五章・襲撃(5)
その時、彼方から轟音が響き渡る。また落雷か? その場の全員が身構えた。
地面がグラグラ揺れ続ける。そして急に視界が暗くなった。
「班長! あれ!」
「言われなくても見えてるわよ」
友之の言葉に嘆息する朱璃。その息遣いこそ聴こえたが、表情はわからなかった。トンネルの元来た方向の出口が土砂崩れで塞がってしまい、光量が大幅に減ったからだ。
通常の災害か、それともさっきの落雷が引き起こした記憶災害が原因なのか、どちらかわからないが、ともかくこれで引き返すことは出来なくなった。
「また地形が変わっちまった」
「次にここを通る時は別のルートを開拓しないといけませんね」
マーカスや小波の発言から察するに、こういうことは日常的に起きているらしい。普通の自然災害に加えて記憶災害まで頻発するのだから環境は刻一刻と変化してしまう。そのため常に同じ道が使えるとは限らないわけだ。
「光よ」
そんな厳かな声が聞こえたかと思うと、頭上に一つ光の球が生まれた。
「うわっ、なにこれ!?」
「説明したでしょ、魔法よ」
「ん」
朱璃の言葉に頷く巨漢。照明を生み出したのはウォールだった。星海班の中で最も許容量の多い彼は、こういう役回りを積極的に引き受ける。
魔法──体内に蓄積された魔素と神経系を流れる生体電流、そして人間の想像力を組み合わせて人為的に小規模な環境型記憶災害を発生させる技術。
一歩間違えば命に関わるような危険な現象でも、生きるためには利用する。そんな現代の人々の逞しさにアサヒは今さらながらも驚いた。
(凄いなあ……)
いや、しかし、直後に考えを改める。これまで自分が気付いていなかっただけで人間はずっとそうやって生きて来たのではないか? 火を、火薬を、石油を、原子力を──危険と隣り合わせの技術を数多く使って文明を発展させてきた。
つまり、それが人間なのだ。
だから、どんな世界になろうとも世界が存在している限り、人間はしぶとく生き延びていくのだと思う。
そんな想像をして、やはり、少しだけ心が軽くなった。
「さあ、行くわよ」
「うん」
雨が止んだことを確認した彼等は再び出発する。
──だが、時に圧倒的な力を前に、為す術なく押し潰されてしまうことも、やはり人の宿命だ。
トンネルを抜けた瞬間、今度は前方に雷が落ちた。そしてそこにアサヒの想像を軽々と凌駕するものが出現した。
カチ、カチ、カチ。
まるで時計の秒針のように、機械的な音を立てながら無数の突起がリズミカルに動いている。
「な、なんだ、あれ……」
色とりどりの鋭角的な水晶を組み合わせた物体が突然そこに現れていた。大きさは五mほど。ただし、瞬間的にその倍近くになることもあれば縮むこともある。一瞬たりとて同じ形を保っていない。まるでCG映像のように。
「竜だよ」
真司郎がそう呟く。彼等は一斉に馬上で銃を構えた。
「竜?」
「通称よ」
朱璃もやはりマーカスの肩を土台にして狙いを定め、説明を補足する。
「生物型記憶災害にもさらにいくつか種類があるの。昔は全部ひっくるめて“魔物”と呼んでいたけれど、その中でも落雷から生み出された魔物は別格の強さを誇る。
それに“生物型記憶災害”って呼称は長いでしょ? だから私達はアレのことをこうも呼ぶ。シンプルに“竜”ってね」
その“竜”は次の瞬間、威嚇するかのような凄まじい高音を発したかと思うと、突起の一つを細く長く伸ばし攻撃を仕掛けて来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます