5



ヒーローモード起動ッ、変身!ーー


そう叫ぶ声がして、俺はハッと男の方に意識を戻す。



光り輝くベルトは男を包み込み、蒸気を放ちながら、ヒーローへと姿を変えていく。


「正義よこの手に宿れ、誰かを守る力をーーライトサンシャイン参上ーー」


白い鎧に仮面‥胸元に太陽のような紋章が付いていて‥。光をモチーフにしてるのか。分かりやすくて結構だ。だとすれば、


これは‥相性が悪いーー。


「チッ‥ダッセェ名前‥だから自意識過剰なんだよ‥」


「っ、そ、そういう事、言わないでほしいな‥これでも結構恥ずかしっ、うわっ!?」


「黙って殺されてろッ」


俺は一気に距離を詰め、そいつに襲い掛かる。鋭い爪を連続で奴へと振りかざせば、ガードの体制を取るそいつに、ニヤリと笑みを浮かべた。狙うはガラ空きの背中。棘のような尻尾を振りかざず。


「クッ‥雪奈っ!!」


俺の尾に気づいたのか、女に叫んだ男。

俺は嫌な予感がして、ばっと女の方へと振り返る。


「分かってるッ、サポーターモード起動!ターゲットロックオン!放て!!ホワイトライトニング!!」


「なっ、サポーターだとッ、ぐあっ!?」


女の持つ拳銃のようなそれから、大量の光の光線が放たれて、


俺は飛び上がろうと、足を動かしたが、

それよりも早く、ガシリと背後から体を押さえ込まれた。

俺は迫る光線に為すすべもなく、それを全身に喰らう。いってえ‥。容赦ねえなほんと‥。むかつく。


「よし!当たった!正樹!!今よ!」


「うん!、モードチェンジーーソードバトルモード起動ーー」


ぐったりと、その場に蹲る俺に、奴らがとどめを刺そうと何かを仕掛けるようだ。俺は、彼らの放つ光によって出来た【影】に手を添えて、そっと瞳を閉じた。


「くらえ‥光の大剣をッ」


闇の中、見えたのは、

俺に、装飾された大きな剣を突き刺す男の姿。


「っ!?うがああああ!!??」


それに貫かれた俺の【影】は悲鳴をあげる。

苦しそうにもがく影。その姿が、昨日の糸と重なって、俺は唇を噛み締めた。糸ももしかしたらこんな風にっ、クソ野郎どもが。


「やったわね!正樹!」


「うん!討伐完了














ッ!?ふぐっ!?」


「‥え‥?、正樹ッ!!??」


油断した男の背後。

大きな右爪で、スーツごと貫いた腹は、ボタリと血の涙を流す。それは数秒の内に、男の白のスーツを真っ赤に染めた。


「ああ‥討伐完了だぁ‥お前のな。」


影に吸い込まれ消える俺の亡骸ーー

それと同時に、男の影から現れた俺の尾が、

二つに割れた。


能力ーー【影法師】ーー

糸はこの能力をそう呼んだ。

自由に影の中を渡り、

そして、自らの影を具現化する。


だから相性が悪いんだ。お前のような光とはーー。


「ゔっ、な、ぜ‥ッ」


「‥騙されてくれて、ありがとな。お前の命は‥大切に喰わせてもらうーー」


目を見開く男。人を殺めるのに、罪悪感はまるでなくて、なんだか笑えてきた。ほんと、怪物だなーー。

俺はとどめを刺す為、大きな爪を振り上げる。


ーーーさよなら、役立たずのヒーローさん。




「いやあああ!?!やめてええええ!!?」






女が叫んだその時だった。



パキンと空間が割れる音がして、

俺は目を見開いた。



空間が、破られたッ‥?

いったい誰がっ



目を凝らす先に、溢れる光ーー。



そこから現れたのは、

黒いスーツを纏ったあの男ーー



「やっと‥みつけたぜ‥











人喰いキャットッ!!!ーーー」



黒スーツーーー。

こいつは、昨日の。


頭が真っ白になる。



俺たちの大事な人を殺した男。

グッと握りしめた拳、鋭い爪が食い込んで、血が滲む。糸の悲鳴が頭で鳴り響いて、おかしくなりそうだ。


「おい!無事かッ」


女に駆け寄るそいつ。

今殺せば、糸の仇を‥いやアイツは糸を殺したんだ、

なら、俺では敵わないーー。


ッしっかりしろ。この意識の無くした男だけでも連れて、逃げるんだッ。

未来のためにっ。はやく、はやく逃げろーー。


「ふ、グスッ、貴方は‥例のダークヒーロー ?っ、私は大丈夫です‥でも、正樹、がッ」


黒スーツに何かを伝える女。

こちらを、指差す女に、急げと本能が告げる。


「っ、今助ける」


ギロリと黒スーツが俺を捉えて、ぞくりと足が震えた。

はや、く、しないとっ。


「ゔ、ぐっ、い、糸‥」


動かない足に、どうすることもできなくて、

クソッ、クソっ!?なんでっ


逃げろーー九郎ーー


まだ、俺の頭の中でそう告げる糸の姿が、こびりついて離れない。やだよ、糸。行かないで‥。


「ぐゔ‥お前がッ‥お前が糸をっ‥」


ドロリと黒い感情が、溢れ出す。

やめてくれ‥もう、やめてくれ‥。

ズキリと頭が痛んで、思考がぐちゃぐちゃに混ざり合う。


コロシテヤルーー


殺したくないッ


イトノカタキヲーー


未来を、守らないと‥、


そう思うのに、

いや、思ってない。

違う、思ってる。


アシデマトイダローー


違うッ。


未来は俺の大切なっ。

未来だって俺がいないと‥。


俺のたった1人の愛しい家族ーー



ナラ、ナゼ


オマエノヨクハオサマラナイーー?



誰かが俺の頭の中で、そんな事を問いかけてきたーー。


っ、なぜ‥?未来は‥俺が必要ないのか‥?

未来は俺を



アイシテナイーーー?


ズキズキと痛みを増す頭痛。

まずい。分かっているはずなのに、

どうしようもできない。

今まで糸がいてくれたから、俺は大丈夫だった。糸が守ってくれたから。糸がアイシテクレタカラ。


ああ、糸、糸、助けて。

俺の欲は



【愛欲】




誰かに愛されないと俺はっ





俺はっ



ーー九郎!!未来!!俺がお前達を守ってやるから!!

俺はお前達を、世界一愛してるーー



タスケテ アニキーー


「ゔ‥ッやめろおおおおおおおおお」


ニヤリと笑ったナニかが、俺の身体を縛り付ける。

だめだ、支配、されるっーー。

発作が、起こってしまう。

未来ッーーー


「ひっ‥何よあれ‥変形、してる?こんな数値‥Sランク以上じゃないっ!?」


「下がってろ‥こいつは俺の」


ブツリと‥何かが切れた音がして

そこから俺の意識は

深い海のそこへと


落っこちた。



「ギャハハハッゼンブ、ゼンブ、ブッコロスッ!!!」


「仇だーーー」




どうして俺達は



怪人になってしまったのだろう。



意識が遠のく。何かが俺を飲み込んで落ちていく。深い深い海の底にーー。

途端、目の前に2つの尾をパタリと揺らす黒猫が、俺に向けて一鳴きした。



ニャー‥ーー。

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