五十一章 トワ・エ・モワ

「ちょっと、良いかな?」

葵が要舞に話しかける。

「え、あ……うん」

戸惑いつつも要舞が首を縦に振った。

よかった、と葵が笑う。

彼へと手を差し伸べれば、要舞はその手を取った。

要舞の手をしっかりと葵が握りしめる。

彼を椅子から立たせればそのまま手を引いて自室へと向かった。

自室に着くまで、一言も言葉を交わすことは無い。

特に、何かあった訳では無いが、お互いに上手く話せなかった。

葵の部屋へと入れば、己とは正反対の清潔感に溢れた整った部屋。

確か、片付けが得意って言ってたなぁとぼんやりと考える。

葵は扉を閉めればちょっとまっててと床に二つクッションを置いた。

ありがとうと要舞は小さく声を零す。

ちょこん、とクッションの上に座った。

葵も隣に座る。

「……」

静かな時間が流れた。

どうしたいいか分からず、要舞は視線を床へと向ける。

気まずくて、葵から視線を逸らしたかった。

そんな要舞を、葵は見つめれば、深呼吸をする。

胸へと手を当てれば、ゆっくりと息を吸って、吐いて。

覚悟が出来たのか、ゆっくりと瞳を開く。

そして立ち上がれば、勉強机の上に置いていったカメラを手に取った。

「要舞くん」

葵が彼の名前を呼ぶ。

「な、なに、葵」

名前を呼ばれれば思わず彼の方を向いた。

葵がこちらにカメラを構えている。

そして、己の事を見詰めればこういうのだ。

「笑って?」

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