白金有希

先輩と後輩

俺は今日、気になっている彼女と会う約束をしている。


彼女は元気で、繊細で、努力家な1つ下の後輩だ。


前までは、楽しいとまではいってもそれ以上の感情はなかったのに、今では彼女とのLINEや彼女が時折見せる可愛い仕草にドキッとしてしまう。


頭では「別に好きではない……」なのだが、体は正直で、胸は高鳴るし不思議と暖かい気持ちになっていた。


「そっか……今日クリスマスか……」


彼女との会う約束をした後、ふと気づく。


俺は慌ててトーク履歴を読み返す。彼女は、いつも通りというかそうじゃないというか……まったくわからなかった。


というかそもそも文面だけで相手の気持ちを察するなんて難しい話だ。


それも恋愛が絡めばなおさらだ。自分のことをどう思ってるのかなんてわからなくなる。


おそらく頼ってもいい先輩としてしか見ていないのだろうが……


「って、これだと確実に会えるって訳じゃないよな?」


俺は誰に問うでもないその問いを、宙へとはき出す。


彼女からの文面は簡単にするとこう、「今日会えるけど、何時になるかわからないから時間がわかったらLINEする」。これ最悪会えないよな。


「あいつの親は過保護な方だし、会えたとしてもそんなに時間はとれないか。」


その連絡が来るまでソワソワして過ごしそうだ。



さて、今回なぜ会うかというと、デートする為ではない。そんな直球に誘えるわけがない。


今回の目的は、表向きはあくまでも俺が遠出した時に買ったお土産のお菓子を渡すということだ。裏の目的はそこからあわよくば食事とかに行くってことなんだけど。


「会えるといいな……」


俺は外の様子を眺めながら小さな声でつぶやいた……





俺は、彼女から連絡が来るまでソワソワして仕方がなかったので、友達に連絡して適当な場所でだべっていた。


「へぇー今日あいつに会うんだ?」


友達は興味ありげに話す。友達は俺が彼女に気があることを知らない。信頼できるのだが、どうにも話す気になれない。これだけは誰にも知られてはいけないような気がしてならない。


「て言ってもお土産渡すだけだけどな。」


「てかあんたも気が利くよね。」


「お前へのお土産買おうかなって思ったら一緒に出てきただけだ。」


その後、彼女へ送るお土産をめちゃくちゃ悩んだのは内緒の話だ。


「私は行けないけど、会ったらよろしく言っといて。」


「あぁ、わかった。」


そろそろ切り上げようか……そんな空気になってきたところでスマホを確認する。


現在時刻は4時40分、未だに彼女からの連絡は来ていない。


どうしたんだろう……少しの不安感が頭の片隅に居座る。


「じゃあそろそろ行くな。」


「おぉ、じゃあね。」


友達はニカッと笑って送り出してくれる。


そうだ、待ち合わせ場所に行く前にLINE送っとこ。


『大丈夫?今日会えそう?』


ちゃんと彼女に送ったのを確認すると、待ち合わせ場所である駅へと向かう。確か外のベンチだっけ……


進む足取りは軽やかで、それでいて速い。早く会いたいと思ってしまっているのが自分でもわかった。


駅へと続く道路を、階段を軽々と通り、待ち合わせ場所に着く。


そこには数組のカップルがおり、全員幸せそうだった。


少しそういうことを意識してしまうが、ここからは小さいが綺麗なイルミネーションが見えるからいい場所のはず。


俺は空いてるベンチに腰掛けると、ポケットからスマホを取り出し彼女からの連絡を確認する。


「あっ……」


来ていた。通知欄にLINEのものがある。彼女からだ……


急いで確認するとそこには、

『今日会えないかもしれません。すみません!』


見ただけで絶望感を味わえる文があった。


会えない……か……


『わかった。じゃあ別の日にしよっか。』


俺はそう返信すると、ベンチから立ち上がり、その場を後にする。


帰ろう……後輩には今日だけしか会えないわけじゃないんだから。また別の日に会えればいいや。


帰るために駅の内部を歩く。すれ違うカップル、友達とはしゃぐ人、楽しそうに歩く家族、それらがこの場をキラキラと輝かせていた。


今この場で告白したら成功しそうな、それほどまでに熱を持っていた。


人の波を通過する。賑やかな声も、駅の放送も、カップルの甘い会話も……全てが右から左へと流れていった。



今日会えないからって終わるわけじゃない。このまましっかりと向き合えばいずれチャンスも来るさ。


頭ではそう考えていても……ふとした瞬間に湧いてくる。彼女が他の男と楽しそうに笑って食事して営んで……変なところまで考えすぎてしまう。別に俺は彼女の恋人でもないのに……


電車を待つ間、目の前にはいつも見る駅の側面があった。画用紙のようになにも書いていないせいか、色々考えてしまう。


イルミネーションや駅内の明るさ、果てにはこの寒さだって……彼女と一緒に味わいたかった。昨日じゃ駄目だし、明日じゃ駄目だ……今日じゃなきゃ意味がない。



それでも、俺は嘘をつく。別に、また機会はある、また会える。どうせだしイルミネーションの写真を撮って送ろうか。


愛しさと虚しさと悔しさを溜め込んだこの体は、これらをはき出すことなく自宅までの道を歩むのであった。




そしてまた俺は嘘をつく……

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白金有希 @Sirokane_yomiyomi

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