第25話 またもや。
一年生でできた友達は合コンの件で徐々に遠ざかり、三年生になったころにはまたもやボッチ。
結局大学でも大して心に残ることが無く卒業することとなった。←自業自得
四月一日。
ということは入社式である。
スーツを着て会社へと向かう。
通勤方法はクルマ&汽車&新幹線。
最寄りの駅に月極め駐車場を借り、そこにクルマを止める。で、そこからは汽車。一時間以上かかって県内で最も大きい駅まで出ると、そこからは日本一短い区間新幹線に乗る。そして駅から会社までは1.5キロほど歩くといった感じだ。
ここまで待ち時間を含めると約二時間。通勤だけでもかなりの大仕事である。
入社した会社は機械関係。国内でも有数の規模を誇る鉄道会社…の孫会社。
新幹線の車両基地が仕事場で、担当業務は車両部品の整備。
全く興味のない分野ではあったが、あまりにも決まらなくて担当ではない教授に心配された挙句紹介され、どうにかこうにかコネで決まったという経緯がある。だから、とりあえずは頑張ってみようと思っている。
会社に到着すると新入社員は食堂兼大会議室のいちばん隅のテーブルに集められた。
早速イヤラシイ目つきで女性を探す。モーレツに期待しながら全体を見回すのだが…いるのはおばあちゃんといわれれば素直に納得できるほどの女性が3人だけで、他には誰もいない。
―――いやいやいや。そげなはずはないやろ?―――
認めたくないからもう一度念入りに周囲を見回す。
が、しかし。
女性用の作業着はあからさまに色もデザインも違うから間違えようがない。
またここにもオトコしかいない…。
その現実を理解した時、猛烈な吐き気と眩暈が襲いかかってきた。
泣いてしまいそうだ。
この日は入社式の後、基地内を一通り見て回った。
扱うものがデカいから建屋もデカい。よって敷地面積も相当のモノとなる。移動だけでもかなり時間が掛かる。ハッキシ言って遠足だ。
通勤用の自転車置き場を見ると、端の方に管理番号の札が付いた業務用の自転車が10台ほどあった。
―――そりゃ~こんだけ広いとチャリいるよね。―――
見学し終わると、早速机上教育が始まる。
この会社が受け持つ業務は「台車」に関すること。
子会社や孫会社が各パーツの整備を担当し、親会社がそれらを組み上げて完成させる。
次の日からさらに細かいパーツの話になってゆく。
クルマに似ている部分が結構あるので少しだけ興味を持てた。
一カ月の研修期間が終わるといよいよ現場に投入される。
配属されたのは主電動機班。
主電動機とは電車を走らせるモーターのコトで、「三相かご型誘導電動機」と呼ばれるものだ。
体操をし、全体朝礼が終わると現場の詰所に向かう。そこでミーティングをした後作業が始まる。
現場に入ると床面にずらりと並べられた検修前のモーターが目に入る。これを「平場」と呼ばれるスペースにて手作業で分解し、洗浄した後組み立てるのだ。
初めて見るモーターは直径50cm程。想像していたよりもはるかに小さいと思った。走ってきた後だから鉄粉まみれ。見た感じはなんか粉のかかった高級なチョコレートのよう。
端子箱の上にチョークで編成名と部位が書いてあり、そこから三本のリード線が出ている。赤が「全検=全般検査」、白が「台検=台車検査」という決め事があり、それぞれ整備手順が異なるらしい。
人力では動かすことができないほど重いから作業はすべてクレーンを使って行う。
研修期間中にクレーンの特別教育があったので、いきなり操作させられることになる。
早速フックを掛けてもらい吊ってみる。
玉掛を担当する先輩と協力してセンターを合わせ、おっかなびっくり地切りする。大して振れることがなかったので、そのまま人の頭に当たらないくらいの高さまで巻き上げ目的の場所まで移動。と、ここまではよかったのだが。
止め方が悪くて吊り荷が有り得ないほど揺れた。
直後、それを見ていた上司から、
「こらーっ!ちゃんと振れ止めしてから止めんと危ないやろーが!何習って来たんか?」
怒鳴られ、いきなりクレーン操作がトラウマになった。
あまりのセンスの無さに、
「お前にはまだ早いの。」
完全に呆れられ、
「貸してみ?」
上司にペンダント(ホイストとコードでつながった操作スイッチ)をもぎ取られ、
「仕事終わったら練習の。」
居残り宣告。
上司はあっという間に吊り荷の振れを止め、固定された台の上に載せた。そしてその隣に相方のモーターを置く。台車には二つのモーターが付くため、検修はそのペアで進んでいくのだ。それはいいとして、操作の正確さにただただ感心するばかりだった。
台に置くと、まずは「WN継手」と呼ばれるギヤケースとの接続部を分解する。
この部分は台車から外されて検修場に持ってこられた時点である程度分解することになっている。具体的には前面の蓋の4カ所のビスをプラスドライバーで緩め、外筒を固定してあるボルトを全て緩め、そのうち4つだけ残す、といった作業をする。
ビスを緩めて外し、蓋を取る。
外筒の4つのボルトを外す。すると中のギヤがむき出しになる。
シャフトに着いている回り止め金具をタガネとハンマーで起こす。ハンマーで左手を力の限りぶっ叩いてタガネが持てなくなったため怒られた挙句、作業から外された。
固定しているナットをドデカいインパクトレンチで外す。
