第4話 百合の花園
「ひぃひぃふぅ」
「リリアナ、それじゃなにかが産まれちゃうよ」
まっくら城のまっくらな
こうしていると大人しいのは、ドレスをめらめら燃やさぬように、気をつかってくれてるのかしら。あなたいい子ね、
ブローがぴょこんと頭から、わたしのまえに降りてくる。
「その魔法の杖、すごいんだね。いったいどこで――」
よくぞ聞いてくれたもの! カエルさんの言葉もなかばで、ご本は足もとにぱっと置き、愛銃ぬいてたからか歌う。
「モデル九七! トレンチガン! 制式名称ウインチェスター
「リリアナ、リリアナ、目がこわいよ。どうしてちょっと早くちになるの」
――どごん!
「ちょっとちょっと! なんで撃つのさ!」
「ふんだ!」
わたしはつんと顔をそむけて、愛銃を肩にため息ひとつ。まったくみんなわかってないわね、ショットガンの素晴らしさ! どうしていつも目をまんまるにしたり、笑顔でうしろに退いてくの?
「危ないったらありゃしない」
「ちゃんと手かげんしてるから、あたってもすっごく痛いだけよ」
「すっごく痛いんだね」
ブローはなんだかげんなりしてる。
「ええと、モディ……?」
「モデル九七! トレンチガン! コンバットプルーフたしかなショットガン! ちなみにわかりやすく言うと、ショットガンというのは一発ごとに、ちっちゃい弾がたくさん飛びだす近距離用で、ライフルの逆ね。ライフルっていうのは一発ごとに、おっきな弾が一個しか出ない遠距離用なの。でもやっぱりわたしはこっちがいいわ!」
「だから目が……ええと、その“モディルキュ゠ルナナ”がよっぽど好きなんだね」
「そうね!」
わたしはくるくる愛銃まわして、びしっと構えて決めポーズ!
「恋多きわたしだけれど、わたしはこの子が大好きよ!」
ああ、あの反動のたくましさ。なにものをも寄せつけぬストッピングパワー。十二ゲージの轟く雷鳴。かぐわしき硝煙の
すべてがわたしを熱くする。わたしはこの子に恋してる。
「ちなみにライオットくんは弟よ」
「へぇ、弟さんいるんだ?」
「あの子はすぐ熱くなっちゃうのよね」
「熱血なんだね」
わたしが愛銃を太腿の、巻いてる布に収める間、ブローは律儀にうしろを向いてる。つくづく
「縮むんだね」
「魔法のショットガンだもの。収めてるときはちっちゃくて、抜くと伸びるの、うにょーんて」
まぁ、わたしもこうして収めるまでは、縮むとか知らなかったんだけれども。
「撃ちだす弾も
「紐で背おったりしないのかい?」
「さいしょの頃はね、
「ふぅん」
高価そうな彫刻を、ひっくりかえして割っちゃって、あわわってなって隙だらけ。ステップまちがえ盛大に、殿方あいてに無様なダンス。あれは頂けなかったわ。
そのあと元に戻ると知って、ずいぶんほっとしたものよ。
夜うぐいすがひとこえ鳴いた。
なんの気なしに窓から覗くと、つめたく光る月の下、
わたしはうしろを振りかえり、もいちど城塔を見あげるけれど、お月さまがあるだけで、城塔の上には影はなし。気のせいか。
お
わたしのお室のクラゥゼッㇳは、歩いて入れる
残りのドレスはまだたくさん。よくまぁこんなに白いドレスを、わたしに贈ってくれたもの。みんなわたしにぞっこんね!
……まぁ、聖女と言えば白いドレスだと、みんなこれでもかとくれたからね。それしか似あわなかったから……とか考えたらだめよリリアナ。わたしは美少女、わたしは美少女。白いドレスの良く似あう、可憐な大和撫子なのよ。お嬢さまには清楚な白よ。モンゴロイドだからじゃないわ。たぶん。
だれもかれもが贈るドレスが、わたしの身体にぴったりなのも、考えちゃったらいけないわ。だってわたしが仕立屋さんに、からだの寸法はかられたのは、さいしょの一回だけなのよ?
