第8話 思っていたのと違う 思っていた以上に違う
委員長の集会での話は掃除の話だけではない。
「先生!委員長の仕事って何すればいいんですか?」
一年生が不安そうな顔をしながら元気良く訪ねる。
「良い質問だ。えー、委員長といってもプリントを集めたりノートを集めたりするだけじゃないぞ」
主な仕事は、日直の補佐のような仕事ばかりだと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
教室のみんなが鑑野先生の方を見て静かに話を聞く。
「この一年間には大きなイベントがたくさんある!遠足、体育祭、文化祭、クリスマス会、それに加えて二年は修学旅行。それらを委員長は実行委員として務めることになる」
みんなが期待を込めた眼差しをしている中、鑑野鈴が話を続ける。
「そこでだ!来月の五月には遠足がある。みんなが実行委員としての大きなイベントの初仕事はこれだ!」
「おぉー!」
みんなの反応が意外にも良い反応である。
俺はてっきりブーイングの嵐かと思っていたのだが......
(そうか。委員長ともなる人は責任感が強い人で、人を引っ張っていくようなタイプの人たちだから実行委員なんて得意中の得意じゃん)
自分と同じような人は居ない事に気付き、そもそも味方なんて居ないということを悟った。
「先生!遠足ってどこに行くんですか!?」
一年生が期待を胸に質問をする。
「えー、二、三年生は知っていると思うが、うちの学校は毎年五月に河原でバーベキューをすることになっている」
良い反応とがっかりしている一年生が半分に分かれた。おそらくバーベキューをしたい人と、虫とかが気になったり、観光でどこかの街に行ったりしたかったやつらだろう。
「五月の下旬を予定しているため、もし気温が高かったら川に入って遊ぶこともできる。ちなみに去年は川遊びをして次の学校の日に風邪を引いたやつも居た」
何人かが笑う声が聞こえた。
ふと隣を見ると、天道桜が後ろを向いて、河合瑞希と微笑み合っていた。
「ということで、各クラスごとにクラスのみんなに配るためのしおりを作ってもらう」
一年生のみんなが小声でざわめく。
二、三年生は一人を除いて普通の反応だった。その一人というのはーー
(えっ、なにそれ。聞いてない。なんでそんなめんどくさい物手作りするんだよ。てか、去年のあのしおり学年全員同じやつじゃなかったのかよ。クラス別とか知らねーよ)
俺は美術と無縁の生活を送ってきたため、何かを作ることには向いていないのと、去年の委員長を見て簡単そうだと思った事が既に間違いと気付いた事で、下を向きそれからの話はあまり耳に入ってこなかった。
「高山くん?大丈夫?」
隣でクラス一の美少女であり、本日の放課後に一緒に掃除をすることになっている天道桜の声で我に返った。
「あっ、うん。大丈夫」
あうんさえ使えば
「よかったー。委員長一緒に頑張ろうね!」
正直、俺には荷が重すぎて辞退しようかとすら考えていた。
「あっ、はい」
だが、クラス一の美少女が満面の笑みでこちらに向けて一緒に頑張ろうね等と言われたら頑張るしかなくなるのが男というものだ。
「一年間、よろしくお願いします」
深々とお辞儀をしてくれている天道桜を見て、
「はっ、はい。こちらこそよろしくお願いします」と、天道桜よりも深くお辞儀をし、こう思った。
(そりゃモテますわ)
美人で誰にでも優しくて落ち着いていて愛嬌があり礼儀正しくて謙虚。
さすがに他人にあまり興味のない俺でさえも危うく心が持っていかれそうになる。
委員長に対して凄まじい不安がなければどうなっていたか分からない。
「さーくーらー!私もよろしくね!」
河合瑞希が軽々しく天道桜に挨拶をする。
「はいはい。瑞希もよろしくね」
と、返す天道桜がお姉さんのような振る舞いに見えた。
「やったー!相棒くんもよろしくねー!」
高山くんから相棒くんに変わった辺り、俺の名前を覚える程の価値は無かったのだろうか。
少しショックであったが、そんなことは顔に出さずに
「は、はい。よろしくお願いします」
と、無表情で返した所でチャイムが鳴る。
「では、来月の連休明けに提出だからそれまでにしおりを完成しておくように!解散!」
と私(わたくし)の担任がおっしゃっているので、
「お疲れさまでしたー!」
みんなが大声で挨拶をした後(のち)、教室から人がバラバラと出ていく。
一言、鑑野鈴に辞退の相談をしようと立ち上がろうとすると、
「私たちも行こっか!」
天道桜がまぶしいくらいの笑顔で顔を覗かせていた。
「あっ、はい!」
顔を覗かせているのはさすがに驚いたため少し大きな声になってしまった。
鑑野鈴が一瞬、こちらを見たので、話しかけるチャンスではあったが、今日の所は天道桜の笑顔に免じて大人しく引き下がるとしよう。
「私も一緒にいくー!」
河合瑞希が後から元気よくついてきて、自分の教室まで美少女二人を引き連れて帰った。
こんな贅沢な事は恐らくもう二度とないのではないかと内心思っていた。
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