第8話 恋と努力のそのほどは






 燃える井戸のその底で、聖女と騎士が見つめ合うオープンポジション。わたしは愛銃かかえたままに、スカート摘まんでご挨拶。


 騎士は剣で盾を叩いて、雄牛オックㇲがまえでひと声あげた。



 ――おあ!



 わたしも銃剣バヨネットを召喚し、モデル九七に着剣をして、それを構えてひと声あげた。


「おあ!」

「えっ?」


 炎にゆらめく恋舞台。数多の武具で周囲をよろった、努力の騎士が聖女に挑む。わたしはよゆうの微笑みスリィㇵ浮かべ、銃から離した左手で、上向き手招き、合図を送る。ユァターンおさきにどうぞ



 わたしが左手をもどし、構え万全となるのを見てとり、ひたむきイケメンが突撃かんこう!



 ――おああ!


 ――ぎゃりん!



 猛牛のごときその突き技は、ベイヨネットわたしの じゅうけんに阻まれた。そのままふたりはつばぜり合いで、チークのひとときを楽しむわ。


 ぎりりと音たて鉄がきしんで、うわ背のある騎士の全力。わたしは真っこう受けてたち、いっぽも退かずにそれを弾いた!



 ――ぎぃんっ ぎゃりっ きんっ ききんっ



 刹那、乱舞の努力のイケメン。手当たり次第のけんの乱打が、乙女の魅惑のボディを揺らす。サーキュラーヒップツイストで、わたしはそれを受けながす。


 ぴんと立ったしっぽを振っても、猪じゃないのよ、わたしはねずみ。そんなに慌てなくったって、逃げやしないわ、大丈夫。



 ――きゃりんっ きんっ がいんっ がいんっ



 無呼吸連打はどこまでも。ゾンビの利点を上手く活かしてる。でも、これじゃ、いつまで経っても護りは抜けない。



 埒が開かぬとイケメン騎士は、そのまま、ぱっと距離を取りざま、剣盾なげすて鎚を手にする。ほう、思いきりのいい騎士ね。


 でも正解よ。それ・・は銃剣じゃちょいと厳しい。



 ――どどーん!



 わたしがひょいと避けた大地が、つちの重さに震えるわ。パッショな猛烈アタックに、わたしは柳の受け姿勢。でもねわたしは大和撫子。恋の重さに流されるには、ちょいと芯が強すぎるのよ。



 ――どどーん! どどーん! どん、どどーん!



 なんどやっても意味はなし。ねずみ叩くにゃ重すぎる。ちょろちょろ避ける白いドレスの、破けた裾にもかすらない。



 ――おあ!


 ――ぎゃりん!



 ビヤンいいわ! いまのはぐっときた。鎚のひとふり、その隙に、鎚を手放しイケメン騎士は、忍ばせナイフを放ってきたわ。続いて爪先で土を蹴り、わたしにそれを浴びせかけ、大鎌もって横ぎに!



 ――ぶおんっ!



 そういうなんでも使うとこ、嫌いじゃないわよ、わたしはね。



 わたしはドロップ、仰向けに、そのままころん、ころころと、でんぐり返しで距離をとる。


 イケメン騎士は大鎌を、振りおろすことも叶わずに――だって地面に刺さっちゃう――がんばって低空を薙いでるけれど、やっぱり大型武器だもの、ねずみのはやさにゃ亀の速度よ。アンダンテのんびりね



 ひたむきイケメン、業を煮やして、大鎌投げすて、弓をとる! わたしは後転そのままに、左手地につきバックステップ。ぴょこっと地に立ち、矢を弾く。



 ――きんっ



 二の矢、三の矢それを続けて、次なる武器は両手斧。ぐるぐる頭上でそれを回して、勢いつけて振りおろす! でも、それで終わりじゃなくってね、避けたわたしの後を追い、斧がぐるりと追いかけてくる!


 Uの字描く弧の軌道。勢い慣性ころさずに、上手く攻撃をつないでる。ヴラーヴォやるじゃない! これはちょいとしたダンスだわ。



 パㇵトネェㇵパートナーの輝きに、わたしの回避ダンスも気合いが入る。ナチュラルトップで聖女と騎士が、互い違いに場所を入れかえ、くるくるまわってルンバを踊る。これが密会のふたりの輪舞ロンド


 くるりくるり、くるくると、ダンスのリズムも燃えあがり、ふたりのこころも燃えあがる。火の粉きらめく舞台の花盛はなもり、周りの観客きゃくも火勢を強め、ダンスシーンは最高潮!



「うわっ、わあっ、リリアナ、リリアナ!」

ベーネへいきよ、ブロー。芯は外してる」


 芯は、ね。さすがにぜんぶは避けられず、わたしのドレスが布とばす。どんどん裸に近づいて、白い柔肌、炎に映える。赤い花びら舞いちって、くれないリボンが炎にたなびく。密会むきの勝負のコーデ。すみれのお花が満開よ。えっちな騎士には見料みのしろもらおう。



「リリアナ、なんで撃たないの!?」

「見なさい、彼の努力のほどを」


 斧をまわして才なき騎士が、美事に輝き、ダンスを踊る――


「鎚に大鎌、弓に斧。彼の研鑽なかりせば、すべては存在しなかったのよ。わたしはそれが愛おしい。それは哀しく美しい」


 ゾンビになりさえしなければ、彼の努力はもっと高みに。彼の舞台は輝いていた。だから無念はわたしが受ける。だからわたしはすべてを受ける。わたしは聖女、召喚聖女。そうしなけ・・・・・ればいけないの・・・・・



 やがて騎士は斧なげて、わたしはそれをくるりと避ける。さあ、もう後がないわよ――って、ひたむきイケメンが左手を、こっちに向けて構えてる?



