第14話 そのころ幼馴染は…。
「あの…えっと…ね…聞いてもらいたいコトが、ね…あるっちゃん。」
途切れ途切れになりながらもどうにか切り出した。
「ん?なん?」
弾かれたように顔を上げ、見つめてくる女友達。
この先、友達ではいられなくなるかも。
可能性はある。
そんな結末に怯えつつ、
「えっと、ね…あの…。」
意志を伝えようと、言葉を絞り出す。
すると、
「うん。どげんしたん?」
優しく先を促してくれる。
ここまでの流れである程度どういったことなのかを理解してくれているのだろう。僅かに頬を赤くさせつつも、静かに待ってくれている。
この心遣いがすごく嬉しく、そして痛い。
―――ここは男を見せないと!―――
無い勇気をかき集め、
「あ、あの…あんね…あの…好きなんちゃ!でったん好いちょーっちゃ!だき、ね…あの…オレと付き合ってくれん?」
グダグダになりつつも、どうにか伝えるべきことは伝えた!
のはいいが、次に待っていたのは沈黙。
これがまた怖い。
断られる恐怖と戦いながら返事を待つ。
鼓動が早い。
息苦しくて、どうにかなってしまいそうだ。
時間にすれば30秒にも満たなかっただろう。が、この時ばかりは永遠を感じた。
告白された側はというと。
ずっと前から予感はあった。
こうなることを強く望んでいた。
でも。
実際こういった場面に直面すると、数多の感情が一気に湧いてきてテンパってしまう。
極度の緊張で呆けたみたいになってしまっていた。
数瞬の後、我に返る。
断る、という選択肢なんて有り得ない。
だって、この人のことが大好きなのだから。
熱を帯び、赤く染まった頬。
でも。
恥ずかしさをこらえ、しっかりとした眼差しで男友達の目を見つめると、
「…うん。」
小さく、しかし強く頷いた。
返事を聞いた瞬間、
「は~~~~~…よかった~…でったん緊張した~…。」
安堵。
これまでの緊張が一気に解れ、穏やかな表情へと変わってゆく。
女友達の方も嬉しさを隠しきれなくて笑顔になっている。
そして、目にはうっすらと涙。
出会ったころから互いに温めてきた思いが実を結んだ瞬間。
「友達」という関係にピリオド。
これから二人、彼氏彼女として歩んでいく。
初めて意識したのは入学してすぐ。
偶然目についた一人のクラスメイト。
長い黒髪が印象的で色白で、キャラ的にはかなり大人しい。全く目立たないはずなのに、何故かその子から目が離せなくなってしまっていた。
俗にいう一目惚れというヤツだ。
それからというもの、どうにか接点を持とうと色々考えてはみたが、今一つ決定的な理由が見つからない。
元々あまり積極的ではない性格が災いし、これ以上先へと進むことはできなかった。
目で追うだけの日々が続く。
時が過ぎ、友達関係が広がってきた頃。
同じ地区に住む幼馴染の女の子とその子が仲良くなっていることを知る。委員会活動を通じて友達になっていたのだ。
―――これっちチャンス…かな?―――
自分にとって都合の良い妄想をしつつ、これまでより少し強い期待を胸に抱くようになっていた。
そしてついにチャンスが訪れる。
きっかけは一年生最初の席替え。
二学期が始まって一発目に行われたロングホームルーム後のことだった。
前の席になったのは気になるあの子と友達の、同じ地区に住んでいる幼馴染女子。中学の頃、別々のクラスになったことはあるものの、幼稚園からずっと一緒という、ちょっとだけ珍しい存在。
休み時間になるとふり返り、
「よっ!またまたよろしく!家近所なんに席まで近くとかマジウケるね。ウチらっち、なんかでったん腐れ縁よね?」
「ホントやね。こちらこそよろしく。」
と、そんなお約束な挨拶をしているところで、絶賛気になり中のあの子が、幼馴染のトコロにやってきたのだ。
―――あ!この子、いいなっち思いよった子やん!―――
気付いた瞬間、鼓動が一気に跳ねあがる。
同時に、
―――こいつと友達なんよね。これがきっかけでオレもお知り合いになれたらいいのになぁ。―――
ものすごく期待してしまっていた。
おしゃべりは続く。
その間、幼馴染の横にそっとくっつき自分らが喋り終わるのを静かに待っている。その仕草が不自然じゃなくとてもかわいらしいと思うのは、多分…そういうことなのだろう。
ひとしきり駄弁った後会話が途切れると、遠慮がちな声で、
「ねえねえ。今日、お昼、どこで食べよっか?」
聞いてくる。
「そやね~。外、人多いよね?」
「うん。」
「行くの面倒っちぃき、ここでいーっちゃない?」
「うん。そやね。」
決まったところで、
