ア・フォース・コア・ディヴゥラート 5

ゴン、という大きな音がどこからか聞こえる。

誰かが何かにぶつかったような、倒れ込んだような、なんとも言えない鈍い音だった。

まさか。

そう思い、急いで葵が三年二組の教室を勢いよく開く。

がらんとした、誰もいない教室。

そこの廊下側の席。扉側。

そこに栗毛の生徒が顔を青くして倒れていた。

「要舞くん!?」

そこに倒れていたのは要舞だった。

思わず葵が声を上げる。そして側へと駆け寄れば彼の肩を軽く揺する。

意識はない。

問いかけてみる。

意識はない。

葵は之彦の方へと振り向いた。

「之彦くん、誰か呼んで!早く!」

その声にハッとして、現状を読み込めず、その場に突っ立ていた之彦が頷き、すぐさま職員室へと向かう。

葵はその場に正座すれば要舞の頭を己の上に乗せた。

これで少しでも呼吸が楽になるかと思ったからだ。

心配そうに優しく要舞の頭を撫でる。

「う……」

うなされているのか要舞が葵の手を掴む。

「要舞くん……?」

大丈夫かと、問い掛けようとした時、要舞の口から声が零れた。

「ごめん……ごめんね……ゆるして……御影……」

その言葉に葵が瞳を大きく開く。

思わず葵がそっと、要舞の首筋をなぞるように指先で撫でた。

「そっか、君が……そう、だったんだね要舞くん」

今にも泣きそうな声が零れた。

ふるふる、と葵が首を横に振る。

心のどこかでは分かっていたのかもしれない。

要舞が御影にとって大切な人だということを。

あの日、要舞と出会った場所を葵は思い出す。

御影の墓の前で傘を差し出してくれた彼。

ずっと彼と、御影と一緒にいた人物が要舞だということを、葵は心の底で分かっていたのかもしれない。

ハハッと乾いた笑い声が零れる。

「君が、君が彼の友人だったなんて……僕は、君を嫌いになんてなれないじゃないか」

そう、呟けば強く要舞の心臓部、その白いシャツをくしゃり、と強く握りしめた。

教室は葵の心とは裏腹に静かで、外からの雑音は一切聴こえてこない。

そっと、要舞が瞳を開く。

大粒の涙を降らす葵が視界に写った。

ゆっくり、と葵へと力を振り絞って手を伸ばす。

優しく葵の頬を撫でれば眉を下げて微笑んだ。

「ごめんね、葵。僕は君を沢山泣かせてしまっているよ…」

葵が大粒の涙を流しながら首を横に振る。

「ごめん、ごめんなさい、要舞くん……僕は、僕は君を恨みたくないよ……」

その言葉にハハッと要舞が笑う。

「僕は葵に恨まれていたのかい?ふふ、それは面白いね」

そう笑うとむに、と葵の頬をもむ。

「良いんだよ、恨んだってさ。君が僕を恨むってことはそれだけの事を僕はしたんだろう?だから、そんなに泣かないで欲しいな」

一人で抱え込んで辛かっただろうに。

そう、言うと葵の首へと腕を回してにこり、と笑った。

「よかったら、相談して欲しい。僕は君に、友人である君に幸せになって欲しいんだ」

その言葉に葵は救われた気がした。

ありがとう……と小さな声で呟く。

日が沈みかけていたのか、空が夕焼け色に染まっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る