シリウスは幻を生みだす2

やまない雨はない。

そんな言葉をよく聞く。

でも、この天気的に空は雨をやます気は無いんだろうな、ぼう、と幸は窓の外を眺めた。

風が強く吹き、雨が真横に降り注いでいる。

その雨の雫が窓を叩きつけていた。

「凄い、風ですね……困りました。生徒たちのテストの採点をしなければいけなかったのに……」

家で採点をする為に持って帰ってこれば良かったです、と水篠幸みずしのこうは眼鏡をくい、と人差し指で上へと持ち上げた。

「お疲れ様です~、幸クン」

後ろから陽気な軽い口調の声が聞こえる。

コト、と言う音がした。幸の机の上へとコーヒーの入ったマグカップが置かれる。

幸が後ろを向くと紫色の瞳と目が合う。

「あ、嗚呼、お疲れ様です、あづきさん」

どういたしまして~と小倉おぐらあづきは嬉しそうに顔を綻ばせる。

小倉あづきという青年。

彼は幸にとって、とても大切な人だった。

彼の職業はケーキ職人で、幸は教師だ。

そんな接点がなさそうな二人。

彼らはある時以来、こうしてずっと一緒にこのアパートの一室を借りて住んでいる。

家事はあづきが、片付けや金銭管理は幸が。

お互いの得意なことを担当して過ごしていた。

机へと置かれた甘く作られたコーヒー。すっかり好みも把握されて、胃袋も掴まれたなと思わず幸が微笑む。

「大変そうだねぇ、テストの返答明後日なんだっけ?」

間に合う?と心配そうに首を傾げた。

幸は思わず顎に手を当て、ンー、と声を零す。

「多分、……なんとかなるでしょう」

考えすぎて疲れました、と幸があづきへと寄りかかる。

つんつん、とあづきが幸の頬をホークで突っついた。

「いたっ……!」

思わず幸が頬を抑える。

「何するんですかいきなり!……って、あづきくんまだ、それ持ってたんですか……?」

何の変哲もないフォークを見て幸が思わず問いかけた。

「あー、うん、まぁ、ね」

一応一応、と笑う。

そして何事もなくそのフォークを大切そうに眼鏡ケースのような箱へと大切に入れた。

そして幸の頭に付いた花のピンを突っつく。

「幸だって、まだ、付けてるじゃん」

その言葉に幸は眉を下げて笑った。

「そうですね、付けてます。もう、十年前のことなのに……まだ、僕は、僕たちはあの時の時間に囚われているんですね……」

その言葉にあづきが苦笑いした。

わしゃわしゃと幸の頭を撫で回す。

「そうだねぇ、囚われてなかったら幸クンは羽灯縁学園はぴえんがくえんの先生になったりしないよねぇ……」

撫で飽きたのか、幸の頭から手を離せば、ははっと笑いながら幸の隣へと座り込んだ。

幸が眉を下げて、笑う。

「また、彼に会えるでしょうか」

その言葉にあづきは首を傾げる。

「さあ、啓示者様は気まぐれだから、ねぇ……」

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