インパクトを持った瞬間重さでよろめいたため、
「おいおい、大丈夫か?お前、力無いのー。」
上司から呆れられた。
インパクトのソケットをナットに嵌め、引き金を引いた瞬間…回転する力に耐えきれず手が離れて落としてしまったため、
「危ないが!」
またもや激しく怒られた。
圧倒的に力が足りな過ぎる。
なんか…致命的に向いてない仕事場だと思った。
―――オレ、この先やっていけるっちゃろか?―――
そんな考えが頭をよぎるほどに。
ナットが外れると次は油圧を使ってギヤを外す。
この作業は作動部をギヤにかけてスイッチを押すだけだからなんとかなった。
ここまで終わるといよいよ本体の分解。
出力側とは反対側(C側という)に着いている回転検出器と速度発電機を外し、シャフトについているギヤを外す。
「カートリッジ」と呼ばれるグリスを溜めておくパーツの6本のボルトを外す。
出力側(G側という)にある「鏡蓋」と呼ばれるパーツのボルトを6本外し、真横に位置するボルト穴に「案内棒」というT型の金属の棒をねじ込む。
モーターのシャフトにクレーンで吊るための治具を装着し、クレーンをセンターに合わせ、手前側に位置をずらし、寸動で上昇させると「案内棒」に沿って回転子(ローター)+鏡蓋がモーターの外枠から出てくる。させてもらうと寸動がうまくいかず何回もモーター自体を吊ってしまったため、またもや作業から外された。
回転子はローラーの着いた台に乗せ、鏡蓋を外し、カートリッジを分解する。
その後、回転子本体は低い台に載せて気吹きブースの中でエアーを吹かせ清掃する。
エアガンを持って作業していると回転子が帯電していたらしく、ガンの先が触れた瞬間火花と共に手に電撃が走った。思いのほか痛い。
回転させながら清掃していたら力の入れ方がまずかったらしく、台車から回転子が転げ落ち、またもや烈火のごとく怒られた。
絶縁ワニスの状態を見て、剥がれていたら塗り直す。
シャフトを支えるベアリングに接触する部分が黒く汚れているため、溶剤を塗って細く切ったサンドペーパーで磨く。
これで回転子の作業は終わり。
外枠はクレーンで吊ってコロの着いた台に移す。
そして電圧測定。
測定器のコードをリード線とアース線にセットし測定していく。これも力が要らないからなんとかできた。
人が立って中に入れる気吹きブースに外枠を入れ、自分もその中に入ってエアーを吹かせ、大まかなホコリを除去する。
それが終わるとワイヤーブラシの着いたリューターでバフがけ。
バフがボロっちくなってくると毛が飛ぶようになる。これが顔に刺さる。ふとした時に顔を触るとチクッとして刺さったことに気づく。結構痛い。
キレイになったらリード線に巻いてある赤、白、青のビニールテープを巻き直し結束バンドでまとめる。
これで組める状態になったので、逆の手順で組んでいく。
組み終わるとターレットトラックに二個載せて、回転試験室に運ぶ。
WN継手も専用運搬車に乗せて回転試験室へと運ぶ。
これが通常の業務になるのだけど、それとは別に車両には台検(台車検査)と呼ばれる検査がある。クルマでいうトコロの一年点検的なこの検査は一つの編成につき2年に一回のペースで行われる。この作業は別名台交(台車交換)と呼ばれ、台車を履かせ代えるのだ。
作業名のとおり台車を交換するわけだけど、これがまた圧巻で。8両を同時にジャッキアップして行う。基地開放日という祭りではこの光景が一つの見ものとなっており、人気も高いらしい、といったことはどうでもよくて。この検査が週に一回以上計画されているのだ。体力を使う作業なのだがヘロヘロな自分にとってはまさに地獄なのである。途中、立てなくなってしまい、うずくまっているところを発見され、救護室に運ばれたことも一度や二度ではない。
部品を壊ししてしまうコトも日常茶飯事。
組み間違いも多い。
自分のミスが原因で何度試運転の時間を遅らせたことか。
半年を過ぎる頃にはすっかりいらない子に成り下がっていた。
もはやすべての業務がトラウマである、といっても過言ではない状況になっていた。
そんなこんなでようやく一年が過ぎた。が、未だ慣れることは無く役立たずのままで足を引っ張り続ける日々。怒られる回数が減ることは無い。同期はある程度の仕事が任されるくらいには成長しているというのに…情けない限りである。
このようにストレス満点の社会人生活(←捌けないから自業自得)を送っているから、精神的ダメージとヘルメットとの相乗効果でハゲが劇的に進んだ。24歳にして既にてっぺんの毛は無くツルッツル。残っているのは耳の上から後頭部にかけてのみ。後ろからだとミドレンジャーがこっちを向いているように見える。とか思っていたら、他の社員からホントにそう呼ばれていた。そしてそれがいつしかあだ名に変わっていた。
入社当初期待しまくっていた女性はというと。
事務所に何人かいるコトが判明したが、全くと言っていいほど接点は無い。年に数回ある会社の飲み会でも自分のトコロにはもちろん来てくれるはずも無く。イケメン社員のそばにずっといる、といった状態なのだ。
というワケで、社会人になってもまたもやオトコだらけなのである。
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