第3話幼馴染と彼女が話した結果僕はドM認定された

朝になった。


今日も、変わらない一日が始まる。


そんなことを言って朝食の準備を始めたい今日この頃だ。


変わらない一日などない。特に今日はそうだ。


変わりすぎている。


昨日は秋月紅葉に告白され、付き合うこととなった。


そして何か幼馴染が行動するらしい。


あまり大きくならなければいいが…


そんなことを思いながら。食パンと目玉焼きを胃の中にしまい、家を後にした。




---------------------------------------------------------------------------------------------




いつもの通り学校へ到着した。遅刻ギリギリ。うん、いつも通りだ。


そして、あとはドアを開けて着席してっと。


ガラガラガラ


ジロッ


クラスメイトからの好奇な視線が僕にぶつかる。うるさかった教室も静かになった。


「えっと、何かな。何か僕変かな?」


シーン


誰も答えてくれない。なんだなんだ。どうしたっていうんだ。


とりあえず席に座るか。


ペタペタペタ


自分の席に座るまで誰も動かない。自然と、自分の足音しか聞こえない。


座って


「ふうっ」


とため息をついて、今の現状を考える。


僕が何をしたっていうんだ。そんな注目を浴びるようなことはしていないはずだし、何よりも静まり返るような悪いことはしていないぞ。


まだ教室内は静かだ。好奇の視線もさっきより減ったがまだ刺さっている。


あれ僕の席の周りには誰もいない。七海は、絶対僕より早く来るはずだけど。珍しいな。


ガラガラガラ


誰か教室へ入ってきた。そいつは、僕を見つけるや否や、大きな声でこう言った。


「いやー参ったよ!お前があの神のごとし美形の秋月紅葉を落としたなんてさ!」


僕と、七海と秋月しか知らないはずの情報を言ってきた。そいつは、前の席で、僕の友人風間裕也だった。


「なんで知ってるんだ。」


僕は慌てたように言う。


「おいおいおい、知らねーのかよ。」


「何を?」


「優理のフィアンセちゃんがあの秋月紅葉のところに殴りこんで開口一番


「優理に告白したでしょ!あれなしだから!」


って言ってたんだぜ。」


笑いながら裕也は言う。こいつ他人事だからって楽しみやがって。


というか七海。クラスの雰囲気がこうなっていたのもお前のせいか。


いないと思ったら、朝からそんなことをぶちかましていたんだなんて。


そりゃ、好奇な視線をぶつけられるわ。


「で七海は?」


「さっきまで秋月のところに行っていろいろ言ってたぜ。そろそろ来るんじゃないか。」


「そうか。」


七海め、行動が早すぎるんだよ。僕のことを思って動いてくれるのはいいけどさ。それと


たぶんあいつじゃ、受け流されて終わりな気がする。


で機嫌が悪いんだろうなあ


ガラガラガラ


七海が入ってきた


案の定、ご立腹の様子だ。


クラスメイトも七海の様子が伝わり、どうしたものかという表情を浮かべていた。


七海が席に着いた後、なだめようとして僕は


「あの、七海、


「ふんっ」


言い終わる前に速攻拒絶された。


ああこんなになってしまったら、一日手が付けられないぞ。あとは授業中寝たら殺されることは決定的だろう。


なぜ七海は朝から言ったんだ。


そんなことを考えても解決なんてする由もなく、


「はあ」


一言ため息をついてから、僕は、本をとりだし、ホームルームに備えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


昼休み前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。


お昼休みだ。


いつも僕は、購買に行ってパンを買っている。


弁当を作ってもいいのだが、それは面倒だから結局買いに行っている。


七海も機嫌が悪そうだし、昼休みという目立つ時間に、秋月に聞きに行くというのもあれだから、とりあえずパンを買って、どこか日の当たるところで食べようかそんなこと思っていた矢先、


