第7話 可愛いはつくれる 可愛すぎるはあざとい
後ろから女の子の声がして振り返ってみる。
そこには、どうやら天道桜の友人であろう元気な黒髪ショートカットの女の子が嬉しそうにこちらを見ている。
いや、こちらと言っても決して俺を見ているわけではなくてーー
「みっ、瑞希か!びっくりしたー」
天道桜が驚いた表情で話す。
「え、なになに。もしかして今年は桜が委員長?」
「え、まぁそうかな?」
「やったぁー!!一緒に頑張ろ?」
「うん。てか、瑞希は今年も委員長なのね」
「そうだよー!去年あたし評判良かったからさー」
俺はこの二人のやり取りを見ているだけしか出来なかった。このまま教室に入っても良いのだろうか、それとも少し待ってた方が良いのかということだけを堂々巡りに考えていた。
そんな俺のことを見て天道桜が、
「とりあえず、教室入ろっか!」
と、言ってくれて無事に教室に入ることができた。
だが、教室前であれだけ騒いでいたのだから当然注目されることになってしまった。
「桜が可愛いから皆見てるよー?」
「やめてよ!もうっ!」
注目された理由がとても前向きなことから、この瑞希という人の性格や生い立ちがなんとなく分かった気がする。
それと同時に、注目された理由が後ろ向きだった俺の性格と生い立ちを再確認することができた。
自分もこんな風になれたらなぁーと思う。
隣のクラスだったみたいで、後ろに瑞希が座る。
「そういや、相棒くんは何て言うの?」
とうとうきた。一応は、先の堂々巡りの間に少しだけ想定してたことではあった。
「えっ?あっ、えーと、高山です」
だが、何せ女の子との会話のパターンが記録されていない俺の脳では演算することが出来ずに解なしとなってしまったのだ。
結果、名前を答えるだけなのに不必要な七文字まで言葉に出してしまっていた。
「へぇー。高山くんね!私は瑞希。
笑顔で明るく自分の名前を呼んでくれて、かつフレンドリーに下の名前で呼ばせようとしてくるあたり、実にあざとい。
だが......とてつもなく可愛い。
「はい、よろしく。河合さん」
少し照れてしまったのがバレないように無表情で返す。
「あはは!面白いね!高山くんって!」
と、満面の笑みで返してきた。
彼女は何が面白くて笑っているのだろう。
皆目検討もつかないでいると、隣の席の相棒ちゃんが、
「高山くん、ごめんね。瑞希ったら、いつもこうなの」
と、フォローをしてくれた。
「いや、いいよ。別に」
と、気にしていない事を伝えた所で最強の味方がやってきた。
(キンコーンカンコーン)
「あっ、はじまるよ!」
瑞希がそう言うと同時に教室のドアが開く。
「はーい、みんなお待たせー!」
聞き覚えがある声がしたと思ったのも束の間、そこには自分のクラスの担任であろう女性が入ってきた。
「えー、この度、全学年の委員長の担当となった鑑野鈴だ。よろしく」
そういうことか。昨日の委員長決めといい今朝の掃除係といい自分の都合の良いように仕組んでいたのか。
一杯食わされたような気持ちになった。
「やったー!鑑野先生だー!」
「先生可愛いー!」
上級生の生徒にはとても好評である鑑野鈴に敵意さえ感じ始めていた。
「で、さっそくだが今朝担任から報告があったと思うが今日の掃除当番は委員長に任せる!」
「えぇ~~」
「なんで委員長なのー?」
と、やはりここの教室の人達は今回ばかりは味方だ。あの忌々しい敵をみんなで倒そう。
「委員長はみんなの見本とならなければならない。そこで、最初の掃除でクラスのみんなに掃除の見本となるよう委員長にはやってもらいたいのだ」
もっともらしい事を言って、どうせ先生たちの評判を良くしたいだけだろうな。
「なるほどー!」
「でも、どうせサボるやつもいるでしょ」
たしかに。いくら見本を見せたとして、その見本通りにしないやつなんてたくさん居るだろう。
「サボったやつは私が指導する」
真顔でそう言うと、
「それはヤバい」
「そうなるとサボれないな......」
と、迫力が伝わったのか一気に掃除の肯定ムードに変わった。
指導というのはどんなだろうーー
と、考えているうちに掃除の話は幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます