世界観・用語解説
登場人物紹介に続き、世界観・用語についても私、AIメイドのレインが解説させていただきます。
それでは早速、世界観についてご説明いたしましょう。
やはり若干ながらも本編のネタバレが含まれますので、ご了承ください。本編は「第一部 序章・選択」から開始なので、これらの説明に興味が無いという場合はそちらから直接本編にお進みください。
・世界観
人竜千季の舞台は地球です。開始時点は西暦二〇四八年の日本。ですが、一章終盤からは西暦二三〇〇年に移行します。
二〇五〇年七月一○日以降の地球は、全域が“
この魔素と呼ばれる物質に汚染されて以降、地球では“
これらの発生原因や、周囲の環境が“再現”にもたらした影響を調査し、対策を講じるのが朱璃様達の所属する“北日本特異災害対策局”です。
さて、北日本というキーワードが出てきました。ここは世界観の項目ですから、先にこちらについてもお話しておきましょう。
二三〇〇年現在、この世界の日本は南北に二分されてしまっています。東京に巨大な魔素の渦が出現し、その周辺地域が極めて危険な地帯になってしまったことが主な要因として挙げられます。
また、本編ではまだ少し触れただけですが、二〇五〇年の文明崩壊後、北日本では失われた皇族に代わる象徴として英雄・伊東 旭様を頂点に据えた新国家が樹立しました。これに対し、南日本では皇族を離れて一般家庭に嫁いでいた女性に新天皇となってもらい、辛うじて伝統を守っていたのです。
そのため文明崩壊から十数年後、北の新国家と旧体制を維持する南日本とが衝突し、戦争が起こりました。長引くことこそありませんでしたが、この戦いで互いに譲れないラインがあることを認め合った両国は不可侵条約を結び、両国間の行き来を厳しく制限することにしました。無断で相手の領土へ侵入した場合、状況次第では即射殺。逮捕されても最悪死刑という重い罪に問われます。
北日本と南日本がそれぞれ現在どうなっているか、詳しくは本編の第二部・第三部にてご説明する予定となっております。ですが、ある程度はこちらで先に説明しておきましょう。
北日本ではしばらくの間、伊東 旭様のお力によりある程度の平和が保たれていました。しかしながら、どれだけ強くとも個人の力で守れる範囲、できることは限られています。彼の尽力によって多くの命が救われたことは確かですが、それでもその数倍の命が失われ続けました。まだ人類の“魔素”に対する理解が浅かったためです。
ところがある時、伊東 旭様が姿を消してしまいました。それまで彼の庇護に頼り切りだった北日本の人々は、ここからようやく自分の足で新たな世界を歩み始めたと言っていいでしょう。
魔素とは何か? どうして記憶災害が発生するのか? どう対処したらいいのか? 時には危険を顧みずそれらを研究していくうちに一つの職業が誕生しました。
そう、それが特異災害調査官です。
彼等彼女等の努力によって少しずつ死亡率は低下し、人口も増加傾向に転じました。現在、北日本では東北六県全てを合わせて一八万人が生活しているようです。平和な世界で生きる皆様には少なく思えるかもしれませんが、これでもかなり増えたのですよ。
なお、南北どちらも人類の生活拠点はその大半が地下にあります。二〇五〇年以前、予測では地球で起こるはずだった彗星の衝突。それに備え、世界中の国々が巨大な地下都市を建設しました。結局彗星は直前で軌道を変え、月にぶつかったわけですが、その後に起きた魔素による汚染とそれに伴う記憶災害の発生。これらの災厄から逃れるため人々はそのまま地下都市を生活の場として選んだのです。
地上は現在、荒廃し、旧時代の建築物はほとんど残っていません。ごく一部、なんらかの事情によって生き残っていた建物の多くは調査官や兵士の皆様によって改修され、遠征時の宿泊用簡易
もう一つ、これもご説明しておきましょう。日本の本州以外の地域はどうなっているのか、現状ではほとんどわかっていません。
私は知っているのですが、本編で描写されていないことは、なるべく書かないようにしております。
一応、生存者がいることだけは判明しています。伝書鳩や風船を使った手紙のやり取りで連絡を取り合っている方々がいらっしゃるからです。
ただ、お互いに現地へ赴く方法がありません。魔素に汚染されて以来、空も海も極めて危険な領域になっているからです。命を顧みず渡航を試みた人々もいましたが、誰も帰っては来ませんでした。
人類が魔素への理解を深め、それを利用する技術を発展させて行けば、いつかはまた自由に海外との往来や通信が可能になるかもしれません。
