日常系ネガティブワールド
神楽坂かぐら
第1話 話せば長くなるが話さなければ短くなる
まだ寒い春先のいつもより晴れた朝、そよ風が花粉と青春を運んでくる。そんな春が俺は大嫌いだ。
今日はクラス替えの日。また一から俺はこういう人間だと認識してもらわなければいけないとてつもなくめんどくさい風習だ。
何回暗い挨拶をすればいいだろうか?何回素っ気なく返答すればいいだろうか?何回ひとりぼっちの休憩時間を過ごせばわかってくれるのか。
まぁ、二年目からは去年同じクラスだったやつが噂として情報を流してくれるから一年目よりかは遥かに楽ではあるが。
「おはようー!」
後ろで誰かが言っている。が無論無視して構わない。
なぜならーー
「おう、おはよう!クラス替え緊張してきたー!」
ほらっ、予想通り。
俺が挨拶を学校でもされないましてや通学路でされるわけがないからだ。
かといって、俺にも友達くらいは居る。中学からの腐れ縁の加藤と去年体育の授業のペアでいつも余ってた澤田の二人。加藤は明るい性格だからクラスの別連中のやつらと絡むことが多いが何故か俺のことを親友と思ってるらしい。
まぁ、確かに中学の時はお互いの家に行ったり家出したときは泊めてあげたりしてたから家族同士の付き合いも少しはある。
対して澤田は......いつも一人で本を読んだり趣味に明け暮れている。たまに話したり弁当を一緒に食べたりするくらいで他のやつらからすると友達とは呼べないのかもしれない。
とにもかくにもその二人が俺の友達と呼べるやつらだ。そう、それで充分。あとは勉強さえすれば学校は制覇したようなもんだ。
とまぁ、こんな感じでやっと一年目を終えたばかりです、はい。
一年を思い返しているうちに学校に着き、呆れるくらい笑顔で迎えてくれる桜たちをよそ目に重い足取りで一歩一歩と校舎に向かう。
「やったぁーー!!今年も同じクラスだねつ!」
「私もちょー嬉しい!!お互い仲良く頑張っていこっ!」
「うわぁー!!あの子と同じクラスになれなかったぁー!!」
「やった!あの子と同じクラスだ!」
「お前クラス変われよ」
「誰が変わるか」
クラス替えの朝の定番のやり取りが廊下中にいや、校舎中に響き渡っていた。
「よぉ!今年もよろしくな!」やっと話しかけられた。そう、こいつは加藤だ。
「よろしく......っておいっ、まだクラス見てないんだぞ俺」
「あっ、そうなの?まぁいいじゃん!今年こそはクラスに馴染めよ!じゃ、また!」
「余計なお世話だっつーの!」
そんなやり取りをしてようやくクラス替え表を見る。
一組......ない。
二組......加藤。いや、こいつは違う加藤だ。
三組......加藤。あった。こいつだ。って何故、俺は自分のクラスを探すのに違う人の名前で自分のクラスを探しているんだ。
もちろん自分の名前もあった。
そんなこんなで旧友が同じクラスだとしてもやはり重い足取りで自分のクラスであろう教室に向かう。
教室に入る前から他のクラスよりか少し騒がしい。
「おいっ、このクラス天道桜が居るってよ」
「えっ、まじっ? 最高じゃん!」
そんな会話が聞こえてきたり聞こえてこなかったりしてる間に教室に着き重い足取りで教室に入る。
「ガラッ」
(わいわいがやがや)
これは去年同じクラスだったやつらと例え仲良くなくても仲良く話して自分は一人じゃありませんよ。のアピールタイムだ。
そんな中、俺はしっかりと一人ですよのアピールタイムだ。
自分の席を探すのに時間がかかると立っている時間が長く、その分目立つためすんなりとひっそりと自分の席に座る。
教室中に響き渡るどうでも良い話。
たまに聞こえてくる自己紹介。あっ、これは新規のお友達を獲得したやつらだな......おめでとう!!頑張って友達付き合いやれよ。
