第11話 本当の嘘 嘘の本当
俺は顔を上げて、彼女の顔を見る。
その表情と言葉はまるでーー恐る恐る問いかけるような、確認のようなその問いに否定して欲しいという気持ちが込もっているようだ。
だが、それと同時に覚悟は出来ているとも受け取れるように感じた。
俺はここまで来たらもう嘘は付けないと思い、また嘘を付いてもバレるだろうし、余計に彼女を怒らせて、事態は収まらないと考えた。
不確定なリスクに望みを託すよりも、ここでリスクを確定する方が最低限のリスクで済むと、俺の停止寸前の思考が最後の悪あがきで瞬時にそう考え、決断を下した。
「はい......」
「どこまで?」
「え、えーっと......」
天道さん、この『はい』は敬語の『はい』なんですが......。
なんてもちろん言えるわけもなく、そこを突っ込んでもらえるとも思っておらず、どこまでという問いになんて答えれば良いのかがいよいよ分からなくなってしまった。
こうなった俺の思考は凄い。
吹っ切れたと言うべきだろうか。
天道桜に臆せずに弁明を試みる。
「ま、まぁ表紙と、一ページくらいかな?あはは。いやー、ごめんね。勝手に見ちゃって」
よしっ、我ながら良い弁明ができた。
これなら、見たという事実を肯定しつつ、それ以上の見られてはいけないページは見ていないということに出来て、誰も傷つかずに事態を収拾できる。俺はもしや思考が働いている時よりも停止した方が天才なのではないか?
と、自惚れてみたりもする。
その間に出来た沈黙を自分から破ると、かえって怪しまれると思い相手の返答を待つ。
「ほんとに......?」
きた!よしっ、きた!
この返答は人の言葉を信じようとする人が、人の言葉を信じるために使う問いかけだ。
これに『本当』と返せば大抵の人は信じてくれる。いや、もうこの言葉が返ってきた時点で、その人からの信用はもう始まっている。
あー、良かった。神様ありがとう。
ーーなんて心のなかで感謝をしている自分と、勝利を確信してガッツポーズをしている自分の二人が居ることが分かった。
正直、もう疲れた。あとは、この言葉を言うだけで終われる。あー、もう終わりにしよう。
俺は自信満々に言う。
「うん!本当だよ!」
この時の俺は、自分でも分かる位の笑顔だった。まるで、ずっと悩んできた難題を解決したかのように、ずっと抱えてきた悩み事を解決したかのように。
その両方が解決したかのようにーー
「嘘つき」
次にきた彼女のその言葉で、一気に現実に戻された。
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