第5話 チョコレート

鏡に映る自分の顔を見る。

吐き気がする。


高校3年生の時、自分の顔がチョコレートだったらいいと思った。

溶かして、形成して、自分の好きな形にして。

それが気に入らなければ、また溶かして作り変えたらいい。

チョコレートだったらいいのに―


高校を卒業してすぐ、初めて顔にメスを入れて、今までよりも少しだけ長い時間鏡の中をのぞけるようになった。

少しずつ、少しずつ。

鏡と向き合える時間が増える度に、チョコレートは何度も形を変えた。


稼いだお金はほとんど使ってしまった。

呆れた親には見放された。

風が吹けばカタカタとなる窓。

どれだけきつく締めても、水が落ち続ける蛇口。

畳の部屋。

それでも満足だった。

鏡と形を変え続けるチョコレートがあれば。

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偏執病 金光蛍 @Hotalu_K

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