第19話 卒業

 2月20日。


 今日は卒業式。


 私立高校なので、県立よりはだいぶ早かったりする。


 母親と一緒にクルマで学校へと向かう。

 学校が近くなってくると、相変わらずの紺色の群れ。

 最後まで慣れることは無かった。気持ち悪さの極みだ。


 到着し、指定された駐車スペースにクルマを止めると体育館へ向かう。


 時間になり、式が始まる。のだが、中学の時に感じた寂しさや悲しさといったものがこれっぽっちも無い。

 それどころか、


 なんか腹減った。はよ帰りたい。


 全く関係ないことしか頭に浮かばない。



 やがて式も終わり、教室に戻ると卒業証書の授与。

 続いて担任からの祝いの言葉があり、解散となった。

 まだ進路が決まってない人間は、この後三者面談となっていて、自分はその対象となっている。


 解散後、クラスの人間は名残惜しそうに最後のひと時を過ごす。卒業アルバムに寄せ書きを書いている者や、大学の下宿や寮の住所をおしえ合っている者がやたら目につく。が、友達が全くいない自分のトコロには当然の如く誰もやってこない。辛うじて雑談するようになったヤツはというと、早々と大学に決まっていて、やることもなくなったため既に帰ってしまっている。コイツとはこの場で完全に縁が切れた。

 もちろんこれは想定の範囲内だったので、何の感情も湧かないけど、ボッチであるという現実を目の当たりにした親はどう思うのだろう?

 この後、帰りのクルマの中でどういったことを言われるのだろう?

 いくつかのパターンを考えてみるものの、思い浮かぶのはどれも気が重いものばかり。友達を作れなかったことに対し猛烈な嫌味を言われ、人間性を全否定され、ブチ切れて大喧嘩になるコトは想像に難くない。


 拷問のような時間をやり過ごすと三次募集を受けるヤツらの三者面談が始まった。担任が教室に入ったのを機に、駄弁っていた人間が一気に減る。


 対象者は5人。

 出席番号順なので自分は最後。その間、帰りがけのことを考えていると、ホント、心が病みそうになってきた。

 未だ受験が終わってないことを情けなく思い、まだチラホラ残っている楽しそうなヤツらの会話にイライラしながら順番を待つ。


 やがて順番が回ってきた。

 担任は端から進学できるとは思っていないようだ。一言目からやたら就職か浪人することを進めてくる。

 親もその意見には大賛成のようで、


「もうあんたには大学やら無理なんやき、ね?」


 と、わざとらしく優しい口調で先生を前にして説得にかかる。

 それでも意地で仕事をしたくない自分は、


「大学受けます。浪人はしません。就職もしません。今から受ける事ができるこの大学とこの大学があるじゃないですか。」


 絶対に譲らない。

 この条件を呑まないとプーになることをほのめかし続けると、最後には親も担任も諦め、受験が決まった。



 三者面談も終わり、帰りのクルマの中。

 案の定嫌味を言われ、ブチ切れ大喧嘩になり、とても歩いて帰れなさそうな距離の人気のない路上でクルマを止めると、


「もうお前やら知らん!今すぐここで降りれ!このまんま帰ってこんだっちゃいーぞ?」


 引きずり降ろされ置いて行かれそうになった。

 思えば高校に入ってから家族とのこういったレベルの喧嘩の回数が目に見えて増えた。

 日に日に内容は過激かつ酷いものになっている。


 これっちゼッテー男子高効果やん!


 自分で勝手にそう決めつけている。

 特に自分は周りに女子がいないとダメみたい。オトコばかりの雰囲気じゃ、性格が荒くなり他人(というか家族)に当り散らし、迷惑をかけるようになる。

 そんな知りたくもない事実が判明してしまっていた。


 帰ったら今日あったことを余すことなく父親に報告され、さらに父親からも激怒されるという散々な一日となったのだった。




 受験が終わり、何とか大学も決まり、本当の意味での高校生活の終わりを迎える。

 自分の部屋で一人、


 ―――オレ、高校時代、何してきたっちゃろ?楽しいことっち何があった?―――


 考えてみる…けど、何も思いつかない。というか、ボッチとか絶交とかボーズとか、嫌なことしか思い浮かばない。もっと言えば、入学してから今までの記憶が一切ない。厳密には薄い。


 あの時スーパー特進に受かっていた共学の私立を選んでいれば…彼女はできなかったにしても、絶交は免れたかもしれない。

 進学に関していえば、かなりの確率で上の大学に進学できていただろう。


 間違えた!


 この言葉が頭の中を駆け巡る。


 なんかもう…


 後悔しかない。


 男子校のバカヤロー!オレの青春を返せ!


 自業自得なのは思いっきし棚に上げ、心の中で何度も叫びまくった。

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