的に話しかけられたかもな。なんて、調子に乗ってみたりもする。
だが、そんな有意義な時間もそう長く続くはずもなかった。
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