君の香りはもう思い出せない~クーデレな彼女を思い出す最後の方法~

@rakunamon

第1話

【プロローグ】君の香りはもう忘れた。


いつも君がそばにいた。幼いころからずっと。


学校へ向かうあの桜並木を通るたびに、君はいつも笑顔を振りまいていた。


癒されていた。君が僕のすべてだった。


ああなぜ今思い出すのだろう。


近づいたときに鼻腔をくすぐるあの甘い香りはもう消えたというのに。


これは罪だ。僕が拭い切れるはずのない罪。


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5月


空が青く澄み渡っている。気温もちょうどいい。こんな時は、外で日向ぼっこでもしていたいが今は授業中だ。机で寝るしかない。


べたっと机に顔を伏せ退屈な授業をBGMにもうひと眠りしよう。


そう決意したその時に


「おーい」


声をかけられた。隣の席からだ。


なんだ。これから僕は、二度寝という人類の崇高なる行動を起こそうとしているのに、何たる無礼を働くやつだ。


構わず僕は寝る態勢に入る。


「おっ、…おーいダメだよぉ。」


うるさいな、なんで邪魔するんだ。


いや構わない。無視をしよう。


もう二回ほど声をかけられたが、取り合わない。これが僕の最善策。ああ隣のやつもあきらめたようだし、ようやく静寂が…


「うーーん。そうかぁ。そういうことなら。」


カチカチカチ、ツー


うん?


僕の首筋に冷たいものが当たったよな。今はズキズキとした痛みに襲われてる。


ということは…


「おいこら、カッターで僕の首を切っただろ。」


授業中ということもあり声は押し殺しているが、このふつふつとこみあげてきた感情を押し殺すことはできない。


「あは笑。ばれちゃった、ごめんね。薄皮一枚程度だから許してよ。授業中に寝てる、優理が悪いんだからね。」


授業中に寝てる=首をカッターで切っていい(薄皮一枚程度だが)とはならない気がするけども。


「分かった。起きるよ。次寝たら、薄皮一枚では済まされないからな。」


授業が終わった。放課後となり、生徒は部活なり、帰宅なりと自分たちの進む道へと歩んでいる。


そんな中僕は教室の椅子に座らされ、自分が進むべき帰宅という道の一歩を踏み出せずにいた。


「ここに座らされてる意味わかってるよね。」


ものすごい剣幕で迫ってしゃべってきたのは隣の席の神田七海だ。


こいつは、幼少期からいつも一緒にいるいわゆる幼馴染ってやつだ。


一時は疎遠の時期もあったが、なんだかんだここまで一緒にいる。


「ああ、今日の僕に対しての暴行の謝罪だろ。」


軽口をたたく。今ここにいる理由はわかっているから。


「ちがうよー!また授業中寝てるじゃん!そんなんじゃ私、優理のお母さんに顔合わせられないよ。優理のことを頼むねって言われてるんだし。」


そう、これは、説教だ。いつも母親の代わりのような形で、七海はいつも僕を怒っている。


だがそんなに怖くない。小柄だし、何より子供っぽい。まあ胸はそれなりに成長しているんだけどさ。


「まあ、いいだろ。テストは満点近くとるんだしさ。許してくれ。そして母さんにまじめに授業受けているからお小遣いを上げてくれと頼んでくれ。」


軽口をたたきつつ、早く帰りたいオーラを出す。


「もう!うその報告なんてできないよ!点を取っているから授業聞かなくていいとかそんなルールはないの。罰として私と一緒に帰って、私の家で勉強教えなさい!」


なんて罰なんだ。というか授業寝てるやつに勉強教えてってこいつにはプライドがないのか。そんなことを思いながら


「それは罰というのか」


と口にする。


「罰なの!」


かわいらしく頬を赤くし膨らませながら七海は言った。


「まあまあ、落ち着けって。分かった。一緒に帰ろう。」


「うん!」


満面の笑みを浮かべた七海を見て、はあ、俺に構ってて部活はいいのか?と思いつつ教室を後にする。


「あーー!ななみ!」


「ゲッ、ヤバ。」


教室を出た瞬間大きな怒声に近いような声が僕たちの方に向かって飛んできた。


バタバタッ


走って向かってきたのは、七海の部活仲間、南条麻衣。部活に熱心でいつも大会に向け努力努力と口癖のように言っている。


「ここにいたのね早く部活行きましょ!再来週は大会なんだから早く!こんなんじゃいつも努力している意味がなくなっちゃうわ!」


「私はこれから優理と帰るのに~!帰るのに~!」


引きずられていく僕の幼馴染。


周りにはもう誰もいない。


ライフというアプリを開き、

[先帰ってる。勉強は教えてやるから。]

と打って送信。

「これで終わりっと。」

一人になった僕は、学校に長居する用事もないので、そそくさと学校を後にした。

帰宅途中、何らいつもと変わらない道を歩いていると僕と同じ制服を見かけた。


その子はただ茫然と立っていた。

肩甲骨あたりまである黒髪が、風になびかれつつ、ただ立っている。

神々しかった。ただ立っているだけなのに、そこの空気だけが切り抜かれたようなそんな感覚。


僕がそこに歩いて行ってはダメなのではないかと思うほどであった。

よく見るとその子は早くも学校で一番美人といわれている高校1年の秋月紅葉である。


やっぱり美人だよなあとも思いつつ、迂回して通るのも変なので、そのまま秋月の方に歩いていく。


すれ違いそうになった。

その瞬間、秋月の髪がふわっと動き、秋月の瞳と僕の瞳が合った。


正面から見た秋月は美しかった。この世のものとは思えないほど整っていた。


その衝撃は僕のこれからの人生で長い間衝撃な出来事ランキングトップに君臨するだろうとも思うほどだった。

秋月は笑みをこぼし、こう言った。

「水上優理くん。あなたとの約束を果たしに来たわ。結婚を前提にお付き合いしましょう。

そして君のことをずっと守るわ。」


「へ?」


そんな間抜けな声を出したとともに僕の人生の衝撃な出来事ランキングは早くもトップが塗り替えられた。


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