第2話 話したからといって長くならない、話さなかったからといって短くならない
辺りが静まり返っている中で、自分一人にスポットライトが当たってるかのような西日が教室を明るく照らしている。
まるでこの世界は自分一人かのようだ。と錯覚せざる終えないくらいには静かである。そして、ちょうど良い感じに体育会系の部活の声が聞こえるのでなおさら独りよがりにはうってつけだ。
そんな中、あるものを見つけてしまう。
(さて、誰も居なくなったし、そろそろ帰るか)
そう思い、重い腰をあげたそんなときだったーー
「んっ?なんだこれは」
自分の席の近くで一冊のノートが落ちているのを見つけて拾う。
そこにはこう書かれていた。
「日常ノート......?」
日常ノートと綺麗な字でタイトルが書かれておりノートも汚れひとつなく折れ目もなく新品のようであった。
「要は日記ってとこかな?字も綺麗だし日記なんか書くってことは女子のものかな」
まぁ、女子だろうがなんだろうが興味はなかったが他人の日常は自分にとっては非日常であるためそのノートをすんなりとは手離せなかった。
「興味はないが中身を見たら誰が落としたかヒントがあるかもしれない」
なんとなく他の人が見つけて中身を見られたりするのは良くないと思い、充分自分も他人なことを忘れて中身を見て持ち主を探してあげようとした。
表紙をめくった瞬間、衝撃が走るーー
なんと、一ページ丸々寸分の狂いもないような規則正しく並べられた文字達が出迎えてくれた。
「これは小説か?」
一文字一文字が同じクオリティでかつ高クオリティで綴られている。
まるで機械で入力したものを印刷したかのような繊細さだ。
「すげぇーなぁー。内容は......まぁ、ごく普通な一日を過ごしてるようだな」
文字にばかり気がいってしまい肝心な内容はあまり頭に入って来なかったが、少なくともただの日記であり、ヒントもあまりなかった。
というか、ここで重大な事に気がついてしまったのだーー
なんと、俺は加藤以外の人間の日常を全く知らないどころか、基礎データも知らないというか覚えていないため、例えヒントがあろうとも俺にはわからないのであった。
「持ち主には自分で見つけてもらうか」
そう思いノートを閉じようとした瞬間、ページがめくれた。
「うっ!!」
それを目にした瞬間、俺は思わず声を出した。
なんとそこには先ほどとは打って変わっておびただしい程の罵詈雑言が殴り書かれていた。
「なんだこれは!?」
読むのも怖いくらいの汚い言葉遣いであったため、恐る恐る身構えながら読んでみるとーー
(三月十九日 今日は朝からうざい。こっちは大人しく習い事してやってんだから、黙って見てろよまじで。学校では終業式だった。友達でもないくせに寄ってたかって寂しいだの次も同じクラスになれたらいいねだのうるさい。お前らどうせ違うクラスになっても寂しがらないだろ。違うクラスのやつと仲良くするだろうが。馬鹿か。結局、面白くもない人間ばっかのクラスだったわ。一年間損した感じ? 早くクラス替えしたい。どうせ次のクラスもくそだろうけど......)
ーー正直、目を疑った。
これは同じ人が書いたのだろうか?
なにかの間違いではないか。
半ば信じられずノートを閉じた時に、誰かの足音が廊下から聞こえた。
(やばい。これを誰かに見られたら色々とまずい)
そう思って、急いでそのノートを自分の鞄に入れて逃げるように教室を後にした。
これがクラス替え初日の放課後であった。
この時は、まさかあんなことになるなんて夢にも思わなかった。
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