第24話 就活。

 大学四年。


 進級し、研究室に入ると同時に就職活動が始まる。


 自分が選択したのは食品化学研究室なので、食品関連の研究開発や品質管理といった技術方面で進めていくつもり。

 なぜこのような選択をしたのかというと、これまで学んだことを活かせると思った…ワケでは決してなく、確実に女性社員がいるからだ。


 高校、大学と色気のない生活を送ってきたから、そろそろいろんなモンが限界である。


 一刻も早く女子成分を補給しなくては!


 気合を入れまくり、下心にまみれた就職活動は始まるのだった。

 とはいえ生活能力は皆無。一人暮らしなんかしようものなら確実に餓死、といった結末が待っている。よって、実家から通勤できる範囲内に限られてしまうのだ。

 おかげで選択肢は極端に少なくなり、就活は困難を極めることとなった。

 そんな就活の様子は以下のとおり。



 一社目。

 家に届いた就活用の企業一覧から見つけ出した、隣町にある出汁やスープを作っている食品会社の品質管理。

 通勤時間はクルマで30分以内。

 女性社員もそれなりに多い、といった好条件の会社である。


 入社試験当日。

 会場となっている大会議室に案内され、指定された席に着いて待機。

 その間、廊下を歩いている女性社員を眺める。その眼差しが異様なまでに気持ち悪く変態的だったので、すぐさま気付かれ面接官に報告されてしまっていた。

 この時点で不採用が決定したのだが、ここでつまみ出すことにより騒ぎになるのを警戒した会社側は、とりあえず試験だけ受けさせることにした。

 当の本人は、裏でそんなやり取りがあっているコトなんか夢にも思ってないのだが。


 試験が始まる。

 まずは筆記試験から。

 はじめに解答用紙が配られる。目を移すと、マークシートだった。

 続いて問題用紙。

 表紙には「適性試験」と書いてある。

 配り終わると注意事項の説明があった後、開始の合図。

 表紙をめくると…呆然とした。

 問題が難し過ぎて、何一つ解けない。


「こげなん、無理やん…」


 ついつい口走ってしまう。

 出来るトコロから手を着けようと次のページをめくるけど、結果は同じ。やっぱり難しすぎて手が付けられない。結局、最後のページまで解ける問題は一つもなかったため、諦めて適当に塗りつぶすことにした。

 塗りつぶし終えると同時に、


「はい、鉛筆を置いて解答用紙を後ろから前に回してください。問題用紙はこちらで回収しますので、そのまま置いといてください。」


 筆記試験終了。

 最悪の出来だった。たとえ女性をイヤラシイ目で見ていなかったとしても、この試験で自滅していたというワケだ。


 それでも女子成分を補給したい自分は一縷の望みを託し(既にヤラシイ目線の件で不採用が確定しているのだが)面接に挑む。

 筆記試験を受けた部屋で待機していると、順番が回ってきた。

 ノックをして部屋に入ると顔を見るなり面接官同士、何かを確認している。

 その中で、


「あ~、この人が…」


 と聞こえたため、


 ―――ん?オレのこと知っちょー近所の人かなんかかな?―――


 的外れなことを考えながら席に着く。

 実は先ほどの苦情に関する確認だったのだが、勿論そのようなことは分かるはずもない。


 自己紹介の後質問が始まるのだが、早速得意技の人見知りが「これでもか!」と言わんばかりに炸裂する。

 緊張し過ぎて質問を聞き取れない。

 瞬きは劇的に増え、過呼吸気味になり、目線は定まらずモーレツな挙動不審に陥る。

 的外れな返答を連発しまくっていると、


「ちょっと落ち着きましょうか。」


 呆れられ、苦笑された。

 それでも落ち着くことは無かったため、ついに諦めた面接官。

 大きなため息を一つこぼして数秒後、


「今回はご縁が無かったということで。」


 まさかのその場で不採用宣告。

 目の前が真っ暗になった。


 しかし、落ち込んでばかりはいられない。

 企業一覧から通勤できると思われる会社を選ぶと、片っ端から資料を請求する。

 送られてきた資料に同封されている返信用はがきを送ると、次々と入社試験が決まってゆく。



 二社目。

 やはり近くの食品会社で、様々な調味料を製造販売している。

 希望する部門は研究開発で、女性社員も多い。


 試験当日。

 前回と同じで大会議室が会場になっており、そこに案内されると指定された席に着く。

 時間になり、担当の社員が部屋に入ってくると、試験の説明と注意が始まる。

 それが終わると小さな紙と原稿用紙が配られた。

 作文である。

 全員にいきわたったことを確認すると、少し待って開始の合図。

 同時に紙を裏返すと、お題が書いてある。

 そのお題とは「学生時代、印象に残った事」だそうで。


 ―――困った。何も印象に残ってねぇぞ。―――


 改めて思い出そうと試みるのだが、結果は同じ。実に薄っぺらい内容の生活しかしてこなかったのだと痛感する。それでもなんとなく記憶にあることを寄せ集め、盛りに盛って書いてゆく。

 終了時間直前。

 読み直してみるが、明らかに内容が薄いし、字数も半分くらいと少ない。こういった場合、7~8割を埋めるのが決まりだったような気がしないでもないが…。


 ―――コレ、ダメよね?―――


 不採用だと理解するのは酷く簡単だった。

 そのまま試験は終わってしまう。


 続いて面接だが、またしても人見知りが炸裂。

 この前と全く同じ結果に終わった。

 その場での不採用は免れたものの、後日、やっぱり不採用の書類が届いた。




 この後も通勤可能な食品関連の会社には応募し採用試験も受けたのだが、結果はことごとく不採用。

 割と景気が良く、採用されやすいはずなのに、何故か不採用なのである。

 原因はイヤラシイ目つきで女性(社員や入社試験を受ける他所の学生)を凝視しているコトによるもので、それがバレて面接官に報告されてしまうからなのだが、こういったことは本人に伝えられることが無いため自覚できず仕舞い。

 おかげで不採用が延々と繰り返されるという負のループにドップリとハマってしまっていた。


 決まらない日々は続く。

 卒業も迫ってきて、同じ学科の人間は全員進路が決まったというのに自分だけまだ決まらないでいた。

 万策尽きて、半ば諦め就職浪人も考えていた頃。

 この状況を見かねた別の研究室の教授から呼び出され、


「食品とは関係ないけど、受けてみないか?」


 と、持ちかけられた。

 降って湧いたような有難いハナシ。

 断る理由なんてどこにもない。

 その場でOKし、どうにかこうにか面接に辿りつき、採用となったのだった。

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