一章 流れ星は夢をみるか?

ゴーンゴーン

カリヨンの鐘の音が鳴る。

どうやら眠っていたようだ。降谷ふるやゆうきは目を覚ました。

咲き誇る薔薇のように紅い深紅の瞳をゆっくりと開く。

ここは学園の敷地内にある図書館。辺りを見渡すと誰も居らず、オレンジ色の光が窓からゆうきの紺色の髪へと差し込んでいるだけだった。

夕日を見たのはいつぶりだろう。ゆうきは眠っている前に読んでいた星座の本へと視線を落とす。

ゆうきは星が好きだ。

そういえば、兄が居なくなったあの日も星が綺麗だったなぁと思い出す。

ゆうきの家族は父、母、兄、自分の四人家族。

『大切な人を幸せにしたい』という言葉が口癖の警察官の父。

穏やかで優しい母、そして今現在行方不明の兄。

兄とゆうきとはかなり歳が離れていた。

兄は高校生の時に、何故か分からないけれど、家から飛び出して行ったことをゆうきは未だに鮮明に覚えている。その時にごめんなと言われ、渡された指輪を今でも御守りのように大切に持っていた。

ポケットの中に入れていた指輪をぎゅ、と握りしめる。

会いたいなぁ……

そう、小さな声で呟いた。

次のページへと本を捲る。

ベガ

デネブ

アルタイル

夏の大三角形

この星たちが道標になって兄の行方も分からないだろうか。

そんなことを考えていた。

グニャリ、

ページに書かれていた文字がまるでミミズのように歪む。

その文字たちはゆっくりと蠢いていた。

ゆうきは思わず椅子から立ち上がる。

ガタ、と、椅子の音が静かな空間にこだました。

うぞうぞ、と言う音を立てながらゆうきへと文字が向かってくる。

思わず本を振り払った。

開いていた窓から風が招かれる。

振り払われた本が風になびき、パラパラ、とページが捲られた。

目の前が真っ暗に染まる。

思考もまるで何かに遮られたかのように、何も考えられない。

ぼんやりとした脳。

行く宛てもなく、天井へと弱々しく伸ばされた手。

助けを呼びたかったのかもしれない。

しかしその抵抗も虚しく、そこからの記憶はゆうきにはなかった。 

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