第8話 恋と努力のそのほどは
燃える井戸のその底で、聖女と騎士が
騎士は剣で盾を叩いて、
――おあ!
わたしも
「おあ!」
「えっ?」
炎にゆらめく恋舞台。数多の武具で周囲をよろった、努力の騎士が聖女に挑む。わたしはよゆうの
わたしが左手をもどし、構え万全となるのを見てとり、ひたむきイケメンが突撃かんこう!
――おああ!
――ぎゃりん!
猛牛のごときその突き技は、
ぎりりと音たて鉄がきしんで、うわ背のある騎士の全力。わたしは真っこう受けてたち、いっぽも退かずにそれを弾いた!
――ぎぃんっ ぎゃりっ きんっ ききんっ
刹那、乱舞の努力のイケメン。手当たり次第の
ぴんと立ったしっぽを振っても、猪じゃないのよ、わたしはねずみ。そんなに慌てなくったって、逃げやしないわ、大丈夫。
――きゃりんっ きんっ がいんっ がいんっ
無呼吸連打はどこまでも。ゾンビの利点を上手く活かしてる。でも、これじゃ、いつまで経っても護りは抜けない。
埒が開かぬとイケメン騎士は、そのまま、ぱっと距離を取りざま、剣盾なげすて鎚を手にする。ほう、思いきりのいい騎士ね。
でも正解よ。
――どどーん!
わたしがひょいと避けた大地が、
――どどーん! どどーん! どん、どどーん!
なんどやっても意味はなし。ねずみ叩くにゃ重すぎる。ちょろちょろ避ける白いドレスの、破けた裾にもかすらない。
――おあ!
――ぎゃりん!
――ぶおんっ!
そういうなんでも使うとこ、嫌いじゃないわよ、わたしはね。
わたしはドロップ、仰向けに、そのままころん、ころころと、でんぐり返しで距離をとる。
イケメン騎士は大鎌を、振りおろすことも叶わずに――だって地面に刺さっちゃう――がんばって低空を薙いでるけれど、やっぱり大型武器だもの、ねずみの
ひたむきイケメン、業を煮やして、大鎌投げすて、弓をとる! わたしは後転そのままに、左手地につきバックステップ。ぴょこっと地に立ち、矢を弾く。
――きんっ
二の矢、三の矢それを続けて、次なる武器は両手斧。ぐるぐる頭上でそれを回して、勢いつけて振りおろす! でも、それで終わりじゃなくってね、避けたわたしの後を追い、斧がぐるりと追いかけてくる!
Uの字描く弧の軌道。勢い慣性ころさずに、上手く攻撃をつないでる。
くるりくるり、くるくると、ダンスのリズムも燃えあがり、ふたりのこころも燃えあがる。火の粉きらめく舞台の
「うわっ、わあっ、リリアナ、リリアナ!」
「
芯は、ね。さすがにぜんぶは避けられず、わたしのドレスが布とばす。どんどん裸に近づいて、白い柔肌、炎に映える。赤い花びら舞いちって、くれないリボンが炎にたなびく。密会むきの勝負のコーデ。すみれのお花が満開よ。えっちな騎士には
「リリアナ、なんで撃たないの!?」
「見なさい、彼の努力のほどを」
斧をまわして才なき騎士が、美事に輝き、ダンスを踊る――
「鎚に大鎌、弓に斧。彼の研鑽なかりせば、すべては存在しなかったのよ。わたしはそれが愛おしい。それは哀しく美しい」
ゾンビになりさえしなければ、彼の努力はもっと高みに。彼の舞台は輝いていた。だから無念はわたしが受ける。だからわたしはすべてを受ける。わたしは聖女、召喚聖女。
やがて騎士は斧なげて、わたしはそれをくるりと避ける。さあ、もう後がないわよ――って、ひたむきイケメンが左手を、こっちに向けて構えてる?
――どしゅっ! じゃらららら ぎゃるん!
「
「腕が飛んだあ!?」
努力の騎士の左腕、肘のさきから発射され、そこから肘には鎖がついてる! これはなんてロケットなパンチ。わたしがそれを銃剣で、弾くや否や、鎖が巻きつき、
びっくりしたわ。これこそ、
――ぎりっ ぎりりりっ!
聖女と騎士の恋の綱引き。じりっ、じりっと距離が縮まる。努力の騎士の
「えいっ」
――おあっ!?
わたしは鎖を左手で掴んで、片腕だけで力尽く、思いっきりにぶん投げる! ひたむきイケメン宙を舞い、ばたばたしながら
――どたーんっ!
――お……ぁ
両手ひろげて――って右手しかないけど、
「魔法の義手……魔法の武具ね」
「左腕を、失ってたのか」
それをわたしに隠してたってことは、それでいいのね、隠し技。
わたしはなくした腕を生やせる。
そうまでしてまで
――いいでしょう。買ってあげるわ、その意気を。
「立ちなさい!」
すると倒れた努力の騎士が、ほんの一瞬、黄金(きん)に光って、
「亀の歩みは遅くとも、一歩いっぽを積みかさね、いつかは兎を抜くものよ。わたしは亀を
あわてて剣をひろって構える、ひたむきイケメンに歩みよりつつ、わたしはモデル九七に、巻きついていた鎖を外す。
「――だから、あなたには
わたしはぐいと急速はっしん! 突撃しながら爪先で、地を蹴り空へと舞いあがる――
「
わたしの
どさりと倒れる努力の騎士を、祝福するかの花の雨。
炎が囲む恋舞台、数多の観客ねつに包まれ、
花巻くなかをわたしは舞いおり、炎の
わたしはハンケチくちに咥えて、いつものように矢を抜いてるわ。花柄コーデがつぼんで消えて、ふわりと光って元どおり。
……あいかわらずドレスはボロボロだけどね。ひたむきイケメンがひたむきに、ずいぶん
地面におりて、向こうをむいてた、紳士的なカエルさん、こっちを見あげて首かしげ。
「リリアナ、君はいったい……?」
わたしは指を唇にあて、にっこり微笑み、魅惑のウィンㇰ。
「乙女の
わたしはブローを頭に乗せて、努力の騎士の、その懐から、一冊のご本を取りだした。変なとこに入れてなくって、良かったことよ、ほんとうに。ご本ごと斬っちゃうとこだったから。途中で気づいて胴は避けたの。
でもこの
「あったあった。おまじないシリーズ第百二十七巻――『恋の成就のおまじない゠
“飢えたる犬は棒も恐れず”、ただ恋に尾を巻くのみって? わからないわね、そのこころ。
「いやぁ、それはやっぱりさ――」
「ま、いいわ。目的のブツは手に入れたことだし、ちょろり
「哀れな……」
頭の上でブローがなにか言ってるけど、細かいことはいーのよ。
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