五十六章 アイーダマリーア

ここは温室。

花々が満開に咲き誇る。

そんな中、白い椅子に腰掛けつつ、テーブルクロスがひかれた机の上へとエイトは突っ伏していた。

ぼんやり、とガラス張りの透明な天井を見上げる。

「はぁ…」

大きく溜息をついた。

「学校、行きずらくなっちゃったな」

そう小さく呟けば、机の上に転がされたマカロンをひとつ、人差し指の先で転がした。

眉が下がる。

あの時、神前昴を見つけた時。

栄斗は謝ることすら出来なかった。

いや、彼の目の前に立つことすら出来なかったのだ。

それくらい己の中でも気にしていたらしい。

「言ってしまえば、僕は彼のお陰で魔法少女になったようなものなのかもしれないなぁ」

栄斗の願いは人に嫌われたくはない。

特に、エンジェフラワーには嫌われたくはなかった。

もしかしたら、神前昴にも嫌われたくはないのかもしれない。

だから彼が目の前に現れた時、咄嗟に身を隠してしまった。

だってきっと

「彼は、僕の事を嫌っているだろうからね」

眉が下がった。

おかしてしまった過ちは、決して取り返すことは出来ない。

エイトは青く澄渡る空を見つめた。

白い雲がぷかぷかと浮かんでいる。

「これから僕はどうしたらいいんだろう…エンジェにもきっと話せないや。僕のこんな汚いとこを話したら嫌われてしまうもの」

今にも泣きそうな声で呟いた。

指で転がしているマカロンへと爪が食い込む。

マカロンのピンク色の可愛らしい生地が、少しだけ砕けた。

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