第29話 結婚。

 30歳の足音がボチボチ聞こえてきだした頃のこと。

 古くからの知人より結婚式の出欠に関する往復はがきが届いた。

 話では、二次会で出会いの場が設けてあるとのこと。

 変態的性欲を持つ自分としては、これを利用しない手はない。是非ともここで彼女を作ってタダでヤリまくりたい。そして、その先結婚できたら万々歳である。

 躊躇することなんか一切なく「出席」に〇を付け、ちょん切ってソッコー返信したのだった。


 それから時は過ぎ、結婚式当日。

 激しいセンズ●中毒も何とか乗り越えた。のはいいとして。

 式も滞りなく終わり、同じ式場内の別の部屋へと集められ、二次会が開かれることとなる。もちろん期待度はMAX。カウパーはダラッダラだ。


 全員集まったタイミングで見るからに調子に乗った気にくわないヤツが、


「幸せな彼らにあやかりここで新たな出会いがあることを期待しつつ二次会を開きたいと思います!」


 マイクを持ってノリノリで仕切りだす。

 まぁ、気に食わないだけでそいつに意見するつもりは毛頭ない。

 素直に言うことを聞くことにした。

 続けて、


「男女交互に座ってください!」


 ―――マジで?―――


 なんとも魅力的なコトを言いだしたではないか。

 鼓動が一気に早まった。

 勿論その意見には従う。

 促されるままに席に着く。

 少し大きめの掘り炬燵式のテーブル。

 自分の位置は長方形のテーブルの長い辺の真ん中辺り。いい感じのポジションと思えた。しかも両端の女の子はどちらも超絶好み。まぁ自分としては女性の顔に関して好みなんかほぼなく、穴さえあればいいのだが。


 その場を仕切るヤツの挨拶が終わると、乾杯をした後すぐさま食事となった。

 …が、ここで。

 両端の女の子は即、自分とは大きく間を取って逆の方を向いてしまい、一切コチラを見ない。

 ものの見事に孤立した自分。

 コミュ力が最底辺のため、コチラを向かせる術はない。

 ポツンと一人、黙々と食事する羽目になる。

 最初のうちは、


 ―――そのうちこっち向いて話しかけてくれるやろ。―――


 なんてことを考える余裕があったのだけど、時間が経つにつれその余裕は打ち砕かれていくことになる。

 気が付けば予定されていた時間の半分以上過ぎている。それなのに未だ一言も言葉を発していない。


 ―――もしかして、話しかけてもらえんとか?―――


 イヤな予感が脳裏をよぎる。

 そして今更ながら気付く。


 ―――しかし、よくよく考えてみたら、見ず知らずの女の子が話しかけてくれるとか有り得んくないか?―――


 という現実に。

 消極的さに於いて自分の右に出る者はそうそういない、と言い切れるまである。


 ならば…


 このまま一言も話しかけてもらえない、という最悪の事態は免れないのではないか?

 かと言って喋りかける勇気なんかこれっぽっちもない。


 ―――もしかしてオレ、詰んどる?―――


 あと少しでおひらきになる頃、ようやく気付いたのだった。


 時すでに遅し。


 この言葉がすべてだった。

 結局一言も会話することなく二次会はおひらきとなったのだった。




 それを機にしばらく結婚式は続く。要は結婚ラッシュというやつだ。となると、幼馴染の一人くらい、声をかけてくれるのではないか?といった考えに至り、期待して待ち続けた。


 ―――これを機に、アイツには謝って仲直りしよう!―――


 意気込んで待つことしばし。

 ついに仲の良かった幼馴染が結婚する時がやって来た。

 今まで一切の付き合いが途切れていたとはいえ、親を通じて情報が入ってくる。日にちまで決まり、出欠の往復はがきを待っていたのだが、届かない。

 間近に迫っているのに、届かない。

 親の分は届いたというのに自分の分は届かなかった。

 結局何事もなく、式の日は過ぎていった。


 呼ばれなかった。


 その事実が心を抉る。

 でもこれは完全に自業自得である。

 それほどまでにあの時やらかしたことは恨まれていた。特に彼女からは。

 幼馴染の方は多少軟化する態度を見せていたみたいだけど、彼女がそれを許さなかった。自分のことを僅かに口にしただけでアレルギー的な拒絶反応。呼ぶなら結婚はしない!今すぐ別れる!とまで言われた。それほどまでに嫌われていたのだ。それが親ルートから耳に入ったので正気を保つのが大変だった。というかかなり病んだ。そして10年前の失態を心の底から悔やんだ。


 別ルートからの仲直りを期待し、幼馴染たちの結婚式を待つのだが、誰一人として呼んでくれる者はいなかった。その時の話が浸透してしまっていて、自分だけは呼ばない、と言う決まりごとが幼馴染間でできていたのだ。よってあの事件に直接関係なかった幼馴染からも呼ばれることはなかった。親からの情報だけは耳に入ってくるのでその話を聞くたび心が病んでいった。

 気付けば全員結婚していた。


 結果、未だ仲直りはできていない。それなのに、心の中では、


 ―――アイツら心が狭いのー。たったそれくらいのことで…。―――


 反省の一欠片すらない。

 だから、状況が改善することなんかない。




 そんな中、会社の上司が結婚するとのことで声がかかる。

 式のあとの二次会で出会いの場が設けてある、最初に呼ばれたのと同じ方式だった。


 二次会にて。

 行きつけの居酒屋の大部屋を貸し切って行われたのだが、結果は全く同じだった。

 男女交互に並ぶまでは問題なかったが、挨拶が終わると両端の女性は案の定、隙間を大きくとって反対側を向いてしまう。

 そしてヒマになる。

 ヒマを持て余してしまうと、いつもの悪癖が顔を出す。

 そう。女性の胸や股間、ケツをいやらしく舐め回すように見る、あの癖だ。

 不快感をあらわにした女性はことごとく自分の周りから離れてゆく。そしてぽっかりと空洞ができた。

 その後、誰も寄りつかないまま、二次会は終了した。

 後日、悪癖のことで苦情が殺到したため上司から呼び出され、こっぴどく怒られるというオチが待っていた。


 こんなコトが何回か続いたおかげで会社関係の結婚式には呼ばれなくなった。




 時は過ぎ、来年定年を迎える。

 結局は出会えず仕舞い。

 絡みのある女性は風俗嬢だけ。

 もちろん未だ素人童貞であることは言うまでもない。

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