第2話 おかんとおれのこと
警察が探偵に協力を仰ぐことは多々あると思う。金田一幸助、神津恭介、御手洗潔などといった名探偵たち。その者たちに同じように、母は時折、警察から事件の解決を依頼される。
一月に一度ほど、朝倉刑事から電話がかかってくる。特別な報酬が出るのか、単純に頼られるのが嬉しいのか、謎解きが楽しいからか、そのどれもが当てはまるのかもしれないが、協力的だった。ただ月に一度だけで、二、三回と頼まれることはなかった。おそらくおかんから月に一度だけと釘を刺しているのだろう。
月に一度という約束だけでなく、もう一つ警察側に頼んでいることがある。それは息子である千条啓斗(けいと)も助手として同行できるようにすること。これは母の願いではなく息子の願いだった。ずばり理由は明瞭、ミステリー小説が好きだからだ。見学したいというミーハーの心理だった。
澪先輩からミステリー小説を薦められ、活字嫌いだったがせっかく先輩が言ってくれたのだからと読み始めた。
苦痛だった。正直な感想だった。
しかし読み進めていくと、苦しみも痛みもなくなっていった。楽しくて面白くて夢中になった。家にいる時間が増えたため、必然的に喧嘩の時間が少なくなっていった。もとから喧嘩をしたかったわけではないので、有難い限りだった。それに先輩と共通の話題で盛り上がれるのも、非常に嬉しかった。喧嘩の時とも違う、夢中になって読書している時ともとも違う、別の胸の高鳴りがあった。
おかんは探偵の才能があったが、おれには引き継がれていなかった。ワトソン役はなんとかできているが、医療の知識はないのでただの木偶の坊だった。ボディーガードとしては使えるかもしれない。
おかんから引き継いだのは、お喋り好きとだらしがないところか。
父親のことはわからないため、どんな要素を貰ったのかもわからない。物心ついた頃からいないため、たいして気にしてはいない。片親であることを揶揄してくる馬鹿共は、泣かしてきた。
おれ自身、父親に興味はなかった。顔も知らないし、知ったとしてもどうしようもない。それに、おかんも父親の話題も出さないため、なんとなく尋ねるのは躊躇われた。
おれはおかんのことをおかんと呼ぶが、父親のことをおとんとは呼ばない。
そういうことだった。
父がなくとも、おかんと二人でやっていけた。
幼少の頃から関東に住んでいるが関西弁を喋るのは、おかんの影響だった。おかんも関東に長いようだったが、いっこうに上方が抜ける気配はなかった、本人に抜くつもりもなかった。
おれも同じだ。
小さな頃は、関西弁をからかわれたりもしたが、やはり泣かしてきた。
おかんはアパートを幾つか経営し、土地も持っているようであるし、有難いことに今まで経済的に窮困したことはなかった。
そして探偵の仕事も、おかんはこなしている。月に一回ではあるけども。
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