第12話 献血

 一年生の二学期。


 中間考査が終わったタイミングで献血のハナシが上がる。


 朝のホームルームにて。

 担任が、


「今日から三日間、献血がある。10:00頃バスが来るき、16歳になった希望者は、その時間の担当の先生に言って行ってこい。っちゆっても、あくまでも希望者やきの?無理して受ける必要はないぞ。」


 と言いながら、黒板の横にある掲示板にポスターを張った。



 一時間目が終わった9:40。

 興味を持った数名がポスターを見ながら、


「何これ!ジュースとかパン、タダやん!しかも貰い放題!」


「マジで?オレ、行こ!」


「授業サボれて飲みもんとか食いもん貰えるん?」


「何かそうみたいばい。」


 欲望に忠実なバカどもは結構な大盛り上がりっぷりである。

 呆れ果てつつその会話を聞いていると、その中の一人が、


「これっち看護婦さんに会えるっちゃない?」


 極めて重要なコトに気付く。

 すると、


「はっ!ゼッテーそうやん!オレ、受けよ。」


「オレも行く。」


「オレも。」


「オレも!」


「授業サボれて女にも会えて、食いもんまでタダとか、どげな天国?」


 爆発的にテンションが上がった。



 そして二時間目。

 10:00になると今、授業じゃない先生が教室のドアを開け、


「授業中すみませ~ん。」


 入ってきて担当の先生に挨拶。

 続いて、


「献血来たぞ。希望者は先生に言って行くように。」


 すると、10人ほどの調子こいた連中が、


「センセー。献血行ってくる。」


 申し出た。

 先生は勿論、


「おー。行ってこい。」


 快くOKを出す。

 楽しげに教室を出ていくクラスメイト。

 案の定その時間は戻ってこなかった。それどころか次の時間も戻ってこない。結局戻ってきたのは四時間目が終わる寸前。

 全員が大量のパンとジュースを持って帰ってきた。

 そいつらのハナシを聞いていると、どうやら割とすぐ終わったらしいのだが、あえて次のヤツが終わるのを待ち、なおかつそいつらが終わった後学食でガッツリくつろいで、戻ってきたとのこと。


 ―――こいつらアホやん。―――


 得意げに話しているのをバカにしつつ聞いていたのだが、その話に聴き耳を立てていると、


「ネーチャンのレベル、でったん高くなかった?」


「うん。でったん可愛かった。」


「お前も?オレもっちゃ!」


「オレもオレも!」


 ということらしいのだ。今、献血に行ったヤツらの全員が、口を追揃え「可愛い」という。

 しかも、


「針刺すとき乳がモロ当たるっちゃんねぇ!」


 らしい。

 これを聞いた他の人間も、


「それ!オレしてくれた人、でったん巨乳やったっちゃが!」


「マジで?オレだけかっち思いよった。」


「金を払わんでも乳が触れるとか、サイコーよね!」


「オレ、でったんチ●ポ起ったき!」


「オレもっちゃ!」


 調子こいて体験談を語りだす。

 この会話を聞いて、


 ―――これは是非とも触ってこなくては!オレも最終日行こう。―――


 爆発的にテンションが上がり、献血を決心するのだった。



 献血当日。


「四時間目になったら行こ。」


 起きた時点でワクワクが止まらない。

 今の時点でカウパーダダ漏れだ。パンツのチン先が接触している部分がヒヤッとしている。


 そして待ちに待った四時間目。カウパーの湧出量は結構なものとなっていた。


「先生、献血行ってきます。」


 申し出て、ワクワクしながら献血バスへと向かう。

 結構な人数待っている。

 出てくる人はやっぱしみんな「可愛かったね」と言っている。

 あと少しというトコロで


「お疲れ様。休憩行ってきてください。」


 看護婦さんの声。

 どうやらローテーションで休憩しているらしい。その時ちらりと見えた感じだと、やはりレベルは相当のモノ。


 ―――これは期待できるぞ!―――


 バカどもが言っていた、あんなことやこんなことを想像しながら順番を待った。

 ようやく自分の番になり、


「次の方、どうぞ。」


 呼ばれてドキドキしながら中に入る。


 が、しかし。


 そこで待っていたのは…


 母親よりもはるかに年上の、ブヨブヨに肥えたブサイクなババァ!


 ―――マジか…―――


 あまりにも凄惨な光景に言葉を失った。

 意識が遠くなってゆく。

 数瞬の後、意識が回復してくると、


 ―――ハナシが違うやんか!全員可愛いオネイサンやなかったんか?金返せ!―――


 文句しか出てこない。


 ここまで来たら戻るわけにもいかなくて。

 仕方なく手を伸ばすと、


「アルコールでかぶれたりはしませんか?」


 事務的かつ超絶無愛想な口調で訪ねてくる。


 ―――最っ悪!大ハズレやん!―――


 心の中で叫んだ。


 血管を浮き上がらせるためのゴムを腕に巻かれる。

 その時、


 タプン❤


 柔らかい感触。

 圧倒的な質量。

 惜しみなく当てられた脂肪の塊。


 ―――うっわ~…―――


 絶句。

 冷たいものが背筋に走り、タダでさえ小さい●ンポがさらに縮んでポークビッツを下回る。

 腕を拭かれ、いよいよ針を刺すのだが、これがまたヘタクソで刺さらない。

 その間肉塊は接触したまま。

 結局刺さらなくて何度も刺し直された挙句、別のブサイクで無愛想なババァと交代。やっとのことで刺さり、開始となったのだった。

 次の日からしばらく針を刺された辺りが覚せい剤の常習者みたいになったのは言うまでもない。


 終わると血液検査の結果を貰う。

 その時、


「こことここ、かなり深刻な値になってますから、なるべく早く病院に行くことをオススメします。」


 と言われた。

 何のことかと思って目を通すと、いくつかの項目の値が赤で書かれていて、ズバ抜けて高い。

 普段のだらしない生活と、暴飲暴食がたたり、肝機能と血糖値が大幅にオーバーしていた。

 病院行きが決定した瞬間。


 楽しむために受けた献血で、まさかのババァ。しかも病気が発見されてしまうとか…。


 ―――あ~あ、献血やら受けんのきゃよかった…――― ←訳:献血なんか受けなければよかった。


 どんだけモッてないのかと思うと泣きたくなった。

 ババァ×2&病院行き決定で激しいショックを受け、教室に戻ると、


 ―――あ!しまった!―――


 貰い放題のジュースとパンを貰い損ねていた。


 ―――最悪やん…―――


 今更戻るわけにもいかない。

 今日はパンを貰うコト前提だったので弁当は持ってきていない。

 おかげで激混みの学食に行く羽目になってしまう。

 抜けた授業は苦手科目。友達がいないからノートも見せてもらえないという、何もかもが散々な結果となったのだった。


 こうして自分の献血初体験は幕を閉じた。


 次回から献血やら二度とせん!


 そう心に固く誓い、献血手帳はゴミ箱にin。




 後日。


 ウチの学校は、献血に協力してくれた人数が市内のどの高校よりも多かったことから、市より表彰された。


 授業をサボりたい、乳を合法的に触りたい、タダで飲み食いできる、という欲望が招いた結果だというのに。

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