第13話 おかん、見事解決!
昼休み、おかんからメッセージがきた。
『澪ちゃんを連れてきて!』
短い文章だったが、事件のことだなと直感的に思った。やっと謎解きを聞ける。
澪に伝えると興奮していた。
放課後になり澪と共に家へ帰った。あまり会話はなく、二人とも事件のことを考えていた。楽しみではあるが、緊張しているおれがいた。
リビングに入ると、美脚体操はしていなかったがおれのパンツを畳んでいた。入ってくるのを狙っていたようにパンツを両手で広げ、こちらに向けていた。グレーのボクサーパンツで、ゴムが少し緩くなっているのが気になった。せめて新品だったならば。
「おかえり」
「パンツ広げながら言うな」
「澪ちゃんもこんにちはー」
「やから広げながら言うな」
澪は困ったように笑った。
おかんはパンツを畳むと、ダイニングテーブルの椅子に座った。おれと澪も荷物を置くと座った。
「おかん、先輩を連れて来いってことは、事件のこと話してくれるんやろな」
「そうやで」
澪は固唾を飲むと、
「き、聞かせてください」
「ええよ」
おかんはにこやかに笑い頷いた。
「今日のお昼頃な、朝倉刑事から連絡があって、矢島春菜が重要参考人として引っ張られたって教えてくれてん」
「それって、矢島が犯人の可能性が高いってこと?」
とおれは尋ねた。
「そやね」
「朝倉さんに耳打ちしてたのと関係あんの」
「ある。調べてもらいたいことがあってな」
「密室殺人の方法もわかったん」
「わかったわさ。社長室に鍵をかける方法は、二つあるよな? カードキーとKetuに頼む方法と。この事件はKetuが使われた。
とある理由により、矢島が犯人ではって思った。私が思いついた密室トリックに関係していることを行ってたから。矢島はおそらく、社長さんと愛人関係にあった。折原さんが言っていた一人が矢島やった。それも前提に考えていくと、密室のトリックが解き明かせるんよ。社長さんはキャバクラをキャンセルしたやんな、あれは矢島と会うため。矢島に誘われたんやろね、それでキャンセルした」
「でも社長室におったやろ。まさか……」
「そう、そういった行為は社長室で行われていた。会社に誰もいないはずやのに鍵をかけてたのは、そのため。入ってこられたら大変やからなぁ……」
「まあ、確かに」
「前からスペアキーを持ち出して鍵を閉めることがあったのも、仕事の理由もやったやろうけど、情事のためでもあったんやろうね。不潔やわ。
防犯カメラを壊したのは矢島やろね。壊れたのを最初に発見したって言ってたけども、自分で処理した」
「みんなが帰り社長室へ?」
「そやね。矢島が社長室に入ってきたら、社長はまずなにをする?」
質問には澪が答えた。
「……鍵を閉めるですか」
「澪ちゃん、正解。そう、まず鍵を閉めるやんな、万が一に備え誰も入って来やんように。キーなんて使わず、もっと便利なKetuちゃんを使うやろね。〈Yo.Ketu 扉の鍵を閉めて〉って。その音声をスマホで録音しておく。もちろん、別に当日やなくてもいい。今まで何回かあった社長室での情事の時に録っておけばいい。たぶん、事前に用意してたと思うわ。
油断し切った社長さんの喉に刃物を突き刺し、殺害する。あとは密室にし立ち去るだけ。密室にするには当たり前やけど、部屋に鍵を閉めやなあかん。犯行不可能の状況を作らなあかん。そこで使うのが、録音した音声。データを送るか、アプリかデータ保存サービスのサイトでクラウド上に保存して、社長のスマホに取り組む。スマホのパスコードは盗み見て知ってたのかもしれへんし、顔認証やったら骸になった社長がいるからいける。指紋認証は指に流れてる微量な電流で開くらしいけど、死後まだ経ってなければ問題はない。社長のスマホを触った痕跡をちゃんと消しておくのも忘れずに」
「それでその音声をどうするん」
「あんたも覚えてるやろ、矢島は九時三十頃に社長さんに電話したことを。矢島春菜からの着信音をその録音した音声しておくんよ」
「ああ!!」
おれは声を上げた。澪も同じような声を出し驚いていた。
確かにその方法ならば施錠できる。電話をかけると、設定していた音声が流れ、Ketuは主人の命令通り鍵を閉める。Ketuは、録音された音声かどうかなんて聞き分けられない。阿東を一人残し、密室の完成だ。
難解なトリックがあるかと思ったが、これほどまでに単純だったとは……。
「この着信で、矢島の犯行の可能性が高いって私は思った。この密室トリックでは、着信が鍵になってくるからね。これが、私がさっき言ったとある理由によりってやつ。
矢島は社長さんを殺害し、外に出て電話をかけ密室を作る。密室にしたのは、自殺として処理されるためやろね。密室やし、警察も疑わんかもと考えた。他殺として捜査したとしても、行き詰まれば自殺ということにする。警察も着信履歴を調べても、着信音までは調べへんやろうからな。社長さんのスマホがデスクの近くに落ちてたのは、バイブレーションで微動して落ちたんやろうね」
なにも言うことはなかった。すべて説明され、すべて納得することができた。母親ながら、やはり素晴らしいと思う。
澪も唸り声を出し、そういうことなんだと呟いた。
「朝倉刑事に頼みたいことがあるっていうのは、社長さんのスマホを解析して、矢島と愛人関係があるか、着信音が音声なのか確かめてもらうためなんよ。それで発見されたから、矢島春菜は引っ張られたってわけ」
「動機は、やっぱり痴情のもつれなんですかね」
と澪は言った。
「多分ね。殺人は許されへんけど、不誠実を貫いてきた社長さんの結果やね」
「浮気は最低ってことですね……」
「そう、浮気の類はあかんねん……」
いきなり二人の雰囲気がおかしくなった。おかんは真剣な表情で推理し、それを聞き澪は感心していたというのに、黒いオーラをまとい殺人者の目になっている。
タイミングを計ったかのように、二人が勢い良く睨んできた。おれは身を竦ませた。
「けいとくんは、そんなことしないよね……」
「そやであんたァ、最低最悪やで……」
ぶるぶると震えた。浮気なんてしたこともないのに、責め立てられているようだ。
怖い。
おれは、浮気をしたら一生外に出さないと言った澪の言葉を思い出していた。
やかましいおかんは名探偵! タマ木ハマキ @ACmomoyama
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