仕立屋とおしてスリーサイズが、いつの間にやらみんなのひみつ。
……さいきん、わたしってちょっと乱暴ね。お嬢さまがよくないわ。こころを落ちつけ、くるっとまわる。ならぶドレスに罪はなし。きれいで素敵な白い園。百合のお花がたくさんならぶ、これがわたしの
でも、ぼろぼろのドレスもけっこう増えた。ちょっぴり哀しい
ふりふりしてると引っかかるから、地味めなものから着ているけれど、だんだん地味なのなくなってきた。このままじわじわ
でも、ドレスがぜんぶなくなっちゃったら、はだかの聖女よ、
図書館ねずみが白うさぎ。はたしてそれは、進化か退化か――
わたしは深じんなる哲学に、スモックすがたで頭を悩ませ、桶から
ふかふか毛皮の絨毯の、届かぬところの石の床。たらいをそこに、どっこいしょ!
「いっぱい動いたから、お風呂にしましょう」
「えっ」
《炎よ炎、ゆらめく踊り手、あなたのまえのこの水を、ほんのすこしゆらしてね。ルイーテ・アロス・ルフー・イフリル!》
わたしは魔法でお湯を
こっちのへんてこ石鹸は、あんまり泡が出ないけど、びっくりするほど綺麗になるの。たぶんこれも魔法の品よね。なんだかきらきら光ってる。
泡のかわりに淡い光が、ふわふわ浮かんでぱちりと消えて。たくさん光に包まれて、お花の
おふろ、おふろ。すてきなおふろ。おふろというにはちいさいけれど。
おふろ、おふろ。あわあわおふろ。あわというにはひかってるけれど。
きれいな、きれいな、ちいさなひかり。
ふんわり、ふんわり、おはなのかおり。
すてきな、すてきな、わたしになあれ。
きれいな、きれいな、わたしになあれ。
たまのおはだは、つるつるに。
つやあるおぐしは、さらさらに。
だれよりかがやく、ほしになれ!
ながい黒髪もいっしょうけんめい、優しく洗って手でもんで。
でっかい銀の素敵な湯船も、あるにはあるんだけれどもね。そこへ満たすほど水はない。じぶんでえっちらおっちらだもの!
さいしょの頃はお城のみんなが、たくさん汲んでくれたけど、いまとなっては凄いぜいたく。ああ、あの天国よもういちど。
ぱちゃぱちゃお湯でからだを洗って、ふと壁のすみ、うしろを向いてちっちゃくなってる、カエルさんが目にとまる。
「ブロー、あなたも洗ってあげる」
「ええっ!? い、いいよ!」
あわてるブローをひょいと捕まえ、両手でだいじに持ってくる。なんで暴れるの?
お湯で流して石鹸で、優しく手でなで、洗ってあげる。まるっこくってやわっこい。意外とお肌つるつるね!
「よいしょ、よいしょ」
「うあー」
抵抗むなしく緑のカエル、この世の終わりみたいな顔をして、ぎゅっと目をとじ固まって、からだの色まで
……ていうか、だいじょうぶ? ゆであがってない?
つんつん
「はい、おしまい」
「あ、ありがと!」
ブローは手のなか跳びあがり、壁のすみっこへいちもくさん!
びしょびしょ濡れた石の床、これも魔法で乾かすの。お
たらいのちょっぴり残り湯も、目には見えない火の精たちが、あっという間に消しちゃった。お風呂しゅうりょう!
へんてこ味のする粉で、ブラシでごしごし歯みがきしたら、お休みタイムの準備かんりょう。
「ええっ、また寝るの!?」
「夜なかですもの。夜ふかしは美容のたいてきよ!」
「だって昼からずっと……」
「
深夜すぎから朝まで眠って、お昼すぎか夕方から夜中まで眠るのが、だいたいわたしのいつものスタイル。寝てばっかり? 細かいことはいーのよ。
ちゃんといろいろ頑張ってるもの。あと、お勉強で頭がお熱。脳みそ休めて覚えたことを、きちんと定着させなくちゃ。けっして読書に
いっぱい寝ればおっきくなるはず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます