第一章 きみのいない世界
第10話 雨模様の空
もう降り始めて
僕は公園の
人を待っていた。女の子だ。しかし待ち合わせの時刻になっても彼女は現れなかった。だけど慌てることはない。彼女が時間にルーズなのはいつものことだった。
待ち始めてどれくらいの時間が経ったのだろうか。東屋の屋根から
時計を見ると、午後四時十五分。約束の時間から四十分以上が過ぎていた。完全な遅刻である。
「——おはよう、センパイ」
その声は雨よりも
それから声の方へと振り返る。
少女は
「今日もすごいね、雨。嫌になっちゃう」
傘に
「……遅いよ。いま何時だと思ってるんだ」
「あはは、ごめんゴメン。寝坊しちゃってさ」
少女はまったく悪びれる様子もなく笑った。
「寝坊って……きみは学校に行ってたんじゃないのか?」
「うん、そうだよ。ねえ、ひどいと思わない? 起きたら教室に誰もいなくってさァ、
「……つまり、きみは授業中に寝てたから僕との待ち合わせに間に合わなかった、と」
「だからゴメンってばー。これでも慌てて走ってきたんだよ?」
もちろん僕には彼女の言葉が嘘であることはすぐに分かった。どうみたって彼女が雨に
「はぁ、もういいよ」と僕は諦めて言った。「だけど遅れるときはせめて連絡くらいしてほしい。事故に遭ったんじゃないかって思うから」
抗議の言葉に、けれど少女はにやにやと笑っていた。
「……何がおかしいんだよ」
「心配してくれたんだ?」
「……別に、きみだから心配したんじゃないぞ」
「えへへ、やっぱセンパイは優しいね」
「だから——」
続けようとして、僕は思い
これ以上は時間を
彼女のペースに巻き込まれるな。
それが彼女と過ごす上で僕が覚えた
僕はため息を吐くと、ベンチから腰を上げ、傘を広げて歩き始めた。
「あ、待ってよーセンパイ!」
少女は慌てて追いかけてくる。それから僕らはふたり肩を並べて歩いた。
雨が傘を叩く音が屋根を叩く音よりも気持ちがいいのは、きっと傘が周りの音を
僕はひとりの世界にひたれる心地良さを感じながら雨の中を歩き続けた。
「ふんふんふん♪」
しかし隣から聞こえてくる
「……
「だってセンパイと一緒だもん♪」
「……わからないな。どうして僕と一緒だときみの機嫌が良くなるんだ?」
「またまた〜、わかってるくせにー」
雨は嫌だと言っていたくせに、少女のテンションはやけに高い。まるで夏の花火のようだ。合わせるのがめんどくさくて、僕は少女を落ち着かせることにした。
「それより。ちゃんと気を引き締めておきなよ。これから戦いが待ってるんだぞ?」
「わかってるって。センパイこそ、エスコートの場所は決まってるの?」
「エスコートだって?」
僕は驚いて少女の方を見た。少女は不敵に笑っていた。
「あたし
どうにも会話が
「いったいきみはさっきから何を言ってるんだ?」
「え、だって今からデートでしょ?」
当然のように首を
「……仕事だよ、仕事。当たり前だろ」
「えぇひどーい。せっかくお
「お洒落って……きみ制服じゃないか」
「あーっセンパイ馬鹿にしたなァ。制服だってお洒落ポイントはあるんだよ! ほらここ見てみてよっ!」
「……いや、見ないから」
制服の
僕らが所属している組織の後輩で、彼女とおなじ魔法使いで、僕の新しい相棒だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます