第9話 下品
一学期ももう半ば。
自分はともかく、クラスの人間たちは随分と打ち解けあってきたようで、日が経つごとに騒がしさが増していく。
と、同時に未だかつて味わったことないほどの下品さが顔を出し始めるのだった。
この下品さは一旦顔を出すと瞬く間に広まってゆく。女子がいないものだから羞恥心が欠乏し、歯止めが効かないのだ。僅か数日で、もはや人様にお見せすることができないくらいのレベルにまで達していた。しかもモーレツに汚い。
完全に無法地帯である。
教室にて。
授業中の一コマ。
先生が
「こら!お前ら!たいがいで静かにせんと授業できんめぇが!」 訳:授業できないじゃないか
ついにブチ切れる。
この授業を境に怒鳴り声の頻度が爆発的に増す。下手すると毎時間である。
そしてそれは日に日に酷くなっていき、ついには、
「先生、怒っちょー?」
あまりにも当たり前かつバカにしきった質問をするようになる始末。
もちろん先生は、
「当たり前やろーが!貴様ら、たいがいにせんとぶち殺すぞ!」
大激怒。
にもかかわらず、静かになる気配はみじんもない。
それどころか大爆笑しながらわざと聞こえるように、
「おぉ~。でったんはらかいちょーき。」 訳:超怒ってるし
トドメを刺す。
怒りが頂点に達した先生は、その生徒のところまでやってきて、無言で
ゴスッ!
拳骨。
「あ痛ぁ~!」
ついに犠牲者が出たというのにうるささは一向に収まらない。
毎時間こんな感じだから、怒ることができない年寄りの先生や優しい先生なんかは哀れなモノなのだ。完全にナメられてしまっており、丸々一時間授業が成り立たないことだって多々ある。
いよいよ遠慮というものが無くなってきたある日。
一人の生徒が、
「先生!」
手を挙げ、
「何か?どげしたんか?」
「あんね、うんこしたい。行ってきていい?」
中学の頃だったら女子がいてできなかった発言。
まだまだ精神的に幼いから、いじめにだって発展するかもしれない発言。
その発言がごく普通に行われたことに感心してしまっている自分がいる。
先生はというと、
「そげんごとゆーてお前、サボる気やろーが。」 訳:そんなこと言って、サボる気だろ。
完全に疑いのまなざしである。
しかしその生徒も譲らない。
「何言いよーんっちゃ!マジで行きたいんっちゃ!はよせなタレかぶる!それともここでしてもいい?」 訳:何言ってんの。早くしないと漏らす。
と言いながらベルトを緩め、ズボンを下そうとしている。
全く信じていない表情の先生。しかし、これ以上やりあってもしょうがないと判断したのか、仕方なく、
「分かった分かった。行って来い。し終わったらすぐ戻ってこいよ?」
OKを出す。
すると嬉しそうに、
「じゃ、いってきまぁす!」
先生に手を振って教室から出て行った。
教室では、
「あいつ、ゼッテーサボりやん。」
とか、
「さっきこそっとエロ本見よったき、コキに行っちょーんばい。」
とか、散々なことを言われている。
案の定、脱糞し終わったと思われる時間が経過したのに戻ってこない。
先生は、
「あいつ…やっぱし戻ってこんやねぇか。ボーズにしちゃろっかの。」
想定の範囲内だったらしく、呆れつつ文句をタレる。
戻ってこないヤツのことがうらやましい他の生徒は、
「ボーズボーズ!」
賛成のボーズコール。
他の生徒も、
「ほらね。ゼッテー戻ってこんっち思ったし。」
といった類のことを口走っている。
すると他の調子こいたヤツが、
「オレもうんこ行っていい?」
便乗しようとする。
「バカか。つまらん。サボりたいだけやろーが。」
「そげなことないっちゃ。あいつ、便所で倒れちょーかも知れんやん?だき、見に行かんとヤバいやろ?オレ、心配で心配で。」
二言目で便所に行く目的が変わってしまっている。
すると先生は、
「なんか?お前、クソタレたかったんやねぇんか?」
即座に気づく。
「あ…でも心配なのには変わりないし!」
バレてしまったにもかかわらず、尚もサボろうとしている。
呆れた先生は、
「うるせー。あんまししつこく言いよったらボーズするぞ?それでもいーんなら行ってこい。」
最も効果のある「ボーズ」を言い放つ。
中学時代丸坊主だったヤツが大半。やっと一回目の散髪に行くことができて角刈りのようなスポーツ刈りのようなヘアスタイルになったところである。ここで剃られてしまうとまた一からやり直しになってしまう。ここでの数センチはかなり痛いのだ。
だから素直に、
「それはイヤ。」
引き下がった。
便所に行ったヤツはというと、学食でくつろいでいたことがばれ、その日の放課後、ボーズ(五厘)にされた。長髪が許されていた中学出身だったので、その頭は真っ青だった。クラスの人間は全員大爆笑である。
こんなやり取りが日常茶飯事。
ホント、オトコというものはアホの極みである。
それはそれとして。
堂々とうんこに行ける環境はかなり有難い。
男子校に通っていると、女子がいたら恥ずかしくてとてもできないようなコトや、汚いコトを次々と思いつく。
例えば授業が終わると、
「こぉ!見てん。」
ズボンのチャックを開け、勃起したチ●ポを恥ずかしげもなく出して、友達に見せつける。
見せつけられた友達は、
「うぉ!なんかお前!●ンポでたんふってぇやねぇか!」 訳:超デカいね。
素直に感心している。
その言葉に満足すると、
「おぅ!まかせろ!ビッグマグナムとでも呼んでくれ。」
と言い残し、出したまま別の友達に見せに行く。
またある時は、おもむろにズボンの中に手を突っ込み、
「匂うてん?」 訳:匂ってみて
チン先を触った指を友達の鼻先に持っていき、チ●カスの匂いをかがせようとする。
「くせえ!やめれちゃ!」
思いっきし顔を背ける友達。
するとその指を頬に擦り付ける。
「うわ!お前たいがいにしちょけよ!」
大爆笑しながら、自分も同じことをやり返す。
「うわ!コイツサイテー!」
「何がか?お前が先にしたっちゃねぇか!」
チンカ●合戦が勃発する。
これに周りの奴らが参戦し、アホな戦いが始まるのだ。
昼休みには。
「あ~。」
今まさに弁当を食べている友達の机に顎を乗せ、口を開いて噛み砕いてドロドロになった食い物を見せつける。
やられた友達は、
「止めれ!汚ぇっちゃ!」
爆笑しながらそいつの頭を思いっきしはたく。
はたかれたヤツも懲りちゃいない。
「痛ッ!なら、これはどーだ。」
と、さらなる嫌がらせをぶちかましてくる。
ヂュル…ヂュル…ヂュル…
噛み砕いたドロドロを歯と歯の隙間から出し、見せつけている。
すると、
「ホントやめちゃらん?食い気がなくなろーが!」
爆笑しながらそいつの頭をはたきマクっている。
満足したそいつは一旦ドロドロになった食い物を口の中に戻し、別の友達の机に向かい、
「ねえねえ。これ見てん?」
全く同じことを繰り返す。
するとやっぱり、
「汚ぇちゃ!余所行ってして来い!」
頭をはたき、追い払われている。
カレーを食べているときなんかもうホント、サイテーで。
学食から教室に持ち込むコトを許されているため、混んでいる時なんかなかなりの生徒はそうしている。
で、カレーを食っている生徒が餌食となるというわけだ。
カレーを持っているのを確認すると、
「お!うんこみたいなカレー食いよるやん。」
会話の最初に必ず「うんこ」という言葉がついてくる。
やられた生徒は
「うるせー!汚ぇことゆーな!」
ぶっ叩く。
このやり取りが完全にセットとなっている。
で。
酷い時は、
「今からうんこ行ってくる。」
カレーを食べている友達にわざわざ宣言して便所に行く。
しかもケツを拭いたうんこ付きトイレットペーパーを持って戻ってきて、
「ほら❤」
食っているヤツの机に置く。
「きさん!たいがいせぇよ!ナマモン持ってくんなちゃ!」
怒りつつも大爆笑である。
他にも。
先にカレーを食い終わったヤツがカバンからトイレットペーパー(結構な人数が便所からかっぱらってきて、芯を抜きカバンの中に常備している。主に鼻をかむのに使う)を取出し、皿を拭いて、
「ね?なかなかリアルやろ?」
まだ食べているヤツの机の上に置いて嫌がらせ。
「止めれ!食う気がなくなろーが!」
これまた爆笑しながらやったヤツの頭をぶっ叩いている。
休み時間には自販機でジュースを買って飲むことができる。
炭酸飲料を飲んだヤツが、
「唾、どこまで伸びるか勝負しょうや。」
なんともバカらしい提案をしてくる。
挑まれたヤツは、
「いーばい。でもオレまだジュース飲んでねぇき唾が粘くない。買ってくるき、ちょー待っちょって。」
快くこの挑戦を受け、わざわざ飲み物を買いに自販機へと走る。
すぐに戻ってきて一気に飲み干し、
あ゛~ッ!
特大のゲップ。
口をモゴモゴし、唾が粘くなったのを確認すると、
「おし!準備完了!」
「切れたら負けやきの。限界っち思ったら吸い込めよ。床に落としたら踏んで汚ぇき。」
ルールを説明し、靴を脱いで(教室は土足)椅子の上に立ち、勝負が始まる。
デローン…
長く伸びる唾。
椅子の座面を呆気なく越えた。
それを横から見て判定しているヤツ。
「ん――――ッ!」
限界が来たやつが声を発す。
「汚ぇちゃ!吸い込め!」
その瞬間、
ツルッ!
カメレオンの舌の如く伸びた唾を吸い込んだ。
「お前の勝ち!」
「いぇ~い!」
大盛り上がりだ。
これがきっかけとなり、何人もの人間がそのゲームに参加することとなる。
こんな具合で、マジでしょーもない遊びが流行りまくる。
生徒はほぼ100%こんな感じなのだが、先生も負けちゃいない。
女子がいないのをいいことに、表現がモロなのだ。
保健体育の授業で受精に関することを説明するときなんか、それはそれは酷い。
「ここにチン●があるの。」
自分たちが書く落書きのような絵を黒板に書き、説明。
「そしてこれがマ●コ。ここにビーンっち勃起した●ンポがズボズボズボッ!ち入ってきての、パンパンパンっちしたらあんあんあんっちゆって、ピュッピュッピュッ!っち汁が出ろうが。お前ら、好いちょろ?もうしたコトあるヤツもおるやろうし、相手のおらんヤツはDVD見てセンズ●ばっかコキまくりよろうが。ま、それはいーとして。そしたら精子が泳いでいって卵子に結び付くわけたい。結びついたら細胞分裂して赤ちゃんになる。お前ら、したらいかんっちゃ言わんばってんが、ゴムはちゃんとつけてせなぞ。ナマがいいとか、そげな我が儘はゆーたらつまらんぞ。今、子供作っても養っていききらんめぇが。」
といった具合である。
これは保健体育が特別じゃない。他の授業でも概ねこんな感じなのである。性的なことを連想させるワードが出てくると、その瞬間脱線し、しばらく授業にならなくなる。
またある時は。
気の弱いジーさん先生の授業にて。
いつもの如く有り得ないほどにうるさい。
黙らすことができない先生。
必死に
「おい。お前たち、もう少し静かにしてくれ。」
注意しているのだが、声が小さく迫力もないため誰一人として言うことを聞く者はいない。
そんな時、クラスでも一際調子コキまくったヤツが大声で、
「おら!お前ら!静かにせぇっちゃ!うるさかったら聞こえんめぇが!」
叫んだ。
瞬時に静かになる教室。
何事かと思い、一斉にそいつへと視線を向けるクラスメイト。
視線が完全に集まったところで、
ぷ~。
音を出して屁をこきやがった。
まるでドリフのコントみたいな音。
そいつは満足そうな顔をし、無言で席に座る。
「バカらしーんたい!」
「しょーもねー!」
「シケか、コラー!」
大ブーイングである。
でも。
これを機に、この先生の授業を含め、気が弱くて注意できない先生の授業が標的となり、黙らせて屁をこくのが大流行する。
女子がいなくて心が荒みきった日常。
でも、「気楽」といった面ではこれ以上ないといった感じ。
おかげで友達がいなくて誰とも関わっていないというのに、こういったことだけはどんどん吸収してしまっていて、どこかで披露してやろうと考えている自分がいる。
なんかもう…
既に取り返しが付かないほど下品になっている…様な気がしている
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