第7話 燃えてきらめく舞踏会






 ――ぉ、ぉ



「ゾンビだ……ゾンビがたくさんいる」

オゥララーあらら、やけにいないと思ったら」


 城塔とうのなかは吹きぬけで、直径およそ十メートルで、高さはおよそ二十メートル、とってもひろい空間よ。城塔の内側、壁ぞいに、石組みの階段きざはしが剥きだしで、ぐるりと吹きぬけを取りまいている。手すりもなくてとっても怖い。



 わたしが入ってきた堅い扉は、その階段の上のほう。そこだけキャットウォークのように、狭いバルコンバルコニーが張りだしていて、それがぐるっと円を描いて、対岸の扉に繋がってるの。あれの向こうはまた歩廊。


 そして上を見てみれば、五メートルほどで吹き抜けは終わって、そこに見えるは木製の天井。中央に下向きに開く形の、落とし穴の下っかわみたいなのがあるけれど、あれは物資を運びこむ扉。天井の上は倉庫なの。


 階段は、倉庫のさらに上にある、城塔の屋上まで続いてる。その脇には倉庫への扉もついていて、その扉のまえの踊り場に、おっきな樽が、どんとある。置きっぱなしね、入れればいいのに。


 下を見おろしゃぎらりと反射。階段ぞいの壁ぞいに、剣やら槍やら弓矢やら、武器がずらりとかかってる。この高さある階段の、内壁ぞいに、ずらっとね。



 もちろんあかりはついてないけど、そこをかしこに狭間さまがあり、星の明かりが射しこんで、うすぼんやりと見通せる……のはいいんだけど。



 その階段に、無数のゾンビの殿方たちが、ゆらゆらしながら並んで立ってる! ケコゼなんなの!?



 なんだかあやしい儀式みたいね。


 きっと巡回しては持ってる武器を、返却しにくるルーチンが、中途半端に残ってたのね。それがぞろぞろ重なって、押しも押されぬ大渋滞。パㇳションㇲおきのどく


 犬のお巡りさんたちが、困って止まって重なって、有名店のお客さま。最後尾はいったい何時間まち?



「こんなところに、あいつがいるの?」

「だっていつもここにいたから……ほら、あそこ!」


 城塔とうの吹きぬけ、はるかな底に、星の明かりにきらめく鎧。剣をもった騎士ひとり。


 フェリックス・セㇶユ・ソシュールさま。ふつうに読むとフェリックス・“マジで!?”・ソシュールさま。まぁあざなのセㇶユは、“まじめ”とか“ひたむき”ってところかしらね。



 シィアㇵサー・フェリックスは明るい茶髪にとび色の目の、どこか幼い顔立ちをした、木訥ぼくとつとしたイケメンよ。わたしが召喚されてすぐ、遍歴の旅からお戻りになったの。なんでも剣の腕まえイマイチで、武芸きたえの旅だったそうよ。


 紹介されたそのときは、なんだかすごく照れていて、わたわたしててちょっぴりけ、可愛らしくて、ほほえましくて。


 よく頑張ってお話してくれたんだけど、そのなつっこさがね、なんだか仔犬みたいって思ってね、ほんのちょぴっと、キュンとしちゃった。



 でもね、わたしは知っている。彼は才なきその身の上に、甘んじているわけじゃない。いつもこの城塔とうに籠もってね、朝から晩まで修練してた。


 剣の腕が並ならば、あらゆる武器を使えるようにと、遍歴の旅で身につけた、槍弓斧に、鎚に大鎌、果ては鎖の投げ技までも。才なき騎士は武芸百般!


 それでも及ばぬその腕を、理想の高みを目ざしてかかげ、日夜研鑽に精をだす。ひと呼んで、“努力の騎士”とは彼のこと。



「あの騎士、あんまり強くはないよ」

「いいえ、あの手合いがやっかいなのよ」


 腕に覚えのそのままに。ゾンビはからだが記憶した、動きをそのままぶつけて来るから。図書館で戦ったインテリ騎士の、シィアㇵサー・ルネには不利だったのよね。


「たくさんお話してくれたけど……」

「あの修練マニアが? まさかぁ」

「でも、わたしが来ると、剣ほっぽらかして」

「それって――」

「おっと、時がすぎるわ。舞台は水もの。踊るわね」


 わたしはショールを脱ぎすてた。



 《星よ、星よ、星たちよ、みんなの光をちょっとずつ、わたしに分けておとしてね。ルイーテ・アロス・ブリィエ・アスティル!》



 星のあかりのスポットライトが、わたしを照らして輝きおちる。さあアレ恋におちましょうスロンセドンラムーㇵ



 ――こつん。



 ブーツのかかとが音たてて、城塔とうの内側の階段きざはしに、ずらりと居ならぶお歴れきとのがた たちが、いっせい振りむき、わたしを見あげる。



「お空の星からやってきた、キラキラネームのキラキラ系! ダイヤモンドのトゥウィンㇰㇽきらめきよ! ステラ! 星をふりまくトレンチスウィーパ、聖女リリアナ、綺羅星きらぼしのごとくいま参上! おとぎの国のお巡りさんたち、ねずみの入る隙だらけよ!」



 とつぜんそらから輝いた、きらめき聖女の登場に、ときめきざわめく殿方の群れ。さあさ、いっしょに踊りましょ。舞踏会のはじまりよ!


 夜の塔の秘密の集い、殿方たちと魅惑の乙女が、ルンバを踊ってたのしむの。



 イケメン騎士がひとこえあげた。



 ――おおあ!


 ――おあああああああああ!



 オフィチァしかん殿のお声がかりで、犬のお巡りさんたちが、いっせい声あげ動きだす。衛士の鎧ががちゃがちゃ鳴って、有名店の開店に、ながらく並んだお客さま、押しあいへしあい我さきに、死んだ目をして押しよせる! パッショ!


 わたしは余裕で微笑んで、スカート持ちあげご挨拶! 華麗にスカートばさっとあげて、さあおいでなさい、仔犬ちゃんたち。水面みなもの骨ならここにある。



 ――どごん!



 十二ゲージの雷鳴が、轟きわたって唸りをあげる。恋にやぶれてどたどたごろごろ、うしろのみんなを巻きこんで。ついでに大穴へ落ちてゆく。お空のダンスね、ベニッシモすてきだわ



 それでも不屈の殿方たちは、倒れた仲間を乗りこえて、わたし目がけて階段ふみしめ、前へ前へと襲歩の姿勢ギャラップよ。薄暗い塔の内側の、ずらりと見えてる階段を、殿方たちがえんえんと、鈴なりになって昇りくる。


「かわいそうが足りないぞ」

「えっ?」


 わたしはくるっと、うるわしカール、そのままダッシュで駆けあがり、倉庫のまえに置いてある、おおきな樽を蹴りおとす!



 ――ごろんっ ごろごろ ずどーん! どかーん!



 渦巻き描く階段にエスカリエ、美事に樽が転がり進み、殿方たちを弾きとばして、中身をぶちまけ、落ちてゆく。スㇳラーィㇰ!


「あら、これハンㇺラムしゅだわ」

「リリアナ!」



 ――ひゅんっ



 わたしはひょいと首かしげ、そこを矢弾が抜けてゆく。殿方たちは階段の、対岸に立って弓を射ってる。わたしはスリーアレマーナズで、続く矢勢をくるくる避ける。


 二の矢、三の矢そろいぶみ、恋文届けとケーㇵハートを狙う。一斉射撃のアンフォントㇷィドゥリンニャ、燃えるこころが火を噴いてるわね。


サシィなまいき!」


 わたしはそのまま大穴に、階段上からスロンセドンみをなげて、壁を蹴って対岸へ!



 ――どごん! しゅこっ どごん! しゅこっ どごん! しゅこっ



 なんのヘウェーァゲベールごときなぞ、ショットガンにはただの的! ごめんあそばせ!


 弓を構えて居ならぶ殿方、わたしの恋が炸裂し、花を散らして――



 ――ぼぼん! ぼぼぼぼ!



「燃えたあ!?」

「強いお酒を被ってたもの」


 フリントロックが火花をちらし、燃えるこころにアリュマージュひがついて、楽しく踊って落ちてゆく。ごきげんよう!



 次なる手勢が寄せてきて、わたしは魅惑のドロップで、仰向けになって手をひろげ、大穴に壁けり飛びだして、上に見えてる木製の天井を、乙女のエィㇺで狙い撃ち!



 ――どごん!


 ――がちゃん! どばっ しゅるるるる! どどーん!



 倉庫の底の天井の、中央ぶぶんの扉が開き、そこから物資の大袋、ロープの尾をひき落ちてゆく! びんと張ったロープは倉庫の、がららと悲鳴をあげている、滑車にそのまま繋がってるわ。



 わたしは吹きぬけのまんなかで、伸びたロープを手に掴み、くるりと空中アレマーナ。宙舞う軌道をきらりと変えて、殿方たちの花束かわす。背後の壁に音たかく、槍や矢の音、アコンパニユモンばんそう かなでる


 それでも数多の殿方たちの、熱いヴェーゼがドレスを引きさき、スカート破けて生足ごひろう。お腹も腿も丸出しで、くれないリボンの艶姿! すみれのお花も綺麗に咲いたわ。殿方たちもお熱があがって、勢い増してメラヴィリオーゾとってもすてき! ダンスタィㇺは絶好調!



 わたしはそのまま勢いまかせに、べつの岸辺へ飛びだして、殿方たちの突きだす花束、ヒップツイストで華麗にすりぬけ、恋の弾丸みだれ撃ち!



 ――どごん! しゅこっ どごん! しゅこっ どごん! しゅこっ


 ――ぼぼん! ぼぼん! ぼぼぼぼん!



 撃てば燃えたつ恋の炎ヴェックスに、わたしも熱に浮かされて、殿方たちに笑顔を振りまく。



 わたしは可憐なホッキースティック、そのまま助走で走りだし、壁をぐるぐる回りだす!


 城塔とうの内側の湾曲の壁、わたしは垂直に壁を走って、速度はどんどん跳ねあがる! 走りながらに恋とどけ、次つぎお花も燃えあがる! あがり巡りて恋情螺旋らせん、恋のひととき炎熱地獄! あはっ!


「わああああ! リリアナ! リリアナ!」

シャッテュァマウㇲおくち とじてて! 舌ぁかむわよ!」


 重力おきざり、わたしは駆けぬけ、に居ならぶ殿方たちに、恋の星ぼし配ってまわる。ぐるぐる、ぐるぐる、舞台がまわる。渦巻く階段、流れる殿方。燃えて輝く恋の花。白いドレスの聖女が疾走はしる、これがお城の舞踏会。


 次つぎ落ちてく殿方たちに、わたしは微笑み贈ってあげるの――






 やがて舞台は第二幕。井戸の底にて恋の逢瀬に、見合うは聖女と騎士ひとり。群れを倒すにゃ頭からって、セオリー無視して大トリよ。



 吹きぬけの底はとってもひろい。地面は土の床だけど、周囲のいろんなそこかしこ、恋に破れた燃えぼっくりが、炎をあげて取りまいてるわ。広場のまんなか、大袋。ロープに繋がり転がっている。


 壊れた樽もひときわ燃えて、辺りの地面を火がなめる。恋の炎がとり囲み、ふたりのダンスを待っている。



 そして騎士のまわりには、剣槍斧に、鎚に大鎌、矢の数かずが、刺さってる。シィアㇵサー・フェリックスが、この時までに、なにしてたかと思いきや、準備ばんたん整えてたのね。


「そうか、そこまで鍛えたか。……気をつけて、リリアナ。こいつはボクの知ってる奴じゃない」

「“男児三日会わざれば”。努力の騎士の、努力のほどを、見せてごらんな、上等よ!」



 わたしはスカート摘まんで腰を落とした――






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