世界観に関しては、ひとまずこのあたりでよろしいでしょうか? 第二部以降を公開した時にも、必要に応じて追記していきたいと思います。なので一旦、次の項目へ移行いたしましょう。
さあ、こちらへどうぞ。
・魔素
先程軽く申し上げましたが、一つ一つを肉眼で捉えることは不可能なこの微粒子には、空想や記憶を実体化させる力があります。そういう機能を持ったナノマシンだと思って頂いて構いません。
もう少し詳しくご説明いたしましょう。まず、魔素にはいくつかの特性がございます。順番に解説します。
一つ、情報の保存。
魔素は接触した生物の記憶、さらには遺伝子情報や接触時の身体的特徴、例えば部分的な欠損なども含めて記録し、保存するという性質がございます。そのため一種のデータ保存用ストレージと考えることもできます。一度保存されたデータは基本的に劣化しません。ですが、なんらかの要因で破壊されたり、エネルギーに変換されて失われることはあるようです。
最悪の魔女世界では保存された記憶を魔力に変換することで魔素を無害化していましたね。この世界でも同様の技術を発見した方々はおられるようです。
二つ、情報の再現。
前述の情報の保存とこの性質によって引き起こされるのが“記憶災害”と呼ばれる現象です。
魔素は特定の条件が揃った場合、自身の内に保存された情報を再現してしまいます。保存されたデータに沿って集合し、組み合わさって本物のようになりすますのです。
その条件とは“電気”に接触すること。電圧が高ければ高いほど発生率が上がり、電力量が多ければ多いほど大規模な記憶災害が長時間持続されます。旧時代の科学文明は巨大な電気エネルギーを生み出し、利用していました。そのため地球全体が魔素に汚染された直後、文明が崩壊してしまったのです。
また、人間等の高い知性を持った生物は体内を流れる生体電流、あるいは衣服との摩擦によって生じた静電気程度の微弱な電気であっても記憶災害を発生させてしまいます。これは精細なイメージを思い描くことのできる想像力が再現を促す触媒となってしまっているためだと考えられます。
大小様々な生物、自然現象等々、何が再現されるかはその時の周囲の環境にも大きく左右されます。例えば空で発生した場合には飛行可能な生物が再現される、といった具合ですね。
もちろん、必ずしも害になるものが再現されるとは限りません。無害な生物や現象が再現されることもあります。
たとえば幽霊。本来、霊魂は人の目には映りません。認識可能な能力を持った方々もおられますが、通常は不可視の存在です。
しかし死者の生前の記憶、あるいは死者の霊魂そのものの思念に反応して魔素が“再現”を行えば、誰の目にも映る状態になります。このような現象は魔素が多少ながらも存在する世界であれば、さほど珍しくありません。
また、魔素による情報の再現が益となる場合もございます。二三○○年現在、人類の大半は旧時代とは比べ物にならないほど高い身体能力を獲得しました。これは過酷な環境下で生き延びたいという意思、そしてそこから生まれたイメージを魔素が“再現”した結果、急速な進化が促されたからなのです。
また、北日本ではこの性質を利用し、人為的に小規模な記憶災害を発生させ攻撃などに利用する“疑似魔法”が開発されました。朱璃様の開発された“魔法の杖”は銃器に特定の記憶災害の効果を増幅する触媒を仕込んだものです。どんな物質が触媒に使えるかは、ご自身で危険な実験を繰り返して調査されておられました。
人間に限らず、このように魔素を利用して進化を果たした生物を北日本では“変異種”と呼んでいます。
それから、記憶の再現で現れたもののうち人々の害となるものは、大きく分けて“生物型”と“現象型”の二種類に分類されています。前者は最初の頃、ファンタジー作品のモンスターになぞらえて“魔物”と呼ばれておりました。
この生物型記憶災害にはさらに二つの区分があります。おおむね大型の個体に多いのですが、体内に高密度魔素結晶体を抱えているものは極めて危険性が高く、また歴史上初めて確認された“結晶持ち”の個体がいわゆる“ドラゴン”の姿だったため、俗称として“結晶持ち”には“竜”という呼称が用いられます。そのため結晶は“竜の心臓”とも呼ばれるのです。
稀に小型であっても“竜の心臓”を持つ個体が現れることがあります。しかし、その危険性は大型の“竜”となんら変わりません。理由は次の性質が関係しています。
三つ、ゲート化。