「ねぇっちゃ。我がらちもここで食べりぃよ?」 訳:自分達もここで食べなよ
コチラに話を振ってきた。
なんか…前々から気になっていた子と一緒に昼ごはんを食べることになった。グッジョブ!幼馴染!!だ。
―――そんなの断る理由やらないやん!―――
食い気味に、
「うん!いいばい!」
返事をしてしまい、ちょっと恥ずかしくなった。
幸いなことに幼馴染女子には気付かれなかったみたいだが。
思わず胸をなでおろしたところで休み時間終了のチャイムが鳴る。
初日というのにスーパー特進という理由から三時間目以降は授業。
でも。
なんともかったるい二学期の一日目のはずが、ちょっとだけ、否、サイコーにいい日に変わった。
四時間目も終わって昼休み。
男子は同中出身の仲良しがあと二人合流。
女子の方は、もう一人同中の仲良しと、先ほどの気になるクラスメイトと、その連れ。
その辺の机を適当に並べ、昼食の準備。
椅子に座ると、
「ごめんね、知らん人間が一緒で。」
まずは挨拶代わりに手を合わせ、申し訳なさそうに照れ笑いしながら詫びを入れてくる気になる子。
大人しいけど暗い性格ではなさそうだ。
―――それにしても笑顔が可愛い!可愛すぎる!!100点!!!―――
既にこの時点で9割5分がた落ちていた。
昼食中の彼女はでしゃばることなく、それでいて全く喋らないというわけでもなく、ごくごく普通に場に馴染んでいた。そういった面にますます好感を持ってしまう。
実際に話してみると話し上手で聞き上手。話し方から優しさと性格の良さがビンビン伝わってくる。
―――この子、でったん好きやな。―――
マジで強く思ってしまっていた。
おしゃべりに夢中になっていたら、あっという間に昼休み終了。
おかげで楽しい昼休みを過ごせた。
彼女には感謝しかない。
ホントのことを言うと、もっと喋っていたかったのだけど、この場から離れる時「また一緒に食べようね。」と言ってくれた。
自分に向かって言ったワケじゃないのだろうけど、
次がある!
そう思えるだけで、なんだか嬉しい。
その機会はすぐにやってきた。
次の日、彼女が「今日も一緒に食べようや!」と言ってきたのだ。
「次」とは次の日のことだった。
なんかもう純粋に嬉しくて。
恐らく挙動不審になっていたと思う。そう考えたら、やたら恥ずかしくなってきた。
このコトがきっかけとなり、仲良くなって、いつもこの7人+αで行動するようになる。そして学校以外でも遊ぶようになったのだった。
完全に仲良くなり、進級もしてしばらく経った頃。
グループ内の関係はさらに親密さが増していた。というのも、このクラスはスーパー特進で、一学年に一クラスしかないため多少の出入りはあるモノの、基本三年間クラス替えは無い。
といった学校事情はさておき、昼休み。
食事が終わったタイミングで、
「ねぇ?あんたこの頃ウチらとばっかし遊びよぉばってんがくさ。アイツとは遊ばんでいいと?」
高校入学当初からずっと気になっている、一人で男子校に行く羽目になってしまった仲のいい幼馴染の話題になる。
この幼馴染、見た目にも性格的にもかなり問題ありな人間で。
同中のやつらはみんな心配でしょうがないのだ。
人見知りが激しく、テンパると他の人間に対して無愛想に振る舞ってしまうといった悪い癖がある。暗いオーラを全身から発しており、お世辞にも良いとは言えない性格な上に、見た目がモロ犯罪者(幼い女の子を誘拐監禁し、性的な悪戯をする犯人にしか見えない。一人で私服を着て歩いているとしょっちゅう警察から職質を受ける)なので、第一印象は最悪。特に絡んでもないのに一方的に嫌われてしまうタチなのだ。
「うん…まぁ…」
心底心配しているだけに、煮え切らない返事になってしまっていた。
ヤツのことだ。
二年生になってすぐ、季節外れのインフルエンザにかかってしまい、連休明けまで学校に行けなかったと聞いている。だから、またもやボッチになっている可能性が極めて高い。
これまでの会話で学校や通学時についての愚痴は盛大に口にしていたのだが、友達についての具体的な話が一切出てこなかった。このことから、十中八九友達はいないモノと推測できる。
それでも答えは、
「でも、それやるとねぇ…アイツのためにもならんっち思うっちゃんね~。せっかく一人でどうにかする機会ができたっちゃもん。これ活かしきらんと、この先ゼッテー困ることが出てくるっち思うっちゃん。自分で解決する方法覚えてもらいたいし。それに、こっちの友達も大事やし。」
といったもの。
