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「っ、怪人ッどうして」



「まずい‥異空間に閉じ込められた‥これじゃあ通信も不可能だ‥‥」



ギリっと唇を噛みしめる男。

やけに落ち着いていて、違和感を覚える。

何故だ。どうして怖がらない?なぜだかとても、嫌な予感がする。


「半怪人‥いえ、怪獣‥?ああもうッこんな時に」


頭を抱える女は、焦ったようでいて、

やはり、冷静に俺を分析している。半怪人や怪獣、それらの名称を知っているなら、怪人にかなり詳しい位置にいる人物‥。


ふと、男のズボンについた皮ベルトが目に入る。白く光る金具の部分。そこに彫られた片翼の紋章に、俺は目を見開いた。


嘘だろっヒーローベルトッ‥。どうして学生が‥っ、

何故気付かなかった。ミスだ。ハズレだ。相当運が悪い。どうしていつもいつもッ

やめるか‥だめだ。もう時間がないーー


未来の顔が浮かぶ。まだ、10才なんだぞ。同年代の子達と外で遊んだりしてさ、普通ならもっと我儘で、ごねたりすんだろ。


聞き分けが良くて、泣くのだって我慢できる。こんなのっありえねえんだよ。


怪人の種類は三種類に分けられてる。

糸のように、人の姿が保てるごく少数の【偽人】


自我を無くし人の姿を保てなくなった【怪獣】


そして俺達の様な怪人である一部分のみが外に現れる【半怪人】の、三種類。


人の形を保てない怪人は騒ぎを起こす。やつらは自我が欠落しているから。ただ目の前のものを、欲のために壊すのだ。その被害は壮大で、


全ての人間が【怪人】を

俺達の全てを、【悪】だと認識した。



姿形は違えど、元は【人間】。

その人間から

化け物扱いされ、暴力を振るわれる。


警察も友人も

俺達を助けてはくれなかった。


実の親でさえーー


『お腹が空いたの‥だから、私‥私ッゔあああああああ』



そして、

【半怪人】は発作を起こす。

まるで出来損ない故の副作用かのように。


それは、自らが一番望む【欲】を、

頻繁に摂取しなかった時に起こり得る。


一度それが発症すると、望む欲求を貪り尽くすまで、その発作は止まらない。


そう、【怪獣】というのは、俺達【半怪人】の発作中の症状なのだーー



未来の欲は、【食欲】。

そして、怪人化した未来は、人間の血肉でしか栄養を摂取できなくなってしまった。


ふと、屍の上で涙を流す妹の姿が脳内に過ぎる。泣き叫びながら、何もできない弱々しい妹は助けを求めた。


助けを、求めたんだーー




それなのにッ


何人ものヒーローが襲い掛かって、小さな妹に刃を向ける。

おかしな光景だった。

助けてくれるはずのヒーローが

何故、未来に


俺は理解ができなかった。



人殺しーーそう、彼らは未来に叫んだ。



違う




違うっ



美来は人殺しなんかじゃない‥

美来はただ、



そうするしか、できなかったんだーー



「‥ッ」



目の前の人間の様子を伺う。

彼等も俺の出方を伺っているようだ。


同じ制服の男女。

友達と笑い合う日常。

俺達が本来手にできるはずだったもの。

目の前のヒーローベルトをつけた男が女を庇うように俺を睨みつける。

どうして‥助けてくれなかったんだ。



俺達も




人間なのに‥。

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