第7話 友達ができない。
学校が始まって一週間。
男子高にも少しずつ慣れてきだし…否、麻痺してきだした頃。
これまで静まり返っていた教室にも変化が訪れる。
具体的には友達を作るために各々が行動に移り、会話が増えてき始めたのだ。
最初、同中の者同士でしか交わしていなかった会話も、ちょっとしたことがきっかけで爆発的に広がりを見せだす。
例えば出身中学が近所だとか、部活で対戦したことのある中学だったなど、まずはネタにしやすい話題から始まり、他のネタへと移行する。その過程で会話を聞いていた近くの席の者が加わり仲良くなってゆく。
席を離れ、片っ端から積極的に話しかけている者もいる。
こういったことが繰り返されながら、友達作りは加速していった。
劇的な変化を目の当たりにし、
―――あ、これなら近いうちオレにも友達できるね。―――
余裕ぶっこきながら、話しかけられるのを待っていた。
が、しかし。
現実はそんなに甘いものじゃなくて。
いくら待っても話しかけてくる人間がいない。厳密には、話しかけてはくるのだけど、ちょっと喋っただけで、何かを諦めたような顔をして、すぐに別のトコロへと移ってしまう。
こういったことがここ数日で何回かあったが、自分にだけは友達らしき人間が一向にできない。
それから一カ月が過ぎた頃。
喋りかけられることは全くなくなった。
会話のない日々。
―――あれ?なんでオレだけ話しかけてもらえんの?友達作るのっち、こげ難しかったっけ?―――
焦り、悩む。
疑問は解決することなく、時間だけが容赦なく過ぎてゆく。
今は一学期中盤。
学校生活も安定し、友達付き合いは一層濃いものになっている。教室の至る所では、放課後や休日の遊ぶ約束が交わされる。
のだが。
自分には話しかけてくるものなど誰一人としていない。そういったイベントは訪れることはなかったのだ。
―――何かがおかしい。どーゆーこと?―――
考えてみるけど、これといった原因は思い浮かばない。
ここで初めて友達作りのタイミングを逃してしまったことに気付く。
既に手遅れ。
改めてその輪の中に割って入っていく強いメンタルやコミュ力はこれっぽっちも持ち合わせちゃいない。
完全に孤立。
究極につまらない高校生活が確定した瞬間だった。
結局、大した会話もないまま一学期が終わってしまう。
そして二学期。
状況は何一つ変わらない。
三学期になってもそれは全く同じ。
最初の一年は、友達が一人もできないまま終わってしまった。
春休み。
クラス替えがあるため、次こそ失敗しないように、と、もう一度原因を考えてみた。
すると、あることに思い当たる。
それは住んでいる地域の問題。
自分の住んでいる地域は県内でもずば抜けてガラが悪い。だから、ここの地域出身者からは、敬遠されたり見下されたりするのだと、中学時代、噂で聞いたことがある。
入学式の日に配られた連絡網には固定電話の電話番号が記載してあるのだが、市外局番から一発でその地域の人間だと分かってしまう。ザッと見た限り、似た局番の者は一人もいない。この地域から通っているのは自分だけ。
―――ガラが悪いトコロの人間やき関わり合いたむないんやな。この街の人間とは基本的に気が合わんのやね。っちゆーことは、友達作りやら最初っから無理やったんやん。―――
といった考えに至り、解決した気になろうとしていた。
でも、イマイチ納得できなくて。
というのも余所のクラスの同じ地域から通う者はこの街の人間とも馴染み、仲良くやっているのだ。
ならば、住んでいる地域が原因ではない。
―――なら、何が原因?―――
別方面から考えることにする。
―――会話に問題があったのでは?―――
そのシーンを全て思い出してみた(情けないことに、全て思い出せてしまうほど少ない)。
すると…
クラス内には友達作り初期の段階で、積極的に話しかけるタイプの人間が何人かいたはずだ。当然自分にも話しかけてきたのだが、その時の対応が…。
マズイどころの騒ぎじゃなかったのだ。
話しかけられた時、100%YESかNOだけでしか答えてない。しかも首を振るだけで声にすら出しちゃいない。せめてそのあとに一言二言付け加えていたら、会話が膨らんだ可能性はあったのに。
