第11話 魔王の残滓
あれから一年が経った今でもまだ、世界には〝魔王の
それを
「——お、やっと来たな。ずいぶんな
僕らが基地にたどり着くとひとりの男がいて、笑いながら僕に軽い言葉をかけてくる。
「文句なら彼女に言ってよ」と、僕は彼の視線をエリに
「えへへ、ごめん来栖センパイ。寝坊しちゃった」
「はぁ、またかよエリぃ。ったく、しっかりしろよな」
両手を顔の前で合わせて謝るエリに、ぶつぶつ
年齢は僕と一緒だけれど、この基地ではいちばんの
僕は基地の中を進んでいき、設置されている自動販売機の前に立つと、コーヒーのボタンを押した。
「で、今回の〝残滓〟はどんなタイプなんだい?」
「ああ、それなんだが……」
来栖くんの歯切れが悪い。その表情にある予感を覚えた僕は眉を
「……まさか
ひと口に〝魔王の残滓〟とは言っても、その見た目と強さから四つのタイプに分類されている。
グレードの低い順から
ひとつグレードが上がるたびに、その
基本的に
もっとも、現れる多くの〝残滓〟は動物型までで、幻獣型が現れるのはレア中のレアだ。
これまでの間に幻獣型が出現したのは一度だけ。半年ほど前にオーストラリアの
その頃僕はまだ前線に復帰していなかったけれど、少なくない犠牲を出してしまったと情報として記憶している。
彼の言い方からそのレア中のレアが現れたのではないかと
「心配すんな。ただの昆虫型だよ。……ちょっと見てくれが悪いだけの、な」
歯切れの悪いままに、来栖くんは
「来栖センパイ、それってどういうこと?」
視線に気がついたのか、エリが首を
「ま、詳しいことはエリックに説明してもらえ」
来栖くんは意地の悪い笑みを浮かべ続けたままモニターに向かって呼びかけた。
「——おい、エリック! こいつらにも説明してやってくれ!」
その声に
『そんな大きな声を出さなくても聞こえてるよ、来栖。まったく君のガサツさは昔から変わらないな』
「ははっ、それが俺の取り
来栖くんと
「それでエリック」僕はコーヒーが入ったカップを手に取って訊ねた。「今日の相手はどんな奴なんだ?」
『ああ、そうだね。だけど言葉で説明するより、実際に見てもらったほうが早いかな』
来栖くんとおなじようにエリへと
「きゃ!」
「げぇ……」
それを見た僕らは同時に嫌悪感を示した。画像を補足するようにエリックからの説明が聞こえてくる。
『——今回確認されたタイプは昆虫型。ゴキブリの姿をしているから、以後〝
「……なるほど、ね」
来栖くんの笑みに
少し前に基地内でゴキブリが出たときのことを僕は思い出す。
あの時は本当にひどかった。魔法の
結局僕と来栖くんの
僕がそんな過去の出来事に
『……で、基本的にはいつもと変わらない。来栖が
「おいおい、また幸人が美味しいところ持ってくのかよー。はぁ、全く損な役割だぜ」
作戦を聴いた来栖くんはそう
来栖くんが囮となって導き、僕が交戦しながら時間を稼ぎ、最後にエリの魔法でとどめを刺す。
それが僕らが〝残滓〟と戦うときのいつものパターンだった。
とは言っても、〝残滓〟が使ってくる能力は
僕らが作戦を
「——む、無理ムリ、絶対無理ぃッ!!」
突然エリが大きな声で叫んだ。
「巨大ゴキブリと戦うなんて冗談じゃないわ! 無理に決まってるでしょ!!」
『落ち着くんだエリ。君がこの地区担当の魔法使いである以上、戦いは
「だから無理だって言ってるでしょ!? あたしはアレが
エリックの
「
「はっはっは、バカ言え。代われるわけねえだろ? 俺は魔法使いじゃねえんだから」
「うぅ、でもでもでもッ! 何とかしてよ、エリック!」
『残念だけど
「うっ……」
カチカチの理論で固められた
最後に
「……センパイ」
僕はコーヒーをひと口飲んで、それから肩をすくめて応える。
「ま、考えてごらんよ。ホンモノのGなら見かけたら百匹はいるって言うけれど、幸いなことに〝残滓〟は一匹だけだ。キミの
「……」
返事はない。エリは
「……じゃあ、僕は先に行ってるから」
今はこの突発的に発生した災害からいち早く抜け出すことが
しかし。
いつの間にか来栖くんはいなくなっていて、エリックはモニターから消えていた。
さすがは基地の
僕もうかうかしてはいられない。彼らに続いて足早に基地を出る。
背後では
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