シュシュ・ア・ミティ3

在舞は談話室でオレンジジュースの缶を片手に溜め息をついた。

要舞は大丈夫だろうか。

彼がまた友人を失ってしまうんじゃないかと思うと怖かった。

本当はそこまで気にしなくても良いのかもしれない。余計なお世話なのかもしれない。

それは在舞が一番よく分かっていた。

でも、あの時、彼が交通事故にあった日のことを考えるといても経っても居られなくなるのだ。

「過保護過ぎるかな……」

小さな声で呟いた。

不意に、後ろからトントン、と肩を叩かれる。

なんだよ、と後ろを向けば黄色い瞳と目が合った。

「大丈夫かい?アルくん」

お困りのようだねと笑いかけてくる玲に在舞は再び溜め息を吐いた。

「なんだ、アンタか……」

その言葉に玲がふふ、と笑った。

「僕だよ。玲だよ。覚えてる?」

鬱陶しそうに彼から身体を背ければ、オレンジジュースの缶を握りしめる。

「……まあ、一応」

忘れる訳がなかった。

こんなにも変な奴忘れてたまるか。

そう、心の中で呟いた。

彼の言葉に嬉しそうに玲が笑う。

「覚えてくれてよかった。ありがとう」

穏やかに笑う彼の姿。

そんな笑顔に、さっきまでの蟠りが消えた気がした。

「どういたしまして……あと、アンタも過保護すぎ」

人のこと気にしすぎじゃない?と笑えば空になった缶を投げてゴミ箱に入れる。

カコン、という音が部屋にこだました。

「過保護?そうかな?僕は君のことを放っておけないだけだよ」

その言葉にあーはいはいと在舞が返事をする。

「それを過保護って言うんだよ」

そうかなーと玲が首を傾げた。

それ以外なんでもないでしょと在舞が苦笑いする。

「でも、僕は君を放っておけなくて……」

その言葉に在舞が問いかける。

「毎回思うんだけどさ、なんで放っておけないの僕のこと」

ずっと同じこと言ってるじゃんと玲を見詰める。

パチパチ、と蛍光灯が切れかけた音が鳴った。

手を在舞へと伸ばせば彼の頬に手を当てる。

くい、と顔をこちらへとしっかりと向かせれば、瞳を細めた。

「大切な人に、似てるから、かなぁ」

彼の右目についたガーゼが剥がれ落ちる。

ぽと、と床へ落ちた。

紅く染まった彼の瞳。

蛍光灯の電気が切れたのか、辺りが暗くなる。

玲の瞳。

その深い紅に、在舞は思わず惹き込まれた。

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