第16話 きみのいない教室
翌日の空はそれまでの雨が嘘のように晴れやかだった。
予報では今日はこのまま
学校に来るのは三日ぶりだった。教室に入ると、三年間変わらないクラスの顔ぶれが僕を
窓際いちばん後ろの席が僕の席だった。席につくと、窓から
「――ねえ」と、しかしそんな
隣の席の、名前も忘れてしまった女子にそう言われた僕は黙って窓を閉めた。それから僕が役目を果たすかどうか見張り続けていた女子にむかって僕は言った。
「……閉めたよ」
「ありがと」
それっきり彼女は彼女の日常へと戻っていった。
ため息を吐きたくなるような気分。
ふいに彼女との思い出が
『――ユキトくんはさ、どの季節がいちばん好き?』
『……冬、かな。冷たい風が頬にあたる感触が結構好きだからね』
『だと思った。キミはいつも冷静で、冬のような性格してるし』
『……そういうきみは?』
『わたしは断然秋! ほら、空とかにさァ開放感があると思わない?』
『開放感』と僕は呟いて、
しかし今僕が過ごすのは
それから教師の言葉が続く教室のなかを僕はさりげなく見渡してみた。あくびを噛み殺しているクラスメイト、
目が合った時に使う秘密のサイン。答えがわからなくても澄まし顔でいる姿。しかし僅かに染まる首元の
――わたしのために泣いたりしないで。
あるいは彼女にそう言われていなければ、僕の目からはとめどない光が
でも一体、泣くという行為だけが感情を表現する方法であろうか。泣くという行為だけが現実に
そして実際のところ、僕はじぶんが怒りに襲われていることを自覚していた。ふつふつと沸き立つような静かな怒り。
僕の目に映るのは、変わらない日常を過ごしているクラスメイト。彼女がいなくなったことにまるで気がついてないように振る舞っている教室のなかの世界。
結局のところ、彼らにとって彼女はその程度の存在だったのだ。いてもいなくても変わらない存在。空気のような存在。
だけど本当に空気のような存在だったのなら、彼らは今彼女の重要性を実感しているはずだった。無くなると息ができなくなる空気のように。しかし彼女のありがたさを感じている者はこのクラスにはいなかった。あるいは空気よりもずっと僕ら人類にとって大切な存在だったはずなのに。
僕だって彼女の秘密を知らなければ、きっと何でもない日々を送り続けていたはずである。彼女がもうこの世界にはいないなんて考えもしなかったと思う。それどころか、なにも知らない毎日を、なにもかも知っているような気持ちで過ごし、世界が退屈なものだという確信を気取った
そしてソクラテスが死に、ひとつの機械に支配されたこの世界ではだれも無知を恥じたりはしない。指先ひとつで全てを知れるという
……ああ、気持ちが悪い。僕はひどい吐き気を覚えた。あるいは
授業が始まってもだれも声をかける者はいない。
昼休みになると同時に僕は教室を飛び出した。沈み続ける気分を変えるために。新鮮な空気を求めて。
もちろん、向かう先は決まっていた。
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