第11話 え!! 月曜日からこんな御馳走を!?

「今日の弁当はこんな感じです」


 先輩の連絡先を入手できた俺は、上機嫌で弁当箱を開き、先輩へと中身をお披露目ひろめする。とたん、先輩の喉から、「ほわぁ」と感嘆の吐息が漏れ、俺の耳を熱くさせた。


 今日のメインディッシュは、ミニハンバーグの群れ。

 サイドメニューはハッシュドポテト──ただしこれは市販の冷凍食品。

 彩りをよくするために、ほうれん草のおひたし、ミニトマト。あとは、毎度おなじみ、卵焼き。


「今日はハンバーグを食べてみませんか?」


 俺がそう言うと、弁当箱をうっとり見つめていた先輩は、はっとしたように顔をあげた。それから、まばたきしながら尋ねてくる。


「このハンバーグ、まさか朝から作ったの?」

「いえ、あらかじめ焼いたものを冷凍しておいたんです」


 今日のため、土曜日にはりきってたくさん仕込んでおいたのだ。


「冷凍なんてできるの?」

「意外と冷凍庫は万能ですよ。卵焼きや、からあげなんかも冷凍できますよ。凍ったまま入れておけば、保冷剤の代わりにもなりますし、昼時には自然解凍されて、食べ頃になります。今の時期はまだ涼しいんで、レンジで再加熱してから詰めてますけど」

「へ~ぇ」


 先輩は心底感心したような声を発してから、えへへと笑う。


「てっきりゴウくん、朝からハンバーグをねたのかと思って、いったい何時起きだったのかな~とか心配しちゃった」

「まさか~、朝からそんな面倒なことしませんよ」


 まあ実際、作りたてハンバーグを先輩にお届けするためなら、朝日より早く起きるのもやぶさかではない。

 でも、月曜日の朝っぱらからハンバーグを捏ねてたら、母ちゃんに不審がられちまうからな。


「先輩、割り箸を借りますね」

「うん」


 箸を割った俺は、弁当のふたに一番形のよいハンバーグを乗せた。それから、カップに入ったほうれん草のおひたしと、ハッシュドポテトも一つ添えた。

 蓋の上に、ミニハンバーグ御膳ごぜんが完成する。


「え、え? そんなにくれるの?」


 と、先輩は目を白黒させた。動揺する姿もかわいい。


「はい、そのつもりで多めに作ってきました。ちなみにこれ、約束のほうれん草のおひたしです。小松菜との違いを確かめてみてください」

「ありがとう……。ふわぁ、月曜日から御馳走ごちそうだぁ……」


 先輩の頬が赤く染まり、目元がとろんととろける。俺はそんな先輩の表情に釘付けになり、一瞬だけ呼吸をするのを忘れた。


「いただきまーす」


 先輩は箸で半分に割ったハンバーグをぱくっと口へ放り込む。咀嚼そしゃくのたびに先輩の表情がきらきらと輝きを増していき、俺をますます惹きつけた。


「手作りハンバーグなんて食べたの、すっごい久しぶりだよ~。香ばしくておいしい~。それに、玉ねぎたくさん入ってるね!」

「玉ねぎは粗めのみじん切りにして、食感を残すのが好きなんです。大丈夫ですか?」

「うん、甘くておいしいし、食べ応えがある! お店の味とはまたぜんぜん違って、いいね!」


 わーい、先輩の『いいね』をいただいた! 俺は内心で子供のようにはしゃぐ。口元にも自然と笑みが浮かぶけれど、過度にニヤニヤしないようつとめた。


 それから先輩はおひたしをつまんで、ゆっくりと噛みしめるように食べてくれた。


「あー、確かに、小松菜とほうれん草って全然味が違うね。ほうれん草の方が味にクセがあるかな。でも、おいしい!」

「おひたしも、砂糖を入れて甘めにしたり、ツナと和えたり、もやしを加えたり……いろいろアレンジできるんで、またぜひ食べてください」

「へぇぇ~」


 先輩の目がまん丸になり、強い期待感を示した。おひたしも冷凍できるし、基本的には前日の夕飯の残りを詰めればいいだけだから、いろいろ味を変えたものを作ってこようっと。


「ちなみにこれは、スーパーで売ってる冷凍食品です。すみません」


 先手を打ってハッシュドポテトの正体を明かすと、先輩はくすりと笑う。


「謝る必要なんてないのに~。市販品も活用しないと、お弁当作りは大変だよね」


 と、ハッシュドポテトも口へ放り込み、実にウマそうに頬を緩ませる。


 いつまでも先輩の幸せそうな顔を見ていたいけど、さすがにそれはキモイだろうから、俺も自分の食事を始めることにした。

 ミニハンバーグを頬張った俺の耳に、先輩のつぶやきが届く。


「うぅ、山盛り食べたい……」


 その願いを叶えてあげたいし、そのための方法を一つ提案することはできる。でも、口に出す度胸はなかった。

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