第23話 慟哭が響き渡る雨空の下で
『——もしも絶対に勝てないなと思う敵と出会った時はね、ユキトくん』
ふいに彼女の言葉が
『まずは逃げることを考えるの。逃げるのは
しかし今の状況では逃げ出すわけには行かない。僕が背を向ければ、エリや
『——だけど』と、記憶のなかの彼女は続けて言った。『もしも絶対に守りたい人が
『覚悟って……』と僕は言った。『死ぬ覚悟?』
『違うよ。——絶対に相手を倒す覚悟、だよ!』
『……そんな覚悟を決めたところで実力差は埋まらないんじゃないかい? せいぜい
『大丈夫!』と、しかし彼女は自信満々に
……ああ、まったく。やっぱり彼女は
『……僕は逃げると思うね。誰かのために犠牲になれるほど、僕は
『そうかなァ。案外キミは立ち向かう気がするよ。キミは優しいから』
『……きみは勘違いしている。僕は優しくなんかないし、そもそもの
『あれ、わたしは違うの?』
『……きみがピンチに
『あはは、そうかもね』と彼女は笑って、『でもね、ユキトくん。いつかキミにも誰かを守りたいと思う時が来ると思う。どんなに強い敵に立ち向かってでも、絶対にその人を守りたいと思えるような時が、ね。それがわたしだったら嬉しいけど、きっとそれはわたしじゃない』
彼女は一瞬だけ悲しそうに微笑んだ。でも、すぐにまた元の笑顔に戻って、
『覚えておいて、ユキトくん。誰かを守るためにいちばん大切なのは力なんかじゃない。その人をどれだけ守りたいと思っているか、その気持ちだってことを』
『……それでも』と、彼女の言葉を
だけど彼女は優しく首を振って言った。
『それはキミがまだ本気で誰かを守りたいと思ったことがないからだよ』
『……そんな日は永遠に来ないと思うけれどね』
『ふふ、知ってる? キミがいま言ったセリフのことを、
現実の僕は笑って、それから覚悟を決める。でもやっぱり僕には信じられないから、死んでも時間を稼ぐ覚悟を決めた。
決意を固めると、
「ははっ、
そして僕たちは
「——!!」
「——くッ!」
声も発せずに
だけどそのことに
でも
この戦いの勝利条件はただ時間を
むしろこのまま
しかしいつまでも
「——PYAAA!!」
目で追うのがやっとの動きに、
「くっ——!」
文字通り、さっきまでとは
それでも時間は過ぎていく。
〝BP〟の攻撃は思ったよりも単調だ。跳び出てくるタイミングは一定で、リズムを
しかし——。
「——ぐっ!」
「がはッ——」
身体じゅうの血液が口から飛び出していった気がした。
「……ぐふ」
たった一撃。
僕にはもう
世界がスローになり、思考は
ああ……ここまで、か。
一体どれくらいの時間を稼げたのだろう。
エリは無事なのかな?
でもきっと大丈夫だ。あとは来栖くんが何とかしてくれる。
だけど結局、覚悟を決めたところで僕には何もできやしないんだ。
彼女に会わせる顔がないけれど、もしも。
もしも本当に死後の世界というものがあるのなら、どうせならやっぱり彼女のいる世界に行きたいなと、僕は最期に思った……。
「——〝ペル・ボルティング〟!!」
この
聞こえたのは、ぬかるんだ地面を
「——センパイ!!」
「うぅ……え、エリ……?」
「……な、なにしてるだ……は、はやくここから離れるんだ……」
言葉を絞り出す僕に、エリは僕の身体を支えながら、
「……大丈夫だよ、センパイ。もう大丈夫だから」
大丈夫なはずがなかった。
だけど、いつまで経っても
「ど、どうして……」
「たくっエリックの奴……応援を呼んでるんなら知らせとけってんだ。なあ
「
だけどその結果として、何人もの魔法使いと
「良かった、ホントに良かった……!」
「……エリ」
そんな様子を気にもせずに涙を流し続けるエリ。背中は痛ましいほど
やがて戦いは終わった。しかし少女の泣き叫ぶ声が止まることはない。
少女の乾いた
誰かを
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