第2話 告白されたから僕はささみチーズフライを食べる

「水上優理くん。あなたとの約束を果たしに来たわ。結婚を前提にお付き合いしましょう。


そして君のことをずっと守るわ。」


「へ?」


僕は学校一の美少女である秋月紅葉から急な告白を受け、そんな間抜けな声しか出なかった。


秋月はそんな僕の動揺が分かっていないのか、続けざまに


「付き合ってくれるわよね?」


と念押しするように秋月は言った。


僕は混乱しすぎたことと、美少女に告白されたということで


「はい」


といってしまった。


「ありがとう。優理くん。これであなたと一緒にいられるわ。」


少し頬を赤らめ、うつむきながら言う秋月はとてもきれいだ。


しかし僕はそんなこと思っている場合じゃない。


状況を呑み込めていないのだ。


状況はわかっている。とてもシンプル。


秋月に下校中告白された。それをOKした。ただそれだけ。


でもでもでも、こんなことあり得るのか。ただでさえ告白というものには無縁だった生き方をしている人間だ。それをこんな美少女にしてもらうってあり得ない。


ああそうか、聞き間違いをしているのだな。


そうそう告白されたと思い込んでいるから、変な解釈になっているだけだ。


もう一度やり直そう。


「秋月さんちょっといいかな?」


「なに?」


「聞き間違いだったら申し訳ないんだけど、付き合ってくださいって言った?」


「ええ。いったわよ。」


「そうかそうか。じゃあこれから僕は秋月さんの彼氏になるのか。」


「ええ。そうよ。」


「......えっ、本当に?」


「ええ。本当よ」


これはまずい。本当に本当だったらしい。


いや何もまずくはないのか。秋月が彼女になるということは、僕にとっての幸運なのだから。


少しの間、僕が考えていると、


「お時間とらせたわね。これから一緒に帰りたいところだけど、用事とかあるわよね。バイバイ優理くん。明日からは、紅葉って呼んでね。じゃあね。」


秋月が急に歩きだした。帰る方向は学校側だったから、僕を待っていたのだろう。


え!とも思ったが明日もう一度聞けばいいし、追いかけなくてもいいか。なんか疲れたし。


この決断が後々、あんな事態を引き起こすだなんてこの時の僕には想像もつかなかった。


「ただいまー」


家に帰ると声が響く。空虚な時間。


それもそうだ。両親は海外に行っていて年に何回かしか帰ってこない。


どうせ言葉は返ってこないのだから言わなくてもいいとは思うが、まあ言っておく癖はつけといたほうがいいだろう。


手洗いをした後、のそのそと自分の部屋に戻る。


宿題を片付けた後、料理を作る。いつものルーティーンだ。


トントントン


テレビもつけないで料理しているため、その音が響く。


ふと台所に立っているときに今日を振り返った。


「ふう、今日は、人生のピークなのかもしれない。」


そう宿題をしていた時には、何も考えないようにしていたのだが、今日は、学校一の美少女である、秋月紅葉に告白されたのだ。


人生のピークといっていいだろう。


「なんで僕なんだ。」


そんな疑問が当然のように頭に浮かぶ。


親しいわけでもない。連絡先も知らない。というか、一回でもしゃべったことがあっただろうか。


一目ぼれ?


いやそんなことはない。どう考えても僕は美形でもないし、身長がすごい高いわけでもない。


「約束って言ってたよなあ。」


そう約束。約束を果たしに来たと秋月は言っていた。


もちろん秋月に会った覚えがない僕は、約束など覚えているはずもない。


何だろう。ただ疑問を深めるばかりだ。


「そんな考え事をしてると、おじさんになっちゃうよ!」


ビクッ


急に後ろから、声をかけられた。


「おいおい、驚かせるなよ、七海。危ないだろ。」


「そう?ごめんね。私的にはただいまもいていたし、気づいていたと思ってた。」


ちょっと申し訳なさそうにしている七海。


これは考え事をしていた俺に非があるな。



「ああ、そうだったのか。すまんな。考え事に没頭してたみたいだ。」


「いいよ!全然!というかどうしたの?考え事なんか、優理らしくないじゃん。」


心底珍しいといった表情を浮かべる七海。


「ああ、ちょっとな。僕の人生のピークがなぜ来たのかということを考えていたんだ。」


「ピーク?ふーん、いいことあったのに悩んでるの?へ~んなの。で何があったの?」


ああ、どうしようか、言ってもいいのだろうか。まあ幼馴染だし言ってもいいか。どうせ明日には知ることとなるのだし。


「実はな、今日、僕告白されたんだ。」


恥ずかしい。事実を口に出すだけなのに。


「またまた~、いつもの軽口たたかないの。で本当は?」


七海は笑って答える。


「今日告白されたんだ。」


「またまた~、いつもの軽口たたかないの。で本当は?」


「告白されたんだ。」


「またまた~、いつもの軽口たたかないの?で本当は?」


七海が急にRPGの村人のようになってしまった。これは、僕が現実に戻してあげるしかない。


「今日の夕飯はささみチーズフライと、サラダ、ごはん、みそ汁。」


「美味しそう!」


よし現実に戻ったな。


「今日、告白されたんだ。」


「またまた~、いつもの軽口たたかないの。で本当は?」


また、現実世界の住人からRPGの住人になってしまった。


「あのな、本当なのよ。告白されたんだ。」


「えっ、そうなんだ。本当なんだ…。」


七海は見るからに衝撃を受けている。


それはそうだ、昔から女の子と縁が無かった僕が急に告白されたんだ。


急に気が動転してもおかしくない。


「そんなんだよ。だけど、告白される理由がないんだ。罰ゲームかとも思ったけども、そんなことをする人ではないと思うし。」


そうなのだ。だから困るのだ。やはり本気なのだろうと、思ってしまうから。だからこそ悩んでいるのだ。


「誰!?名前は?」


急に距離を詰められ問い詰めてきた。そりゃ、モテたことのない幼馴染が告白されたんだ。


「あっ秋月紅葉、知ってるだろ。」


あまりの剣幕に言葉がうまく出てこない。


「秋月紅葉だって~~!うそでしょ!」


後ろに飛び跳ねるくらい七海は驚いた。


「だからほんとだ。」


事実通りであるから肯定する。


「告白は受けたの?あの子のことよく知らないんでしょ。」


当然の疑問だ。だが、近い。さっきより距離を詰められた。


前後に激しく動いて疲れないのか。


「衝撃的過ぎて、はいって答えちゃったよ。そのあとは、秋月さんは帰っちゃったし。理由も聞けなかった。」


「えーーー!何それ!そんなのダメだよ!私、明日秋月さんに言うよ!そんなのは、どっちに対しても利益がないし!」


興奮しながら七海は言う。


「いいよ、別に。僕が明日秋月さんにちゃんと聞くからさ。」


そう。考えた結果、それが一番手っ取り早いのだ。


「いーや、私がちゃんと言うよ。優理って、全然自分の意見を通さないじゃんか。」


「えっでも。」


「でもじゃない。私はこれから作戦練るから。今日は勉強教えてもらわなくていいや、じゃあね!」


バタバタッ


走って七海は帰っていく。話を聞かずに帰ってしまった。まあ隣の家なのだが。


「はあ、どうしたものか。」


思わずため息がこぼれた。


「とりあえず、ささみチーズフライ食べるか。」


サクッ


あーうまい。自分で思うよりも、うまくできたな。


うまいうまい。




結果として何も考えず、明日の自分に任せたのだった。

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