隣の席にはひときわ人が群がっているのでとても居心地が悪い。
どうやら女の子のようだ。
「桜ちゃんめっちゃ可愛いー!!」
「えっ、どんな化粧品使ってるの?」
「天道さん、彼氏いるのー?良ければ俺と付き合って下さい!」
「ばか、はえーよ。てか、早くなくてもお前じゃ無理だっつーの」
「あはは」
隣の席の女の子本人の声であろう声は聞こえなかったが、どうやらとても人気者らしい。
正直、最初の席からハズレを引いたようだ。
まぁ、自分には関係がない。ただ少し普通よりうるさいだけだ。
「げっ、あいつも同じクラスかよ」
「えー、だれだれー?」
「うわぁー、暗すぎー。なんかきもっ」
おっ?これは早速一人ですよアピールが効いてるな。一応、心の内側が多少ズキズキ痛む感覚があるがこれはアピール成功の証だ。
(キンコーンカンコーン)
チャイムが鳴り響く。
「やばっ、また後でねー」
この魔法の鐘の音一つで学内全員をまとめることができる最強の技。この技は俺にはとても恩恵がありいつも助けてくれる最強の味方だ。
その味方が影を潜ませてから登場するもう一人の味方が現れた。
「はーい。みんな着席ー!!おいっ、そこ!早く座れ!」
「すみません」
どうやら今年の味方も頼もしいみたいじゃあないか。いやー、安泰安泰。
「さて、えーこれから一年間このクラスの担任をすることになった鑑野鈴だ。よろしく」
見た目こそ若い女の先生だが、中身はしっかりしているサバサバ系の怒ると怖いタイプだなこれは。一応、自分も気を付けなければ。
「それでは最初ということでクラス全員の自己紹介をしてもらう」
そうして一年で最初にして最も嫌な時間が始まる。
「はいっ、次っ!!」
もう自分の番かよ。
気だるそうに椅子を下げておもむろに立ち上がる。
「えーっ、高山陵です。よろしくお願いします」
気だるそうに椅子に腰掛け椅子を静かに引く。
何人か話し声が微かに聞こえたが恐らく自分に対してだろう。
その声援が一人ですよアピール成功のものだと思う事以外心の拠り所がない状態であったので早く次の紹介者よ喋り出せと思う気持ちでいっぱいであった。
しばらくして空気が一変したーー
隣の席の人の番である。
「天道桜です。今年一年同じクラスとなりましたので、どうぞよろしくお願いいたします!」
か弱い声でなおかつ優しそうな憂いのある声でハキハキと自己紹介をしていた彼女が眩しすぎて同じ人間とは思えない。
さすがに自分の自己紹介よりかはざわついてなんとか自己紹介は終わりを迎えた。
「では、今年一年皆のもの仲良く頼むぞ!」
こうして一日目の学校は何事もなく終わりを迎えようとしていた。
そんなおり、悲劇が起こったのだ。
そう、友達が一人も出来なかったのであったーー
って、そうじゃなーーい!!
事件は放課後に起こったのだ。
「明日は委員会の......」
(キンコンカンコーン)
「まぁ、明日でいっか。それでは解散っ!」
学内で唯一の最強の味方がお別れの合図を放ったと同時にその次の味方が解散と放つ。
ということは、これは帰宅をしても良いということだ。
早速、クラス替え初日の放課後な訳だが、もちろん何の成果もなく無事帰宅する。
これが俺の成果なのだ。
ここは一人で真っ先に帰ると逆に目立つためあえて一番最後まで何の用もなく残り一人で帰る作戦が有効打ということを長年の経験で熟知しているため皆が帰るのをひとしきりに待つ。
「おっす!高山!お先ー!!」
加藤が早速友達を引き連れて帰っていきやがった。あいつー、これから家に呼ばないようにしよう。
「じゃあねー」
「また明日!」
「今日どっか寄っていく?」
(ガラガラッ)
喧騒が徐々に落ち着き始める。
そうして、皆居なくなったーー
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