その「一言」を口に出さず、会話をぶった切ってしまっていた。
―――これかぁ…―――
思わずため息。
―――他には?―――
暗くて後ろ向きでテンパりやすい性格も関係あったと思われる。
知らない人から話しかけられるとテンパって、絶対に目線を合わせようとはしない。
イヤそうな顔。
無愛想な受け答え。
決して悪意があるわけではないのだけど、緊張からどうしてもこのような対応になってしまうのだ。
これは中学までの間にいろんな人から何度も何度もダメだしされてきた。
自分でもダメだとは思っている。直そうと思っているから注意されたときは意識するが、日が経つと忘れてしまう。そしてまた注意される、といった悪循環。
喋りかけられた時の表情を鏡で見たわけじゃないけれど、今回もこのようなリアクションをしていたはずだ。
付き合いの長い人間ならば、こちらの事情を分かった上で接してくれるから問題ないが、初対面の人間にそれを求めるのは酷な話だ。
激しく誤解され、友達作りの対象から外されても仕方ない。
すぐに去って行き、二度と喋らなかった人の気持ちも理解できる。
原因判明。
結局のところ、何もかも自分に問題があったのだ。
思えば男子校に入ってしまったという後悔しかなくて、一番大事なことに意識が回らなくなっていた。
原因が分かったからには改善すればいい。
そう思い、進級するたび意識して頑張ってはみたのだが…これがなかなか難しい。
自分の性格とは真逆のことをやっているため、すぐにボロが出る。せっかく仲良くなりかかっても明るさを維持できないのだ。油断した瞬間暗さが全開になるため、突如そっけない対応になってしまう。事情を知らない人間は当然のことながら戸惑ってしまい、それを機に離れていってしまう。
これは三年間尾を引いた。
完全に手遅れなのだが、高校を卒業する間際、中学まではなんで自分に友達がいたのか、できていたのかを改めて考えてみた。
思い当たったのは、フォローしてくれる人間がいたコトと、時間があったこと。
コミュ力が絶望的に乏しくて暗く後ろ向きな性格の自分には、その二つが必要不可欠だったのだ。
幼稚園、小学校、中学校と狭い範囲のみでの付き合い。しかも長期間とくれば、いくら不器用でもどうにか理解してもらえ、友達はできる。中学では隣の小学校が一緒になり、知らない人間が一時的に増えはするけど、この時点で既に幼馴染や友達がいて、そういった人たちが仲を取り持つカタチになり、なんとか成り立っていたのだ。
それに対して高校はどうだ?
フォローしてくれる人間が全くいない中でのスタート。
時間も短過ぎる。
進級するたびに実施されるクラス替えはクラスも人数も多いため、ほぼ完全に入れ替わってしまう。だから実質0からのスタートが3回と考えておかなくてはならない。
期限は1年しかないから、ある程度のコミュ力が必要となってくる。しかし、それを持っていない自分は何一つ行動に移すことができなかったのだ。
よってこの有り様。
正直男子校なんだし、友達なんか勝手にできるモノだと楽勝ぶっこき、ナメきっていた。
でも、現実はそうじゃなかったのだ。
「できる」のではない。
こちらから積極的に「作る」。
見下していたのは自分。
ガラの悪い地域出身者だからと僻んでいたのは自分。
作る努力をこれっぽっちもしなかったのは自分。
どう考えても自業自得なのだ。
この考えに辿り着けたのは卒業式の後。
手遅れにもほどがある。
そんな自分を心の底から恨んだ。
結局、この三年間でできた「辛うじて友達と呼べるかもしれない人間」は、片手で余るほど。しかも類友。ぼっちで暗い人間ばかりだ。そういった「友達かもしれない人間」も高校卒業と共に縁が切れてしまう。
というワケで、高校時代の友達は0人。
完全無ぅ~!なのだ。
あれだけの人間がいたというのに…全く情けないハナシである。
原因が分かった今。
大学では高校の二の舞を踏まないようにしよう。
今度こそ友達作り、頑張ろう!と心に誓うのだった。と同時に、なんとも低い目標で我ながらガッカリした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます