第6話 女王伝承
「夜の女王?」
わたしはベッドから身をおこし、ブローにお話きいてるの。呪いのご本を調べてて、ふと、そもそもの、疑問に気づいた。“魔女ってだれなの?”
わたしは魔女といえば、森でひひひと笑ってる、お婆ちゃんだと思ってた。でも、よく考えたら、このゾンビの呪いなんてヘンテコなものを、かけたあいてがどんなひとなのか、わたしはなんにも知らないのよね。
みんな“悪い魔女”としか言ってなかったし、わたしもそれで納得してた。
でもここは、おとぎ話のなかじゃなく、みんながちゃんと生活してる、ふつうの世界なのだから。
魔女だってきちんと名まえがあって、どこかのだれかじゃあるはずなのよ。わざわざ“悪い”ってお冠をつけるからには、ほかにも魔女はいるのだろうし。
「そう、夜の女王。それがこの死の呪いをかけた、悪い魔女の名まえだよ。“称号の女王”というものは、そのままそれが通り名になる。ほんとの名まえは、だぁれも知らない。骨と
「
「どういうこと?」
「ううん、なんでもない。
「ほかにも称号の女王は、なん
「そもそも女王ってなに? 国をおさめてるわけじゃあないの?」
ブローはとっても暗い声して――
“夜の、とかの称号のついた女王は、魔法の使い手のてっぺんさ。
なかでも力のつよいのが、“女王の力”を手にいれる。なにかの儀式の果てなのか、魔法の極めの果てなのか、とにかく称号の女王となる。
およそできないことはなく、森羅万象と合一し、なにかの
……まぁ、そもそも魔女になった段階で、すでに
じっさい夜の女王は、数百年もまえからずっとに、生きているって話だよ”
「
「気まぐれで残酷な女神たちさ。なかには“良いの”もいるけれど」
ブローはちょっとため息ついた。
「ボクはこんなカエルだし、なにより男だもんだから、魔法の使い手たちの話は、あんまり近しくないんだよ。だからどんな仕組みと理屈で、そんなことになるのかは、どうかボクには聞かないどくれ。とにかく魔女のなかの魔女、魔女の
悪い魔女で女王さまで、仙女さまで女神さま。
わたしは悪くていじわるな、ひねくれ魔女のお婆ちゃんと、戦うつもりでいたのだけれど、なんとあいては女神さま! 死を
わたしはリリアナ、聖女リリアナ! わたしがやらなきゃ誰が
でもまずは、クッキーたべてお昼寝しましょ。
「あら」
しんと静まる夜の図書館。わたしは書棚で首かしげ。
呪いとまじないジャンルの棚の、おまじないシリーズ第百二十七巻がないわ。珍しいこともあるものね。いったい誰が借りたのかしら?
「ええと、貸しだし名簿にはっと……
「あいつ
「も?」
「な、なんでもないよ! それよりどうするの、リリアナ?」
彼がどこにいるのかなんて、こころあたりがちょいとある。わたしは図書館を後にした。
わたしは魔法のランタンを、片手にかかげて歩廊を進む。夜の星空がわたしを見下ろし、髪とショールを夜風がゆらす。十五メートルのたかい
歩廊の上から見あげると、そこにひろがる
ちいさなちいさな星ぼしは、きらきら光って踊ってる。
星空みあげてちょいとため息。月はさえざえ白いけど、兎もカエルも見あたらない。星ぼしの顔ぶれもぜんぜん違う。わたしの知らないお空の
そっくりな星はひとつだけ。まわりはみんな知らない子たち。なんだかぽつんとさみしそう。
なぜだか切ない気分だわ。
わたしは星を見あげながらに、だいじに首にかけている、銀のロケットをそっと握った。
「……」
みんなどうしているかしら。
お父さま、お母さま。本家のお婆さま。学校のお友だちに、先生たち。――あっちのみんな。
あれからほんのすこししか、月日をかさねていないのに、ずいぶん昔のことみたい。いいえ、あのひとの言うことが、真実ならば遙か昔に――
帰る方法はない。
さいしょにあのひと――“たそがれの君”はそう言った。
“あんまり哀れなことだから、ちょいとオマケをつけてやろうか”
「どしたの、リリアナ?」
「聖女召喚ってブローは知ってる?」
「名まえだけなら。ずっと昔に創られた、なにかすごい儀式で呼ぶんだ。……そうか、君は――」
「わたしはね、あの星たちのどれかから来た。星の海をわたってきたのよ」
“星の光にまたがって”
「それは……ロマンチックな話だね」
星と月とカエルさん。ふしぎな切ない時間がながれる。聖女になって力を得たけど、それは素敵なことだけど。
それでお話は終わりじゃなかった。
「
「……」
……だめね、わたしとしたことが。頬をぺちんと気分いっしん!
「ごめん、辛気くさくなっちゃった。行きましょ」
そしてふたたび歩きだす――
“セット”
わたしはうしろでじっと見つめる、白い
わたしは違う。
でも、殿方たちはもっといたはず。どこへ行っちゃったのかしら。
「リリアナ、ここは武器庫の塔だよ?」
「彼ってずっとここにいるもの」
お城の城壁の各所には、城塔がいくつもくっついてるの。それぞれ果たすは物見の仕事や、城壁にとりつく敵兵たちを、横から射るための
本格的な倉庫の類は、城内のほうにあるんだけれど、
まぁ、大国ポワーヌの王城が、城攻め受けるはまずないけどね。そこまで来たなら存亡の危機。……存亡の危機は来ちゃったけれど。
さて、城塔に入りましょう。
――クリィィ……
「うわ……っ」
「こ、これは……」
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