第8話 もちろん彼女なんかできるはずがない

 男子校生活にも随分と慣れ…る、コトは決してなく、随分と麻痺してきた頃。



 これまで薄々気付いてはいたけれど、認めたくない現実というものがあったワケだが、いよいよそいつとちゃんと向き合わなければならなくなってきた。

 それは何かというと、


 女子との出会い。


 学校生活の中で、というよりも、人生で一番、といっても過言じゃない重要なイベントだ。

 その「出会い」がもう笑ってしまうほど完璧に、確実に、モーレツに、無いのである。


 女子との接点は全く無いわけじゃない。それこそ「物理的接点」ならば、学校以外の場所、例えば登下校時における学校の坂道だとか、電車やバスでは毎日必ず大量にある。

 だがしかし。

 彼女へと発展する可能性を秘めている、「精神的接点」というものが一切無いのだ。



 何も事情がわかっていない入学直後の段階ではこの物理的接点の多さしか目についてなかったため、


「蓼食う虫も好き好き」っちゆー素敵諺があるよね!これだけたくさん機会あるんなら、こげなブサイクでも好きになってくれる人、おるっちゃないと?


 とか、はしゃいでテンションも爆発的に上がり、少しは(いや、だいぶ)期待し、妄想も捗ったものだが…全くもって甘かった。甘過ぎた。


 というのも。


 彼女たち、というか物理的接点のある全ての高校生は、100%自分の学校の生徒としか喋らない(同中卒の者が別の高校にいれば話は変わってくるが)のである。決して余所の学校とは関わろうとしない。女子高ともなると、その傾向はさらに強くなる。

 そんな他校の生徒と交わす言葉はというと、電車やバスの中で揺れて体勢が崩れ、よろけて足を踏んでしまったり、不意に寄りかかってしまったりして「すいません」と一言、謝るだけ。

 こんなの会話とは言わない。


 それなのに、である。


 ウチの生徒ときたら、かなりの数、彼女を連れたヤツがいる。中でも女子部の生徒と付き合っているヤツは多く、「男女交際厳禁」という校則とは一体?と思ったほどだ。

 後に知った話によると、ウチの学校はイケメン率が高く、他校の女子からかなりウケがいいとのことだった。

 そんな事実を知った時、アホな自分はまたもや「オレもこれに便乗できるのでは?」などと盛大に勘違いし、心の中に一筋の光が見えたような気分になっていた。

 まぁ、見えた気分になるのは個人の自由だし、大いに結構なことなのだが。


 女子とのお付き合いをするにあたり、障害になってくる見過ごし難い重大な欠陥が数多く存在するコトを失念しマクっていた。


 その欠陥とは何かというと。


 先ず、コミュ力。

 自慢じゃないが低い。絶望的に低過ぎる。

 他人任せで消極的な性格がこれでもかというほど災いし、学校が始まって数カ月経った今でも野郎にすら話しかけることができないでいる。おかげで友達が一人もいなくて途方に暮れている、といった状況。

 オトコ相手でもこの有り様なのに、知らない女子に話しかけることなんかできるワケがないのである。


 そして、残念過ぎる見た目。

 見た目は自分で言うのもなんだけど、ブサイクだ。そして、そのブサイク具合は大多数の人が嫌悪感を抱く感じのヤツ。


 具体的には。


 まず、イヤでも目に付くのが髪。

 ものすんげーキッツイ天パーで、「パンチパーマ」といった表現が最もシックリくる。そのキツさは究極で、いちばん細いコテでシッカリと二回転巻いた感じ。10人が10人、意図的にパーマしたと間違えるほど。そしてこのクセは、少々伸ばしたところで重力に打ち勝つから、下すコトなんかできない。試しに前髪を20cm程伸ばしてみたけど下りてこないため、「前髪はon the 眉毛」という校則を難なくクリア。こんなにも強くてキツいクセ毛なのに極細のネコ毛だから頭皮がモロ見えで、その頭皮はテカテカにテカッている。それだけでもかなりポイント低いのに、頭頂部は直径10cm強の範囲にわたりハゲており、今なお確実に進行中という…。中学時代、そのことで散々弄られまくっていた。


