3
◇
「人が‥多すぎる‥未来、離れるなよ‥」
「うん‥」
中央都市前駅から5つ離れた【第5番地駅】。
ここは比較的、怪人の被害が少なく、
若者が同じ制服を着て学を学ぶ、【学園の町】だと、糸が言っていた。
その名の通り、大きな建物や、グランドが所々に並んでいて、
登校途中なのだろう、笑い合う生徒の姿や、
部活に励む若者達に俺はそっと息を潜めた。
中央都市は今頃、サツや、政府で溢れかえっているはずだ。なら、中央都市線の範囲内にある他の駅から乗車するのみ。
そこから、向かうのは、中央都市の外れ。
今年建設されたばかりの【口ノ島駅】。
怪人すら出没しない人口が極端に少ない地域。そこに何故か建設された無人駅。
違和感だ。
俺の予想に過ぎないが、そこにヒューマンアンドセンターが存在する。
だが、もし‥違っていたら?
不安が胸を襲った。
「おにいちゃん‥お腹すいた‥」
「っ!さっき食っただろ!?」
未来の予期せぬ言葉に、俺の心臓は悲鳴をあげる。
まさか‥また
「‥でも、お腹空いたんだもん‥」
「ッ、そんな」
こんな時に何故ッ。
早く、早く食べられるものを探さないとっ。
近くに墓は‥
ここらの地形が分からない。
なら、ホームレスから‥、ダメだ‥きっと新鮮なものでないと満たされない‥。
くそ、どうすれば。
「もう‥ほんとに蓮って最低ッ」
「まあまあ‥蓮にもきっと事情があるんだよ。」
若い女と男が通りかかって、俺はふと足を止めた。
新鮮な‥【肉】。これなら‥。まて、
でも、糸はダメだって‥。生きた人間を襲えば、本当に人間をやめることになっちまうって‥。
ッでも、
「お兄ちゃん‥」
もう、これしかないーー
未来を薄暗い路地裏へと連れて行き、その奥の捨てられて重なった段ボールの上に座らせる。
「少し待ってろ‥」
未来が何か言おうと口を開いたが、俺はそれを無視して先程の通りへ戻る。
人通りが少なくなったその瞬間、
俺はゆっくりとその姿を変え、奴らの元へと歩き出した。
女か、男か‥いや、どちらもだーー
未来の腹が満たされればそれでいい。
筋肉が軋み、血が騒ぐ。耳や爪は変形し、刃物の様に鋭く、
尾骨から禍々しい長い尾が生え、
口は大きく醜い牙が俺の顎を貫いた。
「おいーーー」
振り返る2人の男女が、キョトンと声の主を探す。人が良いのだろう。影に隠れていた俺は、油断したその瞬間を逃さず即座に【能力】を使用する。
‥ハンティング グラウンドーーー
怪人特有の能力、狩に特化したこの能力は
まるで妹を守れと、そう告げるかのように、
彼等と俺の周りを、赤黒い膜が包み込む。
「へ?っ、正樹っ」
「まずいっ、雪奈、逃げッーー」
血のようなドロドロした膜は、人間の体内の血管みたいで。グロ映画が苦手だった昔の俺なら発狂ものだ。ただ、気づけば使い方を知っていたし、不思議と気持ち悪いとも思わなくなっていて、まるでそれが当たり前かのような‥本当に‥おかしな話だ。
制服の男女が庇い合い、焦った表情で逃げ道を探す。
ああ、昔、友人にドッキリを仕掛けた時も、あんな顔してたな。懐かしい‥記憶だ。
ある日、突然
怪人が出現し、全国を襲撃したーー
ニュースではいつもそう放送されているし、きっと歴史の教科書にもそんな風に刻まれているのだろう。
だけど、それは間違いだ。
ある日、突然
【人間】だった俺達は、
「アイツのために‥
死んでくれーー」
怪人化してしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます