第13話 祝勝会
「——はっはっはっ、にしても
〝
参加者は僕と
『いやはや、まさかあのタイミングでエリの暗示が
「な。おかげでいいもん見せて貰ったぜ、くっくっく」
「——し、仕方ないじゃん! 生理的嫌悪感がやばかったんだし! むしろあの状態で魔法を放てたことを
あれからすぐに基地内の医務室へと運び込まれたエリは、キャリバンの誇る優秀なドクターによる診察を受けた結果、急激なストレスに
どうやら詠唱中に
目を覚ましたエリはしばらく
しかし医務室で乱れ暴れる姿をおなじく目撃していた来栖くんはエリを
もちろん彼だって
ひたすらに
「覚えておいてよね……! この先
「はっはっは、残念だったな、エリ。俺は別に失神するほど犬が苦手なわけじゃねえよ。せいぜい肌が
「……ぐぬぬぬ」
来栖くんにやり込められ、チワワのような
僕はこの
「まあでも無事でよかったよ。ひとつボタンを
自分が受けた時のことを思い出して僕は首をひねった。あの時は確か
『いいや、そんなはずはないんだけどね……考えられるとしたら、思っていたよりもエリがずっとゴキブリが苦手だったってことくらいかなぁ?』
「ふむ」
僕はエリのことを見る。
僕はエリックの映るタブレットモニターに視線を戻して言った。
「なるほど。まあでも
『だね。たったの一時間で効果が切れるっていうのはやっぱり大変だよ。相手が昆虫型だったからよかったけど、動物型だったら大惨事だ』
僕らの言葉に来栖くんも同意する。
「確かにな。もし俺や
しかし言葉とは
「そういや、アンリの奴もゴキブリが苦手だったなぁ」
遠い昔を懐かしむように来栖くんは言った。エリックもおなじようにモニターに映る目を細めながら、
『彼女の場合、ゴキブリが嫌いっていうより虫全般が嫌いだったけどね』
「はは、そうだったなぁ。あいつは昔っからその手の奴が大っ嫌いだったよ」
「——え、お、じゃなくて
と、口に押し込む食事の手を止めてエリも不思議そうに訊いてきた。やはり彼女のことはエリも気になるのだろう。魔法使いであるエリにとって、風戸アンリという存在はそれこそ雲の上の存在だ。僕らが
来栖くんはそんなエリに先ほどとは違った種類の声で笑いかけた。
「ああ、虫だけじゃなくて結構色んなもんが苦手でさ。機嫌を直すのに苦労したもんだよ」
「そうなんだぁ。あたし、ずっと完璧な人だって思ってた。嫌いなものなんて何もなくて、いつも人の心を思い遣る太陽みたいな人だって」
「まあエリからしたらそう思うのは無理ねえけどな。けどホント、
「……」
「おい幸人?」
「……え、あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫、センパイ?」
来栖くんからのパスに反応できなかった僕を心配そうに見るエリに、僕は笑って応える。その様子を来栖くんは意味ありげな
「うん、確かに彼女の虫嫌いは本当にひどかったよ。いつだったか、教室にハチが入ってきた時があったんだけどさ、彼女は真っ先に逃げ出してたよ」
「ああ、覚えてるぜ、それ」
「あれ? 来栖くんも知ってるんだ?」
意外に思う。実のところ来栖くんもおなじ学校に通ってはいるんだけれど、今も昔もクラスが違うからクラス内での話題を共有することは基本的にない。
だから僕がこの話を来栖くんにするのが初めてである以上、彼が知っている理由はひとつだけ。
「彼女から聞いたの?」
「いやまあ、〝聞いた〟というより〝見た〟だな。俺、その
「ははっ、彼女らしいや」
初めて知る事実に僕は淡い
「そういえばなんだけどさ、来栖くん」と、話題を変えることにした。「……通信の時にコードネームで呼びあったり、オーバーとかアウトとか言うのやめない? あれ、結構恥ずかしんだけど……」
「なに言ってんだ、幸人」と、来栖くんはコップの中身を飲み干しながら言った。「無線通信の世界じゃああいうのが常識じゃないか」
「いやまあそうなんだけど……そもそも僕らの端末は携帯と一緒で同時に会話が可能なんだからさ、言う必要ないと思うんだけど」
実際、キャリバンのなかでもやっているのは僕と来栖くんの
ここは
「
「……ロマン、ね」
と僕は呟いて、もしも僕がロマンを
だけどそれもまだまだ終わりそうにない。
来栖くんは新たなドリンクを取りに行こうとしているし、エリは店員を捕まえて追加の注文を頼んでいる。エリックはエリックでこっそり録画していたらしい医務室でのエリの様子をモニターに映し出していた。みんな居座る気満々の様子だった。
「え?」と、しかし僕はその異変に声を漏らす。
「——ちょっと待って! 何してるのよッエリック!?」
おなじように気がついたらしきエリが悲鳴のように叫んだ。
いや、本当に何をしてるんだか……。そんなことをしたらエリがどういう行動に出るかなんて火を見るよりも明らかじゃないかエリック。
ほら見ろ。エリのやつ、
『——エリを止めてくれぇ幸人! このままじゃ壊されるぅぅ!!」
「……だったら何でそんなことをしたんだよ、まったく」
しかし放っておけば
「止めないでよセンパイ! このままじゃあたしの
「いいから落ち着きなって。——エリックもエリックだ。どうして
責める僕らの視線を受け、モニターからはか
『……すまない幸人、エリ。でもボクにはどうすることもできなかったんだ。
その
ドリンクコーナーの
「あんにゃろー」とエリは制服の腕を
「——ちょ、おい、何だよエリ! いきなり飛びかかって来んなよ! 危ねえだろうが!」
「うるさいこの
「イテテ、おいおい一体何のことだよエリ! 俺にはお前の言ってることがまったくわかんねえぞ!?」
「うるさい! 自分の胸に聞けぇ!!」
「ガハッ……この、俺が何したって言うんだよ!」
僕はそんなふたりの様子を見つめながら、
「……ねえ、エリック。本当に来栖くんが映像を流したのかい?」
『え? ボクそんなことひと
「……」
言ってはいない。ただそう思わせるように
「……ねえ、何かエリと来栖くんに
『特にないよ、エリには。ただ来栖にはもっと
「……はぁ、いい性格してるよ、キミ。ホントに」
モニターに映る
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