アイーダマーリア2

「何してるんですか、エイトちゃん」

ふと、背後から声を掛けられる。

可愛らしい透き通るような声。

声で誰か分かった。

エイトは小さく口を開く。

「エンジェ…」

彼女の名前を呼んだ。

しかし、彼女の方へと振り返ることは無い。

だって今の自分は情けない顔をしているから。

そんな顔を、エイトはエンジェフラワーに見せたくはなかった。

「もう、どうしたんですかエイトちゃん」

いつものエイトちゃんらしくない。

心配そうにエンジェフラワーが問いかける。

こちらへと歩み寄れば、エイトの事を見ようと顔を覗き込もうとした。

エイトが己の顔を両手で塞ぐ。

「み、見ないで欲しいかな…今の僕はとても情けない顔をしているから…こんな顔、エンジェに見られたくないよ…」

君に嫌われたくないんだ。

声が徐々に小さくなるのがわかる。

じんわり、と目尻が熱くなった。

そんなエイトにエンジェフラワーが瞳を細める。

そのままゆっくりと彼女のことを正面から抱き締めた。

思わずわ、とエイトの口から声が上がる。

「安心してくださいエイトちゃん。私はエイトちゃんに何があったかわかりません。でもね、私はエイトちゃんの味方ですよぉ。情けない顔をしているからって、そんなことで嫌いになったりなんてしません。絶対です」

だから、こっちを向いて。

彼女の頭をエンジェフラワーは優しく撫でた。

エイトは両手で覆っていた顔をエンジェフラワーへと見せる。

目尻からポロポロ、と雫が溢れ出した。

「エンジェ…っ」

彼女の名前を呼んだ。

溢れた涙はポツポツ、と地面へと降り注ぎ世界を濡らす。

そんな頬から流れ落ちる涙を、エンジェフラワーは指先で拭う。

「私はエイトちゃんのいつもの顔も、今の顔も、全部大好きですよ」

穏やかに微笑んだ。

夕焼け色の瞳がエイトの瞳へと映る。

エイトは遠慮がちにエンジェフラワーを抱き締め返した。

ぽつと空から零れた雫が、天井のガラス張りの窓を濡らす。

世界に雨が降り出した。



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