 ――どしゅっ! じゃらららら ぎゃるん!



ミオディオなんてこと!」

「腕が飛んだあ!?」


 努力の騎士の左腕、肘のさきから発射され、そこから肘には鎖がついてる! これはなんてロケットなパンチ。わたしがそれを銃剣で、弾くや否や、鎖が巻きつき、モデル九七わたしの じゅうが絡めとられる!


 びっくりしたわ。これこそ、セㇶユマジで!? ね。



 ――ぎりっ ぎりりりっ!



 聖女と騎士の恋の綱引き。じりっ、じりっと距離が縮まる。努力の騎士の足鎧サバトンが、地面に跡ひき、滑りくる。そう簡単には乙女のケーㇵハート、奪えるものとは思わぬことよ。


「えいっ」



 ――おあっ!?



 わたしは鎖を左手で掴んで、片腕だけで力尽く、思いっきりにぶん投げる! ひたむきイケメン宙を舞い、ばたばたしながらせなから落ちた!



 ――どたーんっ!


 ――お……ぁ



 両手ひろげて――って右手しかないけど、仰臥ぎょうがのイケメン、万策つきたと空を見つめた――



「魔法の義手……魔法の武具ね」

「左腕を、失ってたのか」


 それをわたしに隠してたってことは、それでいいのね、隠し技。


 わたしはなくした腕を生やせる。めしいた目だって光を与える。司祭さまたちには、できるだけ、隠せと言われていたけれど、お城の貴族や騎士たちは、わたしの力を知っている。


 そうまでしてまでシィアㇵサー・フェリックスは、ひたむき真面目に強さを求めた。



 ――いいでしょう。買ってあげるわ、その意気を。



「立ちなさい!」


 すると倒れた努力の騎士が、ほんの一瞬、黄金(きん)に光って、ぐいっといき・・・・・・なり立ちあがる・・・・・・・。いい闘志だわ。


「亀の歩みは遅くとも、一歩いっぽを積みかさね、いつかは兎を抜くものよ。わたしは亀をわらわない。努力するものを嗤わない――」


 あわてて剣をひろって構える、ひたむきイケメンに歩みよりつつ、わたしはモデル九七に、巻きついていた鎖を外す。


「――だから、あなたにはこれ・・を見せるわ。たとえゾンビになったとて、その身に刻んで忘れるな!」


 わたしはぐいと急速はっしん! 突撃しながら爪先で、地を蹴り空へと舞いあがる――





乙女流レヴィェㇵジュスティ槍術ーラロンスアァㇵ――オルレアンの薔薇ラホーズドㇹリオン!」





 わたしの銃剣ランスが天駆けて、くうを斬りさき、花を呼ぶ。流れきらめく薔薇の花。剣光まばゆい攻囲網、刹那にそれは狭まって、美事に敵を花咲かせ、辺りいちめん恋の花。


 どさりと倒れる努力の騎士を、祝福するかの花の雨。細切れに・・・・なった・・・剣がきらきら、星のように輝いて。


 炎が囲む恋舞台、数多の観客ねつに包まれ、熱風かぜ城塔とうを昇ってゆくわ。


 花巻くなかをわたしは舞いおり、炎のあかりのカーテシー。今宵はここまで、ボンヴトゥーㇵよき おかえりを






 わたしはハンケチくちに咥えて、いつものように矢を抜いてるわ。花柄コーデがつぼんで消えて、ふわりと光って元どおり。


 ……あいかわらずドレスはボロボロだけどね。ひたむきイケメンがひたむきに、ずいぶんいてくれちゃって、魅惑の太腿、白いおなかに、他にもいろいろ見えちゃいそう。えっち!



 地面におりて、向こうをむいてた、紳士的なカエルさん、こっちを見あげて首かしげ。


「リリアナ、君はいったい……?」


 わたしは指を唇にあて、にっこり微笑み、魅惑のウィンㇰ。


「乙女の秘密スクㇸはたくさんあるのよ」



 わたしはブローを頭に乗せて、努力の騎士の、その懐から、一冊のご本を取りだした。変なとこに入れてなくって、良かったことよ、ほんとうに。ご本ごと斬っちゃうとこだったから。途中で気づいて胴は避けたの。


 でもこのシィアㇵサー・フェリックス、さいご立ちあがるとき、操り人形みたいだったわ。ゾンビだから? まぁいいか。



「あったあった。おまじないシリーズ第百二十七巻――『恋の成就のおまじない゠きわめ』? なんでこんなもの借りたのかしら」


 “飢えたる犬は棒も恐れず”、ただ恋に尾を巻くのみって? わからないわね、そのこころ。


「いやぁ、それはやっぱりさ――」

「ま、いいわ。目的のブツは手に入れたことだし、ちょろりっとと、ずらかりましょう」

「哀れな……」



 頭の上でブローがなにか言ってるけど、細かいことはいーのよ。






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