「優理くん、一緒にご飯食べましょうか。」


僕のクラスにそういって秋月紅葉が入ってきた。


教室内には一瞬で緊張感が張り巡らされる。


ちらりと隣を見る、七海からただならぬオーラが出ていることを感じる。


ああどちらに転んでも僕の寿命はここまでかもしれない。


「優理くん。あなたいつも購買で食べているわよね。私、お弁当作ってきたから一緒に食べましょ。そうね天気がいいから外でいいかしら。」


秋月は、当たり前かのように言ってきた。しかしなんだ、何もしないと見とれてしまいそうだ。


「あ、ああ。そうだね、わかった。外に行こうか。」


僕の額には冷や汗が滝のように流れている。


本当は返答したくなかった。何が正解なのかわからない。


教室の雰囲気もさることながら、一番に思っていることは、


こわい。


この感情が強い。


隣の席のオーラがより一段と濃くなっている。


「じゃ行きましょ。」


秋月が僕の手を取り、外に連れて行こうとしたその時、


「優理は、私と一緒にご飯食べるんだよねー!ね!」


満面の笑みで僕の手を目にもとまらぬ速さで手刀を繰り出し、僕の手をたたく。


さっきまで手にあった秋月の体温が感じられなくなった。


「何貴女。朝も言ったじゃない。優理くんは、私の彼氏よ一緒にご飯を食べる権利は私の方が上のはずよ。それに今優理くんだって、外に行こうとしてたじゃない。」


「優理は優しいから、言われたらついて行っちゃうの。嫌がってるのわからないの?」


ああどちらもすごい気迫だ。当事者だけどここから抜け出したい。


てか、七海は僕のことをそんな連れ去られる子供みたいな感じで認識していたのか。


「暴力を振るわれる方が嫌なのではないかしら。乱暴な子は嫌われるわよ。」


「優理はこのくらいだったら、逆に大喜びだよ!ね!」


教室内がざわつく。


やめてくれ。僕にはそんな趣味はない。


「いや僕にはそんな趣味はないけど。」


「ね!たたかれるのが僕の最高のご褒美です。もう少し痛めつけてくれてもいいんですよって言ってるでしょ!」


おいおい全く話を聞いてないじゃないか。


教室内がざわつく。僕ではなく、七海が言った面白そうなものだけ、たぶん拾われているんだろう。ああ、これは、変な噂が広まってしまうなあ。それだけは勘弁してくれないかなあ。


「まあいいわ。そんな優理くんも私は受け入れる自信はあるから。ごめんね優理くん。最初は本当に痛いかもしれないけど、ちょうどいい痛みになるように私頑張るから。」


「いや、僕にそんな趣味はないから!」


「あるよ!」


七海が無責任なことを言う。頼むから言わないでくれ。本当に僕がドMだと思われるだろう。


「まあいいわ、優理くんは今回譲ってもらうわ。昨日話したこともちゃんと受け止めてほしいし。」


毅然な態度を崩さず、秋月は言う。


「でも…」


七海はまだ反論しようとする。


これ以上は、僕の下がりきった株が腐ってしまう。


「ごめんな。七海。僕も秋月さんと話したいと思ってたんだ。今回は我慢してくれ。」


七海は無理やり納得してくれたらしく


「分かった。今日は、みっちり一緒に勉強してもらうからね!あとマッサージもすること!」


と送り出してくれた。


「分かったよ。また後でな。」


「では、七海さん、失礼するわ。」


七海に軽く頭を下げ、秋月は、廊下へ向かう。


「では、気を取りなおして昼食と行きましょうか。あと私のことは紅葉って言ってと言ったでしょ。」


はにかんで僕の方を見て言った秋月の顔は、とても綺麗で、それでいて可愛らしく、僕の緊張度を最大限に上げるのには、十分な要素だった。


教室から出た後、後ろから

フィアンセが新しい女に負けたー!

というような声が聞こえた気がしたが、僕はなんだか疲れてしまって意識を向けることはなかった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る