高密度魔素結晶体“竜の心臓”は、時として別の次元や並行世界に繋がる門と化すことがあります。魔素によって再現される“地球には存在しなかったはずの生物”達。彼等の情報は、その門を通じて別の世界からもたらされたものなのです。
また、門の向こう側からは無尽蔵に魔素が流れ込んで来ます。体内に“竜の心臓”を持つ個体が強力なのは、この膨大な魔素を戦闘に利用することが可能だからです。
たとえば再生能力。竜の中にはダメージを受けても仮の肉体を構成している魔素が勝手に修復を行ってしまう個体が時々現れます。ただでさえ強力な上に削っても削っても再生してしまうのですから、これらを倒すことは極めて難しいと言えるでしょう。
また、心臓からもたらされる膨大な魔素を放出して攻撃や防御に転用することも可能です。そのまま高圧で噴出したり、あるいは炎などを再現させて相手に吐きかけたり、使い方は個々によって様々です。
いずれにせよ、人類が打倒することは難しい存在だと言えます。
前述した通り人類にも魔素を利用した“疑似魔法”がありますが、現状はまだまだ力不足なのです。今度はその理由をご説明いたしましょう。
四つ、水分との結合。
魔素は水との親和性が極めて高い物質です。なので、人体にも常に蓄積されています。
北日本で使われる疑似魔法は、体内に蓄積されたこれを体外に放出し、人為的に現象型記憶災害を引き起こす技術です。周囲に水を撒いて規模を拡大させるといった使い方も可能ではありますが、それができるかは状況次第ですね。
体内の水分量=魔素の蓄積可能な容量なので、特異災害調査官や軍の兵士の方々は体格の良い人物が大半です。朱璃様の場合は一五歳という年齢もあって小柄ですが、周囲から魔素を吸収する能力が高い家系なのでなんとか試験の合格基準を満たせました。逆に、そういった欠点を補う要素が無い場合、体格に恵まれていない人間は危険な職業には就けません。
世界観の項目で海外との交流がほとんど無いとご説明しましたが、その原因もこの性質によるものです。
水に溶け込みやすい魔素は、その大半が海に蓄積されています。海中では電気がほとんど存在しませんから、嵐で落雷があった場合などを除き、記憶災害は滅多に発生しません。しかし高濃度の魔素の中に身を置き続けた水棲生物の多くは大型化しており、それらの変異種が危険すぎて海を渡ることができないのです。他にも海底に蓄積した魔素が“記憶災害”とはまた別のとてつもなく危険な存在を生み出しているかもしれません。
なら空から移動してはどうかと思われるかもしれませんね。しかし、電気が使えなくなった現代で実用可能な飛行手段はグライダーか気球くらいしかありません。しかも空中には空中で“雲”という魔素の塊が浮いており、ここから頻繁に飛行可能な生物型記憶災害が生み出されています。ですから空路を活用することも現状では現実的と言えません。
ただ、やはり悪いことばかりではないのです。先に申し上げたように魔素と長期間触れていたことにより、人類は肉体的に以前より強靭な種となりました。さらに疑似魔法を研究する過程で魔素そのものを操作する技術も見つけ出しており、現在、主に医療の分野で活用されています。患者の体内の魔素を操作することで“内部からの触診”を行うことが可能なのです。電力が使えなくなり旧時代の医療機器に頼れない今、これは非常に心強い技術だと言えるでしょう。
五つ、維持限界。
ここまでで魔素の性質、特に危険性についてはおおむねご理解いただけたのではと思います。最後に、記憶災害のタイムリミットについてもご説明させてください。
情報の記憶と再現によって発生する記憶災害。これらには基本的に制限時間がございます。発生時のトリガーとなった電力の量によって変動し、最大で一○分間と決まっています。これが維持限界です。この時間を過ぎたらどんな記憶災害も分解し、元の魔素となって拡散します。
何故このようなタイムリミットが存在するかについては、ここでは語りません。どうしても知りたい場合は最悪の魔女シリーズの完結編をご覧下さい。
ともあれ、通常はどんな記憶災害も一○分経過で必ず消え去ります。そうでなければ今頃この世界は次々に発生する記憶災害によって滅ぼされていたでしょう。
しかし、このルールから逸脱した例外も少数ながら存在します。彼等の存在は、場合によっては単独でも世界の脅威となるかもしれませんね。
とりあえずは、ここまでといたしましょう。他に知りたいこと、不可解なことなどがございましたら、コメントにてご質問いただければ順次追記を行って参ります。
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