 顔は下膨れ。

 鼻は低く、上を向いているため真正面から見ると鼻の穴が丸見えで、かなり豚っぽい。マンガで描かれるブサイクそのまんまといった感じ。


 髭はとにかく濃い。

 鼻の下から喉まで真っ青で、薄まることなく胸毛へとダイレクトに接続している。

 マンガの泥棒みたいな感じで、一日でも剃るのを忘れた日にゃ、そりゃもうエレーこっちゃなコトになる。


 背はそれほど高くなく、まあまあデブ。もちろん顔はアブラギッシュ。


 体臭はかなりキツイ方。近寄るとすっぱい匂いはするし(風呂の時間が極端に短いせい)、結構なワキガ。制汗スプレーで誤魔化しているけど、完全には誤魔化しきれていない。満員電車の中で気付かれることも多々ある。


 表情は危ない人そのもの。

 せめて愛嬌があればいいのだけど、そういったものは一切ない。常に薄ら笑い(元々そういう顔の作りなのでどうしようもない)で、今すぐにでも女児を監禁し、性犯罪をやらかすような雰囲気を醸し出している。私服で一人歩きしていたら高確率で職務質問されるレベルで、実際そういう目に何度も遭った。


 激しく度のキツイ、銀縁のビン底眼鏡を装着しており、小さな目がさらに小さく見える。パッと見、何かの昆虫のようだ。


 それに加え50代といえばフツーに納得されてしまうくらいの老け顔。ハゲアタマとの相乗効果で中学時代、「肩たたきに遭っている窓際なサラリーマンみたい」とか、「ダメオヤジ」などと言われ弄られていたが、否定する気にもなれなかった。というよりも、むしろかなり的確な表現だと感心してしまうほど。鏡を見る度に「なるほどな」と納得してしまう。


 無意識のうちに出る呼吸音もポイントが低い。

 周りに不快感を与えてしまうらしく、公共の交通機関で密着すると、あからさまに嫌な顔をされる。


 挙動もバツグンに残念だ。

 有り余る性欲のため、公共の交通機関利用中に女子が近付くとギラつき、無意識のうちに胸や太もも、ケツ、股間の辺りを重点的に舐め回すように見てしまう。しかも悪いことに、気付かれるから嫌悪感を抱かれ、降りる駅でもないのに降りて、別のドアへ移動されることも日常茶飯事。


 と、以上のように女子から嫌われる条件を相当な高レベルで満たしてしまっている。

 おかげさまで、一年生の一学期という早い段階なのに既に詰んでいるという…。


 そして、悟るべくして悟ってしまうのである。


 男子校に通っていて女子と知り合うのに重要な武器は顔である!


 という哀しい現実を。

 性格がいいとかそういった内面の問題は二の次。優先順位で言うと、かなり下の方でしかない。

 まずはなんといっても「顔」なのだ。

 学校内での接点が無い以上、内面は見せることができない。よって判断できる要素は顔しか無い。という、当たり前といえば当たり前すぎる事実。


 男子校に通っていて付き合える権利があるのはイケメンのみ。


 ただしイケメンに限る!


 という有名な諺のとおりなのだ。

 その武器を持っていない自分は戦いの舞台に上がることすらできない。



 とはいえ、である。

 中にはかなりブサイク(自分と結構いい勝負の顔のつくり…だと勝手に思っている)なのに何故か付き合えている人間というのが少なからずいる。「イケメンに限る」ことが判明し、否定されてショックを受けた後だったので、それが分かった時は少し、いや、だいぶ期待したのだが、後々分かった話によると、そいつらは出身中学が同じで、既に中学時代から付き合っていたとか、それなりにいー感じだったヤツばっかなのだ。


 ならば。


 同中出身の女子に目を向ければいいじゃない!地元の駅で会うじゃない!


 と、諦め悪く期待する。

 でも、現実とはヒジョーに残酷なもので…。

 彼女たちは既に新しい友達との輪が広がっており、そちらの付き合いに夢中でコチラの存在になんか気付いちゃいない。

 しかも自分のコミュ力は底辺を極めているから、声をかけるなんてとてもじゃないけどできるはずもなく…。

 結果から言うと、3年間全く話すことはなかった。


 このような感じで全く戦わずしてボコボコに打ちのめされたのだった。




 高校生活が楽しかったとかいうヤツ。

 自分には都市伝説くらい現実味がない。 ←自分のせい

 今の時点(高校卒業時)ではどう考えてもいい方に向かう要素がない。 ←自分のせい


 あの時共学を選んでいたならば、或いは…。


 今更、である。

 考えるだけ虚しい。

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