第3話 私は決心する

誰もいない。探せど探せど痕跡すらなし。

聞こえるのは波の音、鳥の鳴き声と正体不明のガサガサっという音。モンスターか!と身構えるのも飽きた。

というかモンスターとか絶対会いたくないと気付いた。

もし異世界への転生を果たしたのでないなら、私はここに何のために送られたのか?

気付けば島が見えなくなっていた。ずいぶん海岸沿いに進んだらしい。

行手に丘が見えてきた。

私は海岸を離れて近づくことにした。

大きな岩の塊のようで、切り立った崖になっていた。

左手に回り込む。

しばらく進むと、岩に切れ目がいくつも入っているポイントに出た。チムニーと呼ばれるものだ。

地面から一番近い高さにあるチムニーによじ登って覗き込んでみた。

中はかなりの広さの空間があり洞窟のようだった。

自分のワンルームよりは絶対広い。ビニールの合羽で入り口を塞げば雨も凌そうだ。

ここに荷物を運び生活の拠点とすることに決めた。

異世界ライフの指針を少し修正する。

まずは生きねばならないとはいえ、いつまでここにいるつもりなのだろう。


しかし私には漠然とした予感があった。

あの水平線に浮かぶ小さな島を見て感じた。

あれこそが私の向かうべき先になるのではないか。

ここは最後に試される場所、関門。

ここを離れてあの島へ向かう意志を持つ者こそが、新たな世界へ招かれる。誰でも彼でも異世界へ召喚させるわけではない。


私の大学生活は平凡で、つまりそこそこの楽しさがあった。

金銭的余裕があるわけではないが、好きなものを食べ、好きな時に寝て、好きなテレビをいつまでも見られる。

お付き合いしている彼女はいないが、それなりに女の子とも遊べている。人数合わせのようなものだが。

しかし、このままでいいのかとふと立ち止まる時がある。思い描いた大学生活とは違うような。

周りに置いていかれないように、雑誌を見て服を買い、髪を染め、ノリとよばれる雰囲気や空気を読んで合わせて笑う。

そうすることで何とか私は集団に属することができた。

男女混合のそれなりに騒がしいグループでスポッチャ、カラオケ、居酒屋へと散財の日々。


高校の頃は違った。男が二人、全く色気なんてなく、金も無く、河川敷をいつまでも歩いていた。

しかし私たちは実に様々なことを話した。

迫り来る受験への恐怖、架空の彼女への妄言、たまには生意気にも国を憂いてみたり。そして未来の展望だ。恥ずかしいほど真っ青な青写真を見せ合っていた。

しかし今はどうだ?

とにかく愛想笑いは上達したが、あの頃のように笑うことはずいぶん減った気がする。予定調和の笑いばかりをしている。

淡い願望など話したことはない。

なぜだろう。本気で笑わられることが怖いのか。一笑に付されることが簡単に想像できる。

そんな関係性を友達と呼んでいいのか。

私は静かに決心する。

必ずあの島へ行こうと。

いままでの自分とは決別し、自分で選んだ道を進むべきだ。


荷物を運び込み、広い空間に配置した。かなり正確に下宿を再現でき、満足した。

食欲はなかったがひどく喉は渇いていた。二リットルのペットボトルをラッパ飲みする。

食欲はなくても何か食べたほうが良いと考え、腐りそうなものから適当に食べることに。

私はサークルの付き合いで散々バーベキューの火付け役をやらされ…買って出ていた為、火起こしは慣れている。

チムニーの入り口近くで、集めた落ち葉や木を燃やし、ウインナーやチーズをフライパンで焼いた。

トマトもぶち込んだ。そういえば最近ハーブを貰った記憶があって探したが見つからなかった。まぁそんなオシャレなもの、私が扱えるわけがない。ろくに自炊などしないのだから。

しかし意外に豪勢な夕食ができた。

食べ終わる頃にはすっかり暗く、辺りは急速に夜に支配された。

まだ眠れなそうにない私は恐る恐る外に出た。

焚き火の僅かな明かりしかなく、本物の闇を実感した。街の夜とは全く異なる。空を見上げると幾つもの星が見えて、ここは地球の外なのではないかと思えた。

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