第21話 友達
入学して一カ月も経たないうちに友達ができた。
あまりの呆気なさに正直戸惑いマクっている。
高校の時のアレは一体何だったのだろう?と思うほどに劇的な変化。
あれだけ苦労しても(=×。一切苦労なんかしていない。自分の態度が悪かっただけで、すべて自業自得)、全然できなかったのに。
きっかけは、週に一度必ずある実験の時間だった。
実験は4人一組で、一つのテーブルを使って行われる。
初めての実験の講義にて。
注意事項と説明が終わったので、必要な器具を共用の器具置き場に取りに行こうとしていると、他の3人のうちの一人が、
「一緒に取りに行こう。」
と、絡んできてくれたのだ。
思わぬ展開に面食らってオロオロしていると、それを見ていた他の二人が便乗する形で合流。
実験の間中、この4人で行動することとなった。
次の日からは、講義を受けるのも学食に行くのもこの4人。
女子がいないことで絶望感に浸っていたけど、この3人に救われた。
もう、感謝以外のナニモノでもない。
それからは他の出席番号で席が決まっている講義でも似たような現象が起こりはじめる。
前後左右の人間がしゃべりかけてくれるのだ。でも、ここまでは高校の時と全く同じ。
なのに、なぜか不思議と自動的にその先の段階まで進んでゆく。
―――年食うと、その時は許せなくて受け入れられなかったことも、許せるようになるのかも。―――
な~んてことをしみじみと考えてみたりした。
仲が良くなってくると、そいつらのいろんなことが分かってきだす。
例えば。
つるんでいるヤツらはみんながみんな同い年ではないということ。
流行りものについて話しているとき、話題がビミョーに話が噛み合わなかったことから、ごく自然と年齢の話題になる。
すると、
「オレ、浪人してたんだよね。だから多分自分達よりも二個上。」
といった具合で明らかになったのだ。
それを聞いた自分ともう一人は、驚きのあまり、
「「え?マジで。」」
ほぼ同時に変な声が出た。
すると、あとの一人が、
「え?自分も二個上なの?実はオレもなんだ。」
その話に乗ってくる。
見た目からは全く判断できなかったから、正直ものすごく驚いた。
でも、よくよく考えてみたら義務教育じゃないのだから、このようなことはごくフツーに起こり得るワケで。
高校時代、たまたま自分の周りに中浪や留年した人間がいなかったから、現実味が無かっただけのハナシだったのだ。
こんなトコロにものすごく大学生を感じる。
年上と分かってしまった以上、流石にタメ口は失礼かと思い、話がひと段落ついたとき、
「やっぱ年上なんやき敬語使った方がいいよね?」
思わず聞いてしまったのだが、
「それだけは絶対やめて!お願いだからタメ口で頼む!」
と、本人たちからの強い要望で却下された。
よって、引き続きタメ口、というわけなのだ。
出身地についても明らかになる。
ココの学校は県外の人間が圧倒的に多い。比率的には1000人中800人が県外といった感じ。
つるんでいるヤツはというと、4人中、自分を含めた2人が県内で、あとの2人は関東の方。
柔らかくて丁寧な言葉だな、とか思っていたらそういうことだったのだ。
自分を除く他の3人は、自分とは比べ物にならないほどコミュ力が高く、友達作りには随分と貢献してくれた。自分は相変わらず話しかけることができないのだけど、こいつらのおかげでどうにかなっている、といった状況。
情けなくはあるけど、大きな進歩でもある。
このように周囲に人間が増えてくると、県外の人間の割合はさらに多くなる。その内訳は、近隣の県が大部分であり、九州地方と中国地方を合わせるとかなりの人数にのぼる。それから関西、中部とだんだん少なくなっていき、関東になるとまたちょっと増える。
いちばん遠くは北海道の人間もいた。それが分かったときは、「よくもまあこんな小規模でマイナーな大学見つけたもんだ。」と、感心してしまったほどだ。
大学生といえばクルマ。
この地区は県内でも特に田舎なので、何をするにもクルマが無いと始まらない。
というワケで、クルマのハナシで盛り上がる。
浪人とギリギリまで決まらなかったこの集まりは、4人中1人しか免許を持ってない。で、その一人もクルマを持ってないのである。
これ見よがしに学校に新車を乗り入れているヤツらを羨ましさ全開のまなざしで見つめる日々。
欲求不満が溜まりまくる。
結局、自分が免許を取ったのは夏休みだったので、後期が始まるまでどこにも行けなかったという、そんなオチ。
全員取った後は自分ともう一人、県内のヤツがクルマを手に入れ、遊びに行くときは交代で出すようにした。
釣りが趣味の人間もいて、4人中3人はバス釣り経験者。
こんな集まりなので、やらないヤツも感化され、全員で行くことになる。
大学周辺は田舎なので、釣りする条件はかなり整っている。山の方に行けばダムがいくつかあるし、すぐ近くには野池も川もある。そのほとんどにバスが生息しているのだ。そして割とよく釣れる。
関東の友達はプレッシャーが高いトコロでしかやったことが無かったみたいで、ここでの釣れっぷりに大喜びしていた。
クルマが手に入ると同時に、講義の空き時間を利用して釣りに行くことも増えた。
そんなこんなで、大学生活は男子校ではあるけど高校よりもはるかに楽しく過ごせている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます