第7話 燃えてきらめく舞踏会
――ぉ、ぉ
「ゾンビだ……ゾンビがたくさんいる」
「
わたしが入ってきた堅い扉は、その階段の上のほう。そこだけキャットウォークのように、狭い
そして上を見てみれば、五メートルほどで吹き抜けは終わって、そこに見えるは
階段は、倉庫のさらに上にある、城塔の屋上まで続いてる。その脇には倉庫への扉もついていて、その扉のまえの踊り場に、おっきな樽が、どんとある。置きっぱなしね、入れればいいのに。
下を見おろしゃぎらりと反射。階段ぞいの壁ぞいに、剣やら槍やら弓矢やら、武器がずらりとかかってる。この高さある階段の、内壁ぞいに、ずらっとね。
もちろん
その階段に、無数のゾンビの殿方たちが、ゆらゆらしながら並んで立ってる!
なんだかあやしい儀式みたいね。
きっと巡回しては持ってる武器を、返却しにくるルーチンが、中途半端に残ってたのね。それがぞろぞろ重なって、押しも押されぬ大渋滞。
犬のお巡りさんたちが、困って止まって重なって、有名店のお客さま。最後尾はいったい何時間まち?
「こんなところに、あいつがいるの?」
「だっていつもここにいたから……ほら、あそこ!」
フェリックス・セㇶユ・ソシュールさま。ふつうに読むとフェリックス・“マジで!?”・ソシュールさま。まぁ
紹介されたそのときは、なんだかすごく照れていて、わたわたしててちょっぴりけ、可愛らしくて、ほほえましくて。
よく頑張ってお話してくれたんだけど、そのなつっこさがね、なんだか仔犬みたいって思ってね、ほんのちょぴっと、キュンとしちゃった。
でもね、わたしは知っている。彼は才なきその身の上に、甘んじているわけじゃない。いつもこの
剣の腕が並ならば、あらゆる武器を使えるようにと、遍歴の旅で身につけた、槍弓斧に、鎚に大鎌、果ては鎖の投げ技までも。才なき騎士は武芸百般!
それでも及ばぬその腕を、理想の高みを目ざしてかかげ、日夜研鑽に精をだす。ひと呼んで、“努力の騎士”とは彼のこと。
「あの騎士、あんまり強くはないよ」
「いいえ、あの手合いがやっかいなのよ」
腕に覚えのそのままに。ゾンビはからだが記憶した、動きをそのままぶつけて来るから。図書館で戦ったインテリ騎士の、
「たくさんお話してくれたけど……」
「あの修練マニアが? まさかぁ」
「でも、わたしが来ると、剣ほっぽらかして」
「それって――」
「おっと、時がすぎるわ。舞台は水もの。踊るわね」
わたしはショールを脱ぎすてた。
《星よ、星よ、星たちよ、みんなの光をちょっとずつ、わたしに分けておとしてね。ルイーテ・アロス・ブリィエ・アスティル!》
星の
――こつん。
ブーツのかかとが音たてて、
「お空の星からやってきた、キラキラネームのキラキラ系! ダイヤモンドの
とつぜん
夜の塔の秘密の集い、殿方たちと魅惑の乙女が、ルンバを踊って
イケメン騎士がひとこえあげた。
――おおあ!
――おあああああああああ!
わたしは余裕で微笑んで、スカート持ちあげご挨拶! 華麗にスカートばさっとあげて、さあおいでなさい、仔犬ちゃんたち。
――どごん!
十二ゲージの雷鳴が、轟きわたって唸りをあげる。恋にやぶれてどたどたごろごろ、うしろのみんなを巻きこんで。ついでに大穴へ落ちてゆく。お空のダンスね、
それでも不屈の殿方たちは、倒れた仲間を乗りこえて、わたし目がけて階段ふみしめ、前へ前へと
「かわいそうが足りないぞ」
「えっ?」
わたしはくるっと、うるわしカール、そのままダッシュで駆けあがり、倉庫のまえに置いてある、おおきな樽を蹴りおとす!
――ごろんっ ごろごろ ずどーん! どかーん!
渦巻き描く
「あら、これ
「リリアナ!」
――ひゅんっ
わたしはひょいと首かしげ、そこを矢弾が抜けてゆく。殿方たちは階段の、対岸に立って弓を射ってる。わたしはスリーアレマーナズで、続く矢勢をくるくる避ける。
二の矢、三の矢そろいぶみ、恋文届けと
「
わたしはそのまま大穴に、階段上から
――どごん! しゅこっ どごん! しゅこっ どごん! しゅこっ
なんの
弓を構えて居ならぶ殿方、わたしの恋が炸裂し、花を散らして――
――ぼぼん! ぼぼぼぼ!
「燃えたあ!?」
「強いお酒を被ってたもの」
フリントロックが火花をちらし、燃えるこころに
次なる手勢が寄せてきて、わたしは魅惑のドロップで、仰向けになって手をひろげ、大穴に壁けり飛びだして、上に見えてる
――どごん!
――がちゃん! どばっ しゅるるるる! どどーん!
倉庫の底の天井の、中央ぶぶんの扉が開き、そこから物資の大袋、ロープの尾をひき落ちてゆく! びんと張ったロープは倉庫の、がららと悲鳴をあげている、滑車にそのまま繋がってるわ。
わたしは吹きぬけのまんなかで、伸びたロープを手に掴み、くるりと空中アレマーナ。宙舞う軌道をきらりと変えて、殿方たちの花束
それでも数多の殿方たちの、熱いヴェーゼがドレスを引きさき、スカート破けて生足ごひろう。お腹も腿も丸出しで、くれないリボンの艶姿! すみれのお花も綺麗に咲いたわ。殿方たちもお熱があがって、勢い増して
わたしはそのまま勢いまかせに、べつの岸辺へ飛びだして、殿方たちの突きだす花束、ヒップツイストで華麗にすりぬけ、恋の弾丸みだれ撃ち!
――どごん! しゅこっ どごん! しゅこっ どごん! しゅこっ
――ぼぼん! ぼぼん! ぼぼぼぼん!
撃てば燃えたつ
わたしは可憐なホッキースティック、そのまま助走で走りだし、壁をぐるぐる回りだす!
「わああああ! リリアナ! リリアナ!」
「
重力おきざり、わたしは駆けぬけ、
次つぎ落ちてく殿方たちに、わたしは微笑み贈ってあげるの――
やがて舞台は第二幕。井戸の底にて恋の逢瀬に、見合うは聖女と騎士ひとり。群れを倒すにゃ頭からって、セオリー無視して大トリよ。
吹きぬけの底はとってもひろい。地面は土の床だけど、周囲のいろんなそこかしこ、恋に破れた燃えぼっくりが、炎をあげて取りまいてるわ。広場のまんなか、大袋。ロープに繋がり転がっている。
壊れた樽もひときわ燃えて、辺りの地面を火がなめる。恋の炎がとり囲み、ふたりのダンスを待っている。
そして騎士のまわりには、剣槍斧に、鎚に大鎌、矢の数かずが、刺さってる。
「そうか、そこまで鍛えたか。……気をつけて、リリアナ。こいつはボクの知ってる奴じゃない」
「“男児三日会わざれば”。努力の騎士の、努力のほどを、見せてごらんな、上等よ!」
わたしはスカート摘まんで腰を落とした――
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