第14話 〝残滓〟の可能性
みんなが落ち着きを取り戻し、
つまりは僕らの今後についての話だ。
「にしてもいつまで続くんだろうなぁ、戦いってヤツは。俺はもう疲れたよ」
週末の会社員のようにジンジャーエールを飲みながら、いつになく弱気な発言をする
「だってよぉ、もう一年だぜ? もう一年も俺たちは〝
「だいたいさ、おかしいだよ上層部の奴らは。こんな世界になったのだって、元々はアイツらの失態なんだぜ? それを
「——来栖くん」と、しかし行き過ぎた来栖くんの愚痴を
「……わりぃ、らしくないこと言っちまったな。忘れてくれ」
「で、でもさ! いつかは終わるんじゃないの? ほら、〝残滓〟って言うくらいなんだし、いつかは無くなるんだよねっ! そうでしょ、エリック?」
ピリついた場をとりなそうとするエリに、けれどエリックは
『まあいつかはね。でもキャリバンの予測によると、ボクらが今までに倒した〝残滓〟の総量は全体から見ると五パーセントってところらしいからね。まだまだ時間は掛かるんじゃないかな?』
「えーウソっ! 五パーセントって全然じゃん! 計算間違ってるんじゃない、それ!?」
「はは、結局俺らはまだまだ戦い続ける運命なんだ。このクソったれな世界を守るためによぉ」
会社を辞められない
だけどエリックの話から考えるとあと二十年。それだけの時間を僕らは戦い続けなければいけないことになる。それはとても長い時間だった。
『まあ、あくまでも推定だから断言はできないけどね。だけど十パーセントにも満たないっていうのは確かみたいだよ』
「もっと早く無くなるようにはならないの?」とエリが問いかける。「例えば
『もちろん大量のエネルギーが一気に
「え、どうして? どんどん一気に使ってくれた方がいいんじゃないの?」
僕はエリックから説明を引き継いで言った。
「考えてもみなよ、エリ。そもそも〝残滓〟の強さはその身を構成するエネルギー量によって決まるんだ。エネルギー量をコストって言い換えてもいい。例えば全体のコストが百だとして、そこから一のコストを使えば植物型が、五のコストを使えば幻獣型が召喚できるというふうな具合にね。そして重要なのは、込められたコストの分だけ〝残滓〟は強くなるってこと。わかるかい?」
「むぅ、それぐらいわかってるってば、センパイ」しかしエリは不満そうに
「ああ、そういうことか。うん、それはもちろんそうだよ。……だけどさ、エリ。きみのその意見は、〝残滓〟の強さの上限が幻獣型までだという不確かな
「どういうこと?」
「いいかい? 僕らが使っている〝残滓〟のグレードは、単純にこれまで出現した〝残滓〟を似たカテゴリーごとに分けたものでしかないんだ。だからまだ見ぬグレードの〝残滓〟が眠っている可能性は否定できない。さっきの例で言えば、十や二十あるいは百のコストを使うことによって召喚される存在がいるかもしれないんだよ。そうだよね、エリック」
『うん、
モニターから僕らを
『そもそも〝残滓〟——つまり〝魔王の残滓〟の正体はその名の通り、
「おいおい、一体どうなるっていうだよ?」
『ふぅ、相変わらず来栖は
「——〝魔王の残滓〟は〝魔王〟以上にはなれない。けれどそれは裏を返せば、〝魔王〟と同等の強さにはなれるってことだよ」
『さすがだね幸人。そう、世界じゅうに散らばっている全てのエネルギーが集まれば、〝魔王〟に近しい強さの〝残滓〟が
「……マジかよ」
〝魔王〟の恐ろしさを肌で感じていた僕らは黙るしかない。あんな存在が現れるのはもう二度とごめんだった。
「……あたしさ、詳しく知らないんだけど」と、しかしそんな空気のなかでエリが
「そりゃお前、めちゃくちゃだったぜ。ってかエリだってキャリバンの一員なんだ。肌で感じたことくらいあるだろ?」
「だ・か・らッ! 感じたことないから訊いてるの! バカなんじゃない来栖センパイって!」
まだ
「仕方ないよ来栖くん。エリがキャリバンに入ったのはちょうど一年前で、その頃にはもう〝魔王〟はいなかったんだからさ」
「っと、そういやそうだったな。はは、つい忘れてたぜ。エリの態度があんまりにもデカいモンだからよ、くくっ」
「このッ……はぁ、もういいよ。それでどうなの? 幻獣型の十倍ぐらい?」
来栖くんへの怒りを抑えて再度訊ねてくるエリにむかって、エリックが答える。
『十倍なんてもんじゃないよ。百倍でも
「うん、まあなんとなく……つまり、〝魔王〟の強さがシャチだとすれば、幻獣型のそれはホオジロザメに過ぎないってこと?」
『独特な
「うーんなんだかよくわかんなくなってきた……結局さ、現れるかもしれない〝残滓〟っていうのは、どれくらい強いの? あたしたちでも勝てそうなの?」
「ああ、そうだぜエリック。はっきり言ってくれ。——もしも、だ」と、来栖くんは人差し指を立てて言った。「もしも、その可能性ってヤツがいまこの瞬間に出現したら、俺たちは勝てるのか? お前が言うように〝残滓〟が〝魔王〟に似せた粘土細工のようなものならさ、たとえ全てのエネルギーが集まった〝残滓〟が現れたとしても、〝魔王〟に比べたら弱くなっているんだろ? ならさ、俺たちにも勝てるんじゃねえのか?」
こくこくと賛同の仕草をするエリ。口には出さなかったけれど、同様に気になっていた僕は黙ってエリックの答えを待つ。
『う〜ん、そうだねぇ……』
と、モニター越しからエリックの考え込む気配が伝わってくる。
『確かに強さの次元が違うのは事実だ。ハリボテのようなものだから、弱体化されることは間違いない。だけど、それでもいまこの瞬間に残りのすべての〝魔王の残滓〟の量から構成される存在が現れた場合——』
「場合……」
『——はっきり言って、風戸アンリのいないボクらでは、
「…………僕たち、っていうのは、今ここにいる僕たちってこと?」
『残念だけど、キャリバンに所属しているみんなだ』
「——そ、そんなっ!」
「……はは、マジかよ」
エリは悲鳴をあげ、来栖くんは
『実を言うと、上層部が今いちばん
追い打ちをかけるエリックの言葉を最後に、僕らの
『……結局のところ』と、この宴会を締めくくる挨拶のようにエリックは言った。『ボクらにできることはそんな存在が現れないことを祈るだけなんだ。——そしてあるいは願うしかない。たとえ現れたとしても、自分の
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