雨降る祭り

田土マア

雨降る祭り

 冬が来ると騒がしくなる。街はどんどんカラフルになり、どこからとなく人が溢れてくる。

 暗い空は少し明るくなった気がした。


 最近チョコバーを食べることにハマった星矢せいやは春だとか冬だとかの季節はもはやどうでもよかった。今食べているチョコバーが美味しいから。

 特に変わったものでなくごく普通のチョコバー、中にはサクサクしたスナックがあってそれをどっぷり包むようにチョコがコーティングされている。

 安いのに意外と量もあって美味い!!これは何事だ。と星矢は毎日言っていた。


 真紀まきは幸せそうにチョコバーを食べる星矢を見て微笑んだ。

「ねえ、今度イルミネーション見に行こうよ。」

急な誘いに星矢は驚いた。

「どうして僕なの?」

「イヤだった?」

「いいや、なんとなく気になっただけ。」

「じゃあ、行こう?」

「うん。いいけど。」


 星矢は知っていた、真紀が少し前から僕に好意を抱いていること。それも恋愛というよりは動物園にいる動物を観察するようなものだと。


 街が一番騒がしい日にイルミネーションを見に行くことになった。


 その日はトナカイも空を飛ぶ日だから幻想的な雰囲気に包まれる。誰もがそう思っていたであろう。


 しかし、あいにくの雨だった。傘を差しながら二人は並んで歩いていた。

「今日はチョコバー食べないの?」

「あとで一緒に食べようかなって思って」

 その言葉を聞いて真紀は顔に火照ほてりを覚えて、バレないようにそっとマフラーを上げた。


「意外と綺麗だね」

 イルミネーションなんてキラキラしてるだけで目が疲れるものだと思っていた真紀が言う。

「うん、綺麗」

 星矢は辺りが色々な色に染まってチカチカしているのが不思議だった。


本当に自分の知っている世界なのか・・・と。

(今しか見れない景色だちゃんと目に焼き付けよう)

星矢はイルミネーションに見入っていた。


 少し寒くなったのか真紀は萌袖をしだした。

自販機で買った炭酸飲料を飲みながら二人はイルミネーションを満喫した。


「ちょっとあれ見て!!」

 真紀が指さした方向を見るとカラスがいた。

 そこでは野良猫がカラスと縄張り争いをしているようだった。


 きっと猫にはカラスが肉塊にしか見えていないのかもと真紀はつぶやいた。それを聞いていた星矢はふふふと笑った。


 しばらく猫とカラスのやり取りを二人で見つめていた。

 カラスが呆れたかのように飛んで行った。


 空気が少し冷たくなって闇空から白い粒がひらひらと舞ってきた。


「やっぱこうじゃなくっちゃね」

 真紀が白い息を吐き出した。それに真似して星矢も息を吐きだす。そして二人は見つめあって笑っていた。


「じゃあ。チョコバー食べる?」

星矢はカバンからチョコバーを一本取りだして半分に割った。

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雨降る祭り 田土マア @TadutiMaa

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