第15話 桜宮家の御曹司
基地へと戻る
深夜に差し掛かろうとする街は静かで
しかし星とは違い、雨は
さっきまでの
来栖くんやエリック、それからエリと過ごす時間は今の僕にとってかけがえのない時間だった。
気の置けない仲間たちに
それは二年前の、全てを諦めていた僕では考えられない光景で。
その全てが、彼女の残してくれた
……でも、だからこそ
ひとりになってしまうと、彼女がいない事実を嫌でも意識してしまうから。
雨はたくさんの感情を洗い流してくれるはずなのに、
いっそ本当に
何も感じず、
しかし雨は悲しみを増やすばかりで、決して僕の心を錆び付かせてはくれない。いたずらに
でも結局、雨が降っていなかったとしてもそれは変わらないのだと僕は思う。雨はただその
むしろ問題は夜という時間の方だ。いつも夜になると、僕の気分は最悪になる。
夜が嫌いだというわけじゃない。子どもの頃はどんな時間よりも好きだった。夜が
でも今は——。
あるいは
いや、事実そうなのだろう。彼らと違って反抗する勇気も意志も持たないだけで、結局は僕も家に帰りたくないだけなのだから。
そして今日も僕はたどり着く。〝
「……ただいま」
「お帰りなさいませ、
彼の名前は
彼は僕にタオルを差し出しながら
「ご夕食はいかがいたしましょう?」
「いいよ。食べてきたから」
「かしこまりました。ではご入浴の用意が済んでおりますので、そちらに」
「うん、ありがとう」
浴室まで連れ立って歩き、それから去っていこうとする林を僕は呼び止めて、
「それで……あの人は?」
「
「そう」
「なにか
少しだけ考えて僕は首を振った。
「いや、いいよ。後で僕が自分で行くからさ」
「かしこまりました。それでは、
「うん、おやすみ」
そして入浴を終えたあと、僕はこの家の主人がいる部屋の
「幸人です」
「――入りなさい」
もう
扉を
「……ただいま帰りました」
「ああ」
僕をちらりと見るその
彼は窓の外へと目を向けると、つまらなさそうに言った。
「それで、こんな時間に一体何のようだ」
「……いえ、ご挨拶に
「ふむ。ずいぶん
「——待て、幸人」と、しかし彼は僕を呼び止めて、「――お前はいつまで遊んでいるつもりだ?」
「……遊んでいる、とは? 僕は
「ほう、
鋭い
「いいか幸人。お前は私の
「……はい」
見えない言葉で傷つけられた心よりも、目に見える形で傷つけられた
「どうした、何か言いたそうな顔だな?」
「……いえ、何も」
しばらくの間、
「ふん、まあいい。だが覚えておけ。またなにか問題を起こしてみろ、今度は一週間の外出禁止だけでは済まないからな」
「……はい、わかっています」
「ならいい。私はもう寝る。出ていきなさい」
「……はい」と言って頭を下げた僕は扉に手を掛け、それから
廊下に出た僕は深く息を吸い込んだ。肺にまで
薄暗く
あるいは母が生きていれば違ったのかもしれない。僕が六歳になった夜に
あるいはまた
しかしそれらは
どんなに願ったところで、母はもういないし、手にしかけたその翼はもう焼かれてしまったのだ。あたかも
そして翼をもがれた鳥はもう二度と空を飛ぶことは叶わない。
それが世界の真理だった。
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