1D

ダークsideーー



『大丈夫っ!?蓮(れん)!!』


無線から、心配そうな飛鳥(あすか)の声が聞こえる。

くそ、‥情けない。


「くっ、なんとか‥」



油断した。



【血だるまの蛾】

ヒーロー政府から恐れられ、その危険度から付けられるランク。その中でもSランクを持つ怪人は少なく、対個人戦での対策が施されている程危険視されている。


だが、

攻撃をしかけてくる訳でもなく、逃げ惑うだけのこいつを甘く見くびっていた。


締め付けられる体。視界が闇で覆われる。

試作段階とはいえ、この対怪人用スーツを着ていながら、握りつぶされるような痛み。

前言撤回だ。流石Sランク‥しぶといな。



とどめを刺し損ねた。

確かに心臓を貫いたはずだったのだが‥

くそっ、どうする?


とにかく、周りの状態を知らなければ、

俺は感覚を研ぎ澄ませる。


人の呼吸。

心臓の音。



奴の気配ーー




みつけた



奴に向かって、攻撃を仕掛けようと手を掲げた時だ。


`にげろっーー

刹那、囚われた繭の中で耳にした奴の言葉に、俺は目を見開いた。


『ねえ、ちゃん‥?』


残酷な記憶が、脳を駆け巡る。


『あ〝、にげ、てーー』


蘇る悪夢。


俺を庇い喰われる姉。生きながら、喰われていく。ぐちゃぐちゃと音がして、俺に手を伸ばす姉は、


にげて、と‥



そう言ったのだ。





俺は拳を握りしめる。

みなぎるパワーは、復讐の力ーー


「お前らが‥っ、








その言葉を使うんじゃねええええ!!」


姉は優しい人だった。お人好しで、騙されやすくて‥いつも笑ってたんだ。悪いことはしていない。正義感の強い姉だった。むしろ感謝されて‥それなのに、そんな姉の人生をお前達、怪人がッ



『す、凄い精神経験値メーターがどんどん上昇していくっ!!これならっ!!蓮!!鍵を外すわ!!これでソイツをぶっ倒しちゃって!!』




「ああ‥もちろん、






そのつもりだッ!!

ーーリミッター解除‥!!」


ぶっ壊してやるよ。お前ら怪人を。

姉を食ったあの怪人をッ


「ヒーローモードチェンジーー逆鱗」


ドクドクと溢れ出すのは復讐の炎。

次は俺が食らう番だ。

喰らえ、全てをーー燃え尽くせ。



「っ!?なに?!俺の繭がっ、燃えてるだと?そんなはずっ、」


怪人の焦った声に、口元を上げる。

苦しんで死ね。


「うおおおおおおおおッ!!!!」


俺の叫びと共に燃え上がる繭。

その先へと黒い炎は何本もの糸を伝い、怪人を襲う。

逃しはしないーー


「うぐあああああ!?!?」


感じろ、生き地獄をーー


滅びろ、生を望みながら。

お前らの苦痛の声が、姉への捧げ物さ。



「討伐、完了ーー」


黒焦げになった怪人を踏みつける。醜いな‥。何もかも‥。

俺は決して、お前達を逃しはしないーー


『お疲れ様、蓮。実験データは取れたわ。Sランクでも通用するわね‥。さすが私のスーツちゃん!ヒーロー共が集まってきちゃうし、そろそろ退散しましょ。』


「ああ‥」


飛鳥から渡された黒いヒーロースーツ。

俺の人生の全てを変えたもの。

待っていてくれ姉ちゃん。

俺が必ず、


姉ちゃんの仇を討つからーー




ダークside end‥

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る