突き放すような冷たい言い方ではあるが、そうではない。そいつのことをちゃんと思って言っているのである。
「そっか。そうよね。」
同中の者は皆、納得する。
そして、
「でも、なんで?アイツ、この学校のウチらのクラス合格しちょったろーもん?」
幼馴染女子からの素朴な疑問。
この幼馴染とはヤツの経緯を話したことがなかったから、知らないのだ。
「うん。それなんよ。まさかね~、女大好きなアイツがあっち選ぶとか夢にも思わんやったっちゃ。アイツが言うには、受かるはずもなかったあの学校受かったことで、舞い上がってしもーちょったらしいっちゃん。」
「あ~…。アイツ、そげあるよね~。先のコトな~んも考え切らんくせに、カッコだけはつけたがるっちゆーか見栄張りたがるっちゆーか…マジ、世話焼けるっちゃき。ホント、バカやん。ウチらおらな、なんもしきらんの、分かっちょろーもん、ね~。男子高やら選ばんやったら、ウチらが相手できちょったはずやき、ボッチにはならんやったのにね。」
訳:自分たちがいなくちゃ何もできないの
男子高を選んだ理由を知り、完全に呆れ果てていた。
「そーなんよ。だき、会うたんびでったん後悔しようばい。んで、さらに性格悪くなっちょーっちゃ。」
「やろーね。アイツの様子、会わんでも手に取るようにわかるよね。」
「うん。」
ハナシが終わるとビミョーな雰囲気に。
とはいえ。
コチラにはコチラの事情があるため、申し訳ないが、付き合いの配分を変えることにしたのだった。
その時。
大人し目の女友達は、
―――友達のコト、ホントに心配しよるんやね。でったん優しいんやん。―――
滅茶苦茶に貶しているように見えて実は我が事のように心配している背の高い男友達のことが気になるようになっていた。
そうなってからは速かった。
偶然が重なり、様々な学校行事や委員会活動で一緒に行動する機会が爆発的に増える。その度向けられる彼の優しさに触れ、劇的に心の距離が縮まってゆく。
そんな中、同じ地区の幼馴染女子がグループ内の男子と付き合うようになっていた。そのことがきっかけになり、グループ内で次々と飛び火していく。
最終的に黒髪ロングの女子と背の高い男子という、両片思いのペアだけが残ってしまった。遊びに行きだした当初から、いちばんいい雰囲気を醸し出し、真っ先にくっつくかと思われていたのに。
彼らもそれは意識していて…。
そして。
ついにその時がやってくる。
二年生一学期の終業式の後のコト。
相方のいるやつらは、
「オレら、これから遊びいくっちゃ。じゃーね!」
「オレも。また連絡する!」
そう言い残し、早々と帰ってしまった。
勿論計画的犯行だ。
裏で「今日こそアイツらくっつける!」という作戦が実行されていたのだ。
取り残された二人。
「しょうがないな。」とは思っているものの、ある程度その作戦には気付いていた。
でもそのおせっかいが今は非常に有難い。
ちゃんとその意味をくみ取り、「今日告らんと、あいつらに悪いな。」みたいなことを互いに考えながら、最寄りの駅まで並んで歩く。
途中にある小さな公園に差し掛かった時。
「ちょっと寄って行かん?」
男の方から誘うと、
「…うん…いーよ。」
少しはにかみながらOK。
既に何かを感じ取っているように見えなくもない。
公園に設置してある自販機で飲みたくもないのに飲み物を買って、その一つを彼女にわたす。
いつも飲んでいるお気に入りの銘柄のお茶。
「あ…ちょっと待ってね?お金…」
学校指定のスポーツバッグを開け、財布を探す。
「いや、いーよ。」
やんわり断ると、探すのを止め、
「なんか、ありがとね。」
申し訳なさそうに礼を言って微笑み、受け取ってベンチへ。
腰をおろし、しばし他愛のない会話。
そのうち話題もなくなって、静寂が訪れる。
同時に空気が変わった。
ピリピリとした緊張感を含んでいる。
互いに何かを察している。
二人とも地面を見つめたまま何かを言いかけ止める、といったことを繰り返していた。
そして…
先に動いたのは男の方。
気付かれないように大きく深呼吸をひとつ。
口を一文字に結び、覚悟する。
彼女の方へ顔を向けると視線はまださっきのまま。
その頬は少し赤いが暑さによるものなのか、或いは…
気付かれている?
そんな気になってくる。
恥ずかしい。そして怖くもある。
不安が募るけど、
言うなら今!
脳内にいる、もう一人の自分がGOを出した。
そして、最初の場面に